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偽警官

 あんまり堂々書くことではないけれど、昔は車に乗ってもあんまりシートベルトを使わなかった。

 ある時、車で帰省した帰りに変なおじさんが物陰から飛び出した。
 警官のようななりをしているが、何だか感じが違う。ちょうど警官の制服が青っぽいのに変わった時分だったが、おじさんは全体に黒っぽいのである。
 これはきっと警官を模した警備員だろうと思って走り去ろうとしたら、おじさんがピーピーと笛を吹いてきたから驚いた。
 笛を吹く警備員は見たことがない。ことによると警官だったかも知れない。念のために止まってみたら、果たして警官だという。

「え、お巡りさん?」
「はい。シートベルト着用義務違反です」
「……」

 どうも偽警官のように思えてならないが、先方はそんなことを気にする様子もなく、違反切符に必要事項をさらさら書きつけて差し出した。
「はい、それじゃ内容確認して、間違いがなければ署名してください」
 そう言われたって、やっぱり偽物のような心持ちがしていけない。偽警官が何を偉そうにと、胸中は穏やかでない。しかし、そんなことを思っていたってどうにも埒があかない。
「お巡りさんですよね?」
「そうですよ?」
 何を今さら、といった様子である。
「服、違わないですか?」
「あ、新しいのが間に合ってないんですよ」
 そう言って、曖昧に笑う。
 何だかいよいよ胡散くさいが、どうせ偽物なら署名したってその場だけのことだろうと思い直して、一筆書いてやった。
 すると本当に減点されたから、やっぱり本物だったのだろう。

 それからも幾度かシートベルト不使用のかどで止められて、数年後にとうとうベルトを使うことに決めた。

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