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眼鏡を貶す

 PCの画面が見づらい。輝度を上げてもやっぱり見づらい。それで眼鏡を替えたらはっきり見えたので、眼鏡のせいだとわかった。
 二十年近く使ってきた物で、レンズに小傷がつきすぎて随分見づらくなったのである。
 そんなに長く使っていたならいかにも気に入っていそうなものだけれど、持っている中で一番癖がないからメインに使っているので、特に気に入っているわけではない。これといった特徴のない金属フレームで、焦茶色の塗装がしてある。 
 昔、初めて使った眼鏡もフレームはこんな色だった。

 中学生の時、古元が急に眼鏡を持って来た。変哲のない銀縁眼鏡だった。
 自分と友田と中里が目ざとく見付けて、「お前が眼鏡掛けるんか」「ちょっと掛けてみぃや」「似合わんわ〜」と口々に囃し立てたら、古元は意地になり、「掛けん」と言い出した。
 眼鏡の話はそれで終わったけれど、授業の間に見たらやっぱり掛けていた。
「掛けとるじゃないか」と言ったら、「当たり前じゃ」と返ってきた。

 それからじきに、自分も眼鏡を使うことになった。市内の眼鏡屋へ行って、古元と同じでは芸がないから、焦茶色の金属フレームを選んだ。

 それを学校へ持って行くと、果たして古元が囃しに来た。
「お前が眼鏡掛けるんか」「似合わんわぁ」「ぶっ」と、前にこちらが言った事を一通り言い返して、今度は「何で茶色なんや」「その色はない」と、執拗に色を批判し始める。
 しかしこちらは何と云われたって銀色より茶色の方が良いと思っているから、一向刺さらない。
「お前、茶色のが羨ましいんじゃろ?」
「いや、別に羨ましうないよ」

 数日後に、古元は眼鏡のフレームを油性マジックで茶色に塗って来た。
「お前、マジックで塗ったんか」と問うたら、古元は「後悔しとる」と言った。


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