全部、愛。

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あさひがのぼるまえに。9

何かを始めるときは何かを捨てなければいけないというが、それは本当なのだろうか。笑いあうために、ごめんねに込めたありがとうのように、幸いきれいなままで終わっているものでもいいのではないだろうか。信じられるのであれば、辛抱して僕はあいまいさのままでこの世界を去りたいと思っている。きっと、そんなことすらかなわない世の中だからこそ、僕が見つめる景色の中で君が輝いているんだろう。 あれから1か月が経過した。経年の年月のごとく、目がくらんでしまうような忙しい日々だったが、何とか生きてい

    • ぬぎっぱなしの色。8

      その日の夜は二人でマックに行った。新橋に賃貸を借りている俺らはよく二人でマックに行って本を読み漁る時間を作っている。お互いほとんど何も話さないで2時間ぐらい。この時間がなんとも言えない幸せで、信二と心が通っている感じがして好きなのだ。 笑顔の数だけ成長できるのだとしたら、俺は信二とずっと一緒にいたい。信二がいなくなるなら俺もいなくなるし、俺がいなくなるなら信二も連れていく。頭ではわかっていても、心が追いつかない時も体が追いつかない時もある。性欲がないと言えば嘘になるが、そう

      • あさひがのぼるまえに。8

        自分以外のなにものかが何かをねだっていたとする。それが自分が大切にしたいものだとする。君といたいことを優先するか、それとも心臓を差し出すか、答えは二者択一ではないことは、知らされてはいけない生身の隠れステージである。 実力を発揮しきる前に、自分が一番できないことが降ってくると言う。それに飛び付けるかが人生の分かれ道だと言うが、それもそれでわからない気がしている。 普段は何気ない一言が、いつもよりも重く感じるときがある。重圧に負けて人生を投げ出したくなることもあるが、それで

        • ぬぎっぱなしの色。7

          自分から書き始めるのはなんだかくすぐったい気持ちもあるが、今日はここに綴りたい気分なのだ。俺は信二、彰人と同棲をはじめてから一年がたとうとしているが、なんだか最近の彰人は道に迷っていると言うか、世間からの悲鳴をもろに聞いてしまっていると言うか、なんだか救いたいけれども救えない状態が続いていることは確かだ。 抱いてお願いといわれても自分は拒まないつもりでいた。付き合いを始めた当初は戸惑いもあったが、彰人と過ごす日々はなんだか暖かくて自分でも信じられないぐらい安心していることは

        あさひがのぼるまえに。9

        マガジン

        • うみのあそびのなんだかんだ生きているんだから
          17本
        • うみのあそびの詩集
          3本

        記事

          あさひがのぼるまえに。7

          トボトボと歩く背中には、羽が生えているのかすら自分ではわからない。結局は自分なんて自分では何もわからないのかとため息を付きながら、今日も出勤している。みのりとは仲直りできたけど、それはそれ、これはこれだ。自分の中にある黒いもやもやは消える気配もないまま、今日も憂鬱に会社に向かう。 人生が八分目でいいとしたら、この世界は何処まで作り上げているのだろうか。この星で願い続けていたきらめく景色に飛び込むことができたのなら、孤独な世界でひとり願うことに時間を使うのに。誰かが選んだ世界

          あさひがのぼるまえに。7

          ぬぎっぱなしの色。6

          その日の午後は蛭谷と飯に行った。こいつと昼飯に行くなんて、俺もだいぶ丸くなったなって思う。前なんて人間拒否が強すぎて、思い隠すときが多かったから、本当の姿など見る影もない。 この目でこの腕で、いろいろなことを体験することはできないから、形がわかるまで初めて出会うときがないといえば嘘になるだろう。耳を澄ましてまで聞くほどの声ではないけれど、安心という言葉では言い表せない物語が、やっぱり信二にはあるんだと感じるんだ。 「うんめぇなこの油そば!!うんめぇうんめぇ。」 「大げさ

          ぬぎっぱなしの色。6

          あさひがのぼるまえに。6

          一人の帰りはやっぱり寂しい。耳が消されても俺の存在は消えないのだから、甘えたところで何も生まれないのはわかっているけど、お分かりじゃないこの世間と目線を合わせなきゃいけないのが辛い。夜はこれからと思いたいが、俺は塗り重ねたこの時間が余計に辛い。 約束なんてできないのに、俺はみのりとの将来に期待してしまっている自分がいる。愛の類じゃないのはわかっているけど、やっぱり好きなことは確かなんだ。細かい男じゃないのはわかってるし、なんにもできないし意固地で優柔不断で世間に順応できない

          あさひがのぼるまえに。6

          ぬぎっぱなしの色。5

          「お、今日はパジャマじゃない。」 「俺をなんだと思ってんだよ。昨日も別にパジャマじゃないし〜。」 「うそつけ、昨日はパジャマだっただろ。」 蛭谷匠海(ひるやたくみ)、同じゼミで隣の席。うちのゼミはいわゆるガチゼミの部類で、週に4日、1限から授業がある。大半朝はこいつと過ごすから、もう慣れた。蛭谷にはなんの感情もわかないが、なんの感情もわかないぐらいのやつじゃないと朝は一緒にいたくないからまぁ良かったと思う。バイなことはこいつには言ってない。 「あ、そいえばさ、蛭谷って

          ぬぎっぱなしの色。5

          あさひがのぼるまえに。5

          「御社の採用の問題点としては、やはり集客面にあると考えております。御三家の大学により手早くアプローチするためにも、わたしたちのサービスを、、、」 「なに?また営業の電話?うちなら間に合ってるからいいよ。ブチッ」 「はぁ、、、。」 振り替えり征く術をなくした天使は、幸せの定義を何と言うのだろう。風が詠うのは辺鄙な西洋史か、心が見出すのは宇宙の正解か。信じられないほど堕落したこの世界で、綺羅びやかに熙るのは明日だけなのに。俺は今日も同じような日々を繰り返している。 「石上

          あさひがのぼるまえに。5

          ぬぎっぱなしの色。4

          「うっわー、久しぶりだな芝生書店。こんなにも世界で跳ねているかのように並んでいる本がたまらないんだよなー。」 「彰人、珍しくテンション上がってんじゃん。温度高まってるのなんて珍しいね。まー彰人は本が本当に好きだもんなー。」 「そりゃな、俺には文学しか生きる道はないと思ってるぐらいだからな。何もかも遠い時期に、救ってくれたのが本だったんだ。」 「へー、その話初めて聞くなあ。」 眩しくて眩しくて、世界の明かりが強すぎて生きるのが辛い時期があった。青いマグマのようなものが押

          ぬぎっぱなしの色。4

          あさひがのぼるまえに。4

          「おはよ、今日は休みだよね。」 「ああ、そう。土曜日だしな、どっかいく?」 「うん、いく。」 「どこがいい?最近あんまりリフレッシュできてないから、うまいもんでも食べに行きたいよな。」 「丸ビルでイタリアン食べたい。とびきり美味しいやつ。」 「お、いいね、いくか。でもまだ朝なんだよな。昼まで何するか。」 「この前買ったワンピースのゲームでもやろうよ。ほら、プレステの。」 「あー全然手付けられてないやつだ。やるかー。ちょ、その前に朝飯食べたい。なんかある?」 「

          あさひがのぼるまえに。4

          ぬぎっぱなしの色。3

          「ごめん、お待たせー。」 「いやいや、待ってない待ってない。信二はいつも時間通りに来るから、なんなら俺が今日は珍しく早かっただけだし。」 「あっはは、それでもなんだか感謝したい気分だったんだよ。ん、感謝?いや、なんだろうこの感覚は。」 「あーはいはい、始まりました信二の思考力パラダイス。もういいって。んで、新しい靴ってのはどこに買いに行くんだよ。」 「せっかく久しぶりの出かけなんだから、ちょっとぐらい思考させろよな。お前といるんだし、それぐらい。ああ、靴は普通にDEF

          ぬぎっぱなしの色。3

          あさひがのぼるまえに。3

          結局仕事が終わったのは23時。恵比寿から最寄りの横浜までは電車で1時間ぐらいかかるから、帰りの電車の中でも色々と考えてしまう。もう少しだけ自分と出会うのが早かったら、なんてことを考えてしまうが、無理もない。 澤田みのり。今更愛さないなんて無理なぐらい、自分には欠かせない存在であるが故に、帰りの罪悪感も重厚にのしかかってくる。みのりと出会ったのは大学一年生の時の選択授業。やっぱり何度見ても可愛いから仕方ない。初めて勇気を出して話しかけたのを今でも覚えている。楽観的で天真爛漫な

          あさひがのぼるまえに。3

          ぬぎっぱなしの色。2

          旅は好きだ。春の空に匂いがするとはこういうことで、学校から出た時の光はまるで日本料理に出てくる伊勢海老みたいな感じだと思う。夜空の顔は狭いけれど、信じられないぐらい暗い夜も待たないことは確かだ。 「お、田中じゃん。」 「ゲッ。」 「ちょうど良かった、今日さ、新歓のコンパ一年生のために昼からやらなきゃ行けなくてさ、ちょっと人足りないからきてくんね?ほら、例のめっちゃくちゃ可愛い一年生も来るらしいからさ。」 「無理無理。もう一生のお願いならこの前聞いただろ。俺はこのあと予

          ぬぎっぱなしの色。2

          ぬぎっぱなしの色。1

          笑い合っているだけでも幸せだったんだろうか。俺たちはなんで二人でこんなところに来てしまったのだろう。どうして君のことを思うと唇がなんだか暑くなるんだろう。峠に立つ二人のことを、猫が泣いて見ている気がした。 「おい、おい、おい!!!」 「あ、夢か。」 「なんだよ、また変な夢見てたのかよ。もう8時20分だぞ。お前学校9時からだろ。間に合うのかよ。」 「余裕余裕、パジャマで行けばいいし。一限だけだし。」 「ほんとテキトーだな。まあいいけど。俺はもう行くわ。今日こそは新品の

          ぬぎっぱなしの色。1

          あさひがのぼるまえに。2

          「あのさ〜、あんまり変なことしないでもらえるかな?そうやっていつもちんたらしてるから、彼女さんに愛想つかされんじゃないの、全く。」 「すみません、次回からは気をつけます。あの、来週の花園ビギン様との商談資料なのですが、こちらも間に合っていなくて、、、。」 「それ、今日までに絶対終わらせてよ、私だって上に挟まれてんだから、気持ちぐらいわかってよね。早めにやらなかったあなたが悪いんでしょ。あーあ、今日も残業確定ね、可哀想に。」 俺が働いていたのはアワーサイドという人材系の会

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