百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネッ…

百裕(ひゃく・ひろし)

日常をそれっぽく書いてます。 国文学科卒業→外食チェーンの店長→人材派遣屋の営業→ネットでものを売る人→なんか営業。 まとまりのない人生を送ってきました。 大名古屋在住の広島っ子。心の故郷は横浜。

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記事一覧

固定された記事

牛おばさん

 にぎやかだと思ったら近所で祭りをやっていた。この土地に住み始めて10年になるが、こんな近くで祭りをやっているなんて知らなかった。ひょっとしたら今年から祭り会場が…

蛙おばさん

 家の周りに田圃が多いから、近頃は夜寝ようとすると、外から蛙の声が随分聞こえる。  蛙という生き物は気持ち悪くて好きじゃないが、夏の夜に蛙の合唱を聞くのは好きだ…

後悔

 近頃、社内の別オフィス間を行ったり来たりが多い。  先日も朝はAオフィスへ出社して、じきにトミーとBオフィスへ移動した。車で小一時間かかる距離なので、どうも時間…

忘れられない菓子

 小三の時、隣の校区まで松岡と福田と自転車で遠乗りした。校区外へ子供だけで出ることは禁止されていたから、随分どきどきしたのを覚えている。  福田と自分は、現地の…

存在の痕跡

 高校時代に通った塾で、古文の先生がある時「本屋の参考書は、自分の本ぐらいに思ってどんどん読んだらいいんだ」と随分乱暴なことを言い出した。知識を得ることに、もっ…

防犯、格好いい先輩

 娘が、小学校から使っている防犯ブザーを直してくれと持って来た。試しに鳴らそうとしたら音が出なかったのだそうだ。   自分が子供だった頃には防犯ブザーなんて誰も…

ショッピングモール、旧友

 ショッピングモールの楽器店へ行くと、スタッフが店内の一区画で機材をセッティングしている。これからアマチュアバンドがスタジオライブを始めるらしい。  ちょうどい…

犬と戯れる

 どうかしたはずみに、人から仔犬を預かることになった。先方ではくれるというのを、飼えるかどうか暫く試しに預かってみることにしたのである。  犬を入れる箱がないか…

体調を崩して寝てます。また明日、

土産、蛙、家紋

 帰省先から名古屋へ戻る途中、高速道路のサービスエリアに寄ったら、娘が友達への土産にキーホルダーを物色し始めた。広島のご当地物をペアで買いたいのだそうだ。  残…

雨、ドキンちゃん

 ゆえあって電車通勤に切り替えたら、早速雨が降った。自宅から駅まで歩きで三十分ほどの距離だから、少しばかりどんよりしたけれど、どんよりしているばかりでは何も変わ…

レシピ

 十九の時、学生寮の中を宮内と二人でギターを提げて、『笑点』のテーマを演奏して回った。まずは食堂で流し、誰もいなければ誰かの部屋まで押しかけて演奏した。ズボンの…

存在の証、混乱

 ゴールデンウィーク連休で娘を連れて帰省した。  娘がどこかへ出かけるよりも祖父さん祖母さんと家で過ごしたいと云うので、ちょっと買い物へ出た以外はずっと実家にい…

自由と孤独

 再び学生寮で世話になる事になった時の話。  三人の寮母さんは退去時からそのまま変わっておらず、「あんた、もうわかるな」と云って案内を端折った。  部屋の様子も相…

準備しない

 随分以前、休日に神保町へ行った。有名な古書店街へ行って見ようと思ったのである。  わくわくしながら電車を下りて、改札を出た。改札の前には新本屋があるばかりで、…

病、知識欲

 二十歳になって間もない頃、夜中に腹痛で目が覚めた。  もっとも、痛いには痛いが大したことはない。一度寝て起きたら治るだろうと思ってまた寝た。  するとじきに、ま…

固定された記事

牛おばさん

 にぎやかだと思ったら近所で祭りをやっていた。この土地に住み始めて10年になるが、こんな近くで祭りをやっているなんて知らなかった。ひょっとしたら今年から祭り会場が変わったのかもしれない。  考えてみれば、地域の祭りなんて中学時代以来行っていない。ちょっと覗いてみようかと思ったけれど、たまたま長く住んでいるだけで自治会にも入っていない “よそ者” がふらりと現れて、「君ぃ、わた菓子を売ってくれたまえ。金ならあるぜ」とやった場合、「おい、あの見慣れない顔は一体どこのどいつだい?

蛙おばさん

 家の周りに田圃が多いから、近頃は夜寝ようとすると、外から蛙の声が随分聞こえる。  蛙という生き物は気持ち悪くて好きじゃないが、夏の夜に蛙の合唱を聞くのは好きだ。郷里の家も寝る時には賑やかに聞こえていたから、何だか幼い頃に戻ったような不思議な心持ちになる。そうして人生の最後についてぼんやりと思いを巡らせる。  気付いたら子供に戻っていて、日が暮れるまで外で長田や飯田やヨシコさんと遊び、晩ごはんの後で風呂に入り、両親が隣の部屋で話しているのを聞きながら、眠りに落ちる。窓の外から

後悔

 近頃、社内の別オフィス間を行ったり来たりが多い。  先日も朝はAオフィスへ出社して、じきにトミーとBオフィスへ移動した。車で小一時間かかる距離なので、どうも時間が勿体ないが、どちらへも用事があるのだからしようがない。  運転しながらトミーが「百さん、昼、ちょっと早めにラーメン食って行きませんか?」と言った。時計を見ると11時過ぎである。 「昨日の店、リベンジしたいんですよ。この時間だったらまだ並んでないと思うんで」  前日にも移動中にラーメン屋へ寄ったのだけれど、随分な行

忘れられない菓子

 小三の時、隣の校区まで松岡と福田と自転車で遠乗りした。校区外へ子供だけで出ることは禁止されていたから、随分どきどきしたのを覚えている。  福田と自分は、現地の子供らに見つかって絡まれたら先に叩きのめそうと決めていたけれど、松岡はそんなことは考えもしないようだった。  全体どこまでが校区内だったか判然しないが、延々走って行ったら隣の小学校近辺に出た。当時は初詣の時ぐらいしか足を踏み入れなかったエリアである。  いつどこから「こらぁ!」と怒られるか、或いは「お前ら、第三小じゃ

存在の痕跡

 高校時代に通った塾で、古文の先生がある時「本屋の参考書は、自分の本ぐらいに思ってどんどん読んだらいいんだ」と随分乱暴なことを言い出した。知識を得ることに、もっと貪欲になれということだったろうと思う。  生徒らが「えぇ!」と云ったら、「何なら名前も書いたらいい」と愈々無茶を言う。これもきっと、そのぐらいのつもりでいけということで、本当に書けという意味ではなかったろう。  先生がそう云うのならと、その日から塾帰りに駅前の本屋で片っ端から参考書をぱらぱらやり始めた。さすがに名前

防犯、格好いい先輩

 娘が、小学校から使っている防犯ブザーを直してくれと持って来た。試しに鳴らそうとしたら音が出なかったのだそうだ。   自分が子供だった頃には防犯ブザーなんて誰も持っていなかったけれど、今はみんなが持っている。時代が進んで悪いやつが増えたのかと思ったけれど、悪いやつをメシのタネにする人が増えたのかも知れない。  小学生の時分に近くの公園で連れ去り未遂があった。隣家のお姉さんが謎の男に腕を引っ張られたのである。友達も一緒になって手を振りほどき、家まで走って逃げ帰ったそうだ。

ショッピングモール、旧友

 ショッピングモールの楽器店へ行くと、スタッフが店内の一区画で機材をセッティングしている。これからアマチュアバンドがスタジオライブを始めるらしい。  ちょうどいいタイミングなので少し待って観てみたら、チャラい容姿の若者らが現れて、ニルヴァーナの曲を演奏しながらピョンピョン飛び跳ねだした。  お世辞にも上手くない。聴いている方が恥ずかしくなるタイプのやつで、ずっと観続ける義理もないからじきに退出した。  楽器店を出たところで、「百君」と後ろから呼ぶ人がある。振り返るとじゃがい

犬と戯れる

 どうかしたはずみに、人から仔犬を預かることになった。先方ではくれるというのを、飼えるかどうか暫く試しに預かってみることにしたのである。  犬を入れる箱がないからタオルに包んでカバンに入れた。そうして電車に乗って帰ってきたけれど、自分は体調不良でそのまま寝込んでしまった。  翌日、熱が高いようだから、行きつけの医院で検査をしてもらった。以前コロナにかかった時もそうだったけれど、別室で随分待たされる。待つ間に座っているのも辛いから、勝手にベッドに寝ていようかと思ったが、オオゴト

体調を崩して寝てます。また明日、

土産、蛙、家紋

 帰省先から名古屋へ戻る途中、高速道路のサービスエリアに寄ったら、娘が友達への土産にキーホルダーを物色し始めた。広島のご当地物をペアで買いたいのだそうだ。  残念ながらその店にはあんまりいいのがなかったから、次のサービスエリアにも寄ってくれと云う。それで次も寄ったが、やっぱり目ぼしいのがない。そのうちに広島県を出てしまった。  自分は娘の横でキラキラしたキーホルダーを眺めながら、昔もらった土産のことを思い出していた。  子供の頃、蛙のキーホルダーをもらった。仕事の都合で中国

雨、ドキンちゃん

 ゆえあって電車通勤に切り替えたら、早速雨が降った。自宅から駅まで歩きで三十分ほどの距離だから、少しばかりどんよりしたけれど、どんよりしているばかりでは何も変わらない。  意を決し、傘を差して出たら、ものの五分でスボンがびっしょり濡れた。それで愈々嫌になった。  昔、休みの日に商店街の楽器店へ行く用事があった。この時もあいにくの雨だった。その時分には車を所有していたけれど、借りた駐車場が家から遠く、またこれから行こうとする店の周りに車を停められる場所がない。だから歩いて行く

レシピ

 十九の時、学生寮の中を宮内と二人でギターを提げて、『笑点』のテーマを演奏して回った。まずは食堂で流し、誰もいなければ誰かの部屋まで押しかけて演奏した。ズボンの裾を捲って風呂まで入って行ったこともあるが、これは先輩に怒られたから止した。  ひとしきり回った後は、食堂の自販機でカップヌードルを買って食った。  ある時、先に買おうとすると「俺はシーフードにするからお前はカレーにしろ」と宮内が言ってきた。普通のカップヌードルが売り切れていて、シーフードまでが切れるのを恐れたらしい。

存在の証、混乱

 ゴールデンウィーク連休で娘を連れて帰省した。  娘がどこかへ出かけるよりも祖父さん祖母さんと家で過ごしたいと云うので、ちょっと買い物へ出た以外はずっと実家にいた。  近所に新しくできたカフェで食事をしながら、母が、伯父さんのお墓参りに行ってきたのだと写真を見せてくれた。  この伯父と云うのは母の妹の旦那さんである。やっぱり元は広島の人なのが、随分以前に仕事の都合で東京へ移住して、先年亡くなった。  出棺の際に広島カープの歌で送り出したと聞いたけれど、お墓は広島でなく東京に

自由と孤独

 再び学生寮で世話になる事になった時の話。  三人の寮母さんは退去時からそのまま変わっておらず、「あんた、もうわかるな」と云って案内を端折った。  部屋の様子も相変わらずだったけれど、周りの顔ぶれは随分変わっていて、懐かしい反面、一人で後戻りしたような焦りも感じた。  戻って三日目ぐらいに、風呂で岩田君と出くわした。岩田君は退去前から面識のあった数少ない寮生である。 「百さん、ちょっといいですか?」 「ん?」 「ラブのこと、聞いてます?」 「何だそれは?」  ラブとは、木田

準備しない

 随分以前、休日に神保町へ行った。有名な古書店街へ行って見ようと思ったのである。  わくわくしながら電車を下りて、改札を出た。改札の前には新本屋があるばかりで、肝心の古書店街がどこにあるのかわからない。  迂闊だったと、ここに至って気が付いた。全体、神保町の駅を出たらそこら中が古書店だらけなのだろうと勝手に思っていたので、実際はそういうわけでもないらしい。  まだスマホどころかiモードもない時代で、道行く人に訊くようなコミュ力は持ち合わせない。  結局駅前の新本屋で村上春樹の

病、知識欲

 二十歳になって間もない頃、夜中に腹痛で目が覚めた。  もっとも、痛いには痛いが大したことはない。一度寝て起きたら治るだろうと思ってまた寝た。  するとじきに、また目が覚めた。今度は先刻よりも痛むようである。それから朝までうとうとしながら、痛みに耐えていた。  ちょうど日曜で、病院は休みである。どうしようと思ったら、学生寮の先輩が休日診療所の場所を教えてくれた。隣の駅近くだった。  では行ってきますと云って、体を「く」の字に曲げながら電車に乗って行った。もうこの時点では真っ直