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「手続き」が好き

 

 人が何と言おうと、相変わらず煙草は吸い続けている。

 ただし、この所……ちょっと物足りないのだ。
 理由は判っている。ライターオイルが倍近くも値が上がって、ちょっと手が出せなくなってしまったのだ。
 愛用だったZippoの「アーマー」も埃を被って、どこか悲しげに見える。

 そう。やはり煙草はオイルライターのヤスリを……僕の場合は左手の親指で回転させ、一度、二度、着火しないこともあるが、これも一興とニンマリしつつ煙草を楽しむ。
 何の事はないのだが、この「手続き」がないと……どうも、喫煙の楽しみが半減してしまうのだ。
 馴染のたばこ屋で貰う使い捨てのガスライターはいくつも手元にあるのだが、何とも味気ない。そこには単に、火を付けるという目的以上のふぜいがない。

 思えば、僕は昔から、何かを始めるに当たっての「手続き」というのが好きだった。
絵を描いていた時は、まず鉛筆を削る。もちろんナイフを使ってである。鉛筆削りなど、金輪際使った試しはない。
 小説で原稿用紙に向かっていた時は、取り合えず万年筆にインクを充填する。間違っても、ボールペンでは文章を綴る気にはなれなかったものだ。

 コーヒーにハマっていた時も、マシンは使わず……ハリオのドリッパーでじっくりドリップする。もちろん、マメを自分好みに粉砕するのも、大事な「手続き」であった。

 ギターを弾く時も、弦の張り替えという「手続き」は大好きである。

 要は、安直簡便に、物事をサッと始めるのが苦手なのだ。

 バイトなどでも、仕事に入る前の、……まあ、これは多分にサボりの要素が入るが、スイッチを入れたロボットみたいに動き出すことが好きになれない。

 ところが近頃……この「手続き」を省略しているように思える。

 もとより、世の一般の人は、物事は手際よくサッサッと始めるのを是とする向きがあって……僕の手続きを「グズ」と捕らえるかも知れない。

 しかし、「グズ」の要素が減っているからと……喜べない。

 自己弁護めいてもいるが……ちょっと「ゆとり」を失っているようにも思えるのだ。

 煙草は使い捨てライターで、万年筆よりついボールペンを、ドリップの代わりにインスタントコーヒー……

 無意識のうちに、原因よりも結果に重きを置いているらしい。

 反省した。結果というものは、原因であるところの、「胎動」を軽く見ては、本末転倒だろう。
 「胎動」こそ、「ゆとり」であり「手続き」であると思い直してみれば……まずは、オイルライターから始め、ドリップコーヒー……そして、バイトも、「グズ」の真骨頂、大いにサボりたいと考えている。

 ちなみに、ライターオイルは我慢できず、昨日ネットで注文した……

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