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生姜の入ったカレーとハシビロコウ

 大学時代に通った喫茶店がいくつかあった。多分一番よく行ったのが『カフェ・ド・ギャルソン』だった。

 落ち着いた感じの良い店で、紅茶の種類が随分豊富だった。自分には違いがわからなかったから、いつも名前を言いやすい『アフリカンジョイ』を注文していた。
 一方、食べ物のメニューは簡素で、トースト、サンドイッチ、カレーライスぐらいしかなかったと記憶している。
 カレーは随分美味かった。他のお客が「ここのカレーはねぇ、本当に美味いのだよ。家で真似しようとして色々やってみたのだけれど、再現できなくてね。生姜とか、色々入ってると思うと思うのだけれどね」と連れの女子に絶賛しているのを聞いて、なるほど確かによそより美味いと気が付いた。それまで自分の中ではカレーはすべて “美味いもの” で、美味い不味いの概念がなかったのである。

 ある時、飲み屋のカウンター席で隣に男女のお客が来て、女子の方がちらちらこちらを見た後で「いつもアフリカンジョイですよね」と言ってきた。ギャルソンの店員だった。
 一緒にいた彼が「淹れたてのコーヒーかどうかはミルクを入れたらわかるんですよ。淹れたてだとすぐに浮いてくるんです」と教えてくれた。後日家で試してみたら本当にすぐ浮いてきたのを覚えている。

 ギャルソンへは卒業後も時々行ったが、数年後に閉店して無人のAV屋になった。

 掛川の花鳥園で食べたバイキングのカレーが美味しかったと、妻が時折云う。ギャルソンのカレーと似ていたように思うけれど、何しろギャルソンの方は随分昔のことだからもうよくわからない。


よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。