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デッドライン、思惑

 学生時代にいくつかやったバンドからベストメンバーを集めて一緒に演ってみたいと、時々思う。もっとも、どう考えても各々が人間的に合わない人選なのと、もう連絡が取れない相手が大半だから、実現することはきっとない。
 それでも考えるだけならこちらの勝手だから、その時のセットリストを作っているAmazonミュージックのプレイリストにしている。

 大学時代に在籍していた音楽サークルでライブのリハーサルをやるというから、急いで会場へ行った。
 出演することにはなっていたけれど、開催日時を聞いていない。今日のリハーサルだって今日になって知った。そもそもバンドのメンバーも決まっていないのだから、リハーサル以前の問題である。
 とりあえず一人でステージに上がって、演るつもりの曲をスマホで流しておいた。これで何のリハーサルになるのだか一向判然しない。運営側はそれでひとまず納得したようだったが、自分は急に追い詰められたような心持ちになった。
 リハーサルは通常、本番当日にやるものである。この有様では間に合うはずがない。変なことをするよりも、「間に合いません」と詫びてキャンセルしておくべきだったと後悔した。

 ステージから見渡すと、客席で紀野が畜山ちくやま夫妻と何か話していた。紀野に相談すれば何とかなるような気がしたから、下りて行って割り込んだ。
「君、ライブ本番はいつだったかね?」
「え、本番て?」
「今リハをやったライブの本番さ。何しろ、まだメンバーも決まっていないのだからね。急がなければ間に合わないよ」
「まだ決まってないの?」
 信じられないといった様子である。
「そうなんだよ。ベースは柏さんに頼もうと思っているけれどね……」
「それは適任だと思うけど、やってくれるか知ら?」
 自分としては、柏さんを引き入れれば紀野がボーカルで入りたがるだろうと思っていたが、どうも紀野は一向そんな素振りを見せない。
 そのうちに畜山夫妻が娘さんの入試の話をし始めて、自分は愈々いよいよ追い詰められた心持ちがした。

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