銀騎士カート
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【恋愛小説】 紫水晶 (アメシスト) 17章・18章
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俺としてもこのあたりになると、何をか言わんや……屋根裏で埃に塗れていたオルゴールを開けたような、黴臭い気恥ずかしさを覚える。
そう言えば、奴がエレベーターの中で偶然出くわしたという大神専務に誘われて、昼食をご馳走になったのもその頃のことだ。どうやら、りん子のことでも考えて、一人ニタついていたのをからかわれたらしい。奴自身のどぎまぎする様子が目に見えるよ
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 15章・16章
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オルぺウスごっこの終着点がL'amore……「愛」とは、ドジの道行きも案外洒落ているようだ。ここは一つ、奴の手口を拝借するのも一興だろう。そう。オルぺウスの神話でまずは女の子をロマンチックな気分に引きずり込む。相手のおんなはもとよりエウリュディケーの見立てだ。俺が先にたち、繁華街を横道にそれる。ここは自信を持って、絶対に振り向いてはいけないのだ。やがて、人
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 13章・14章
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奴のおのろけに居眠りが出たせいか、もう少しで乗り越すところだ。慌てて閉まりかけた扉を擦り抜け、階段を駆け降り、改札を渡っていつもの地下街に踏み込んだ。
とたん、俺は思わず立ち止まってしまった。そう。毎日通い慣れ、日常がラベルのように貼りついた地下街が、なぜか存在感の削ぎ取られた夢の世界のように感じられたからだ。普段とは違う時間帯のせいだろうか。相変わらずの
【恋愛小説】紫水晶(アメシスト) 11章・12章
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奴自身、てっきりりん子にリードされて鼻の下を伸ばしているように思えるが、奴もさすがそれだけで満足はしていなかった。仕事に於て、反デジタルの旗手よろしく、鋭い奇抜な企画をびしびしと出し始めたのだ。
その一つの主張として、奴は手作りの野球盤というのを持ち込んできた。内向的なこども時代におびただしいプラモデルを作ったという経験
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 9章・10章
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どうやら奴の話から察すると、りん子の方も奴に惚れているというか、かなりはっきりと結婚を意識しているように思えた。いささか早急の気がしないでもないが、さだめて奴が無意識の裡に送り続けた熱い視線が伏線になっていたのだろう。
俺なら、おんなからそんな予約された商品のように見られて付き合うなんぞ、ムシズが走る。これでは推理小説を終章から読むに似て、男とおんなのゲ
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 7章・8章
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奴は鈍感で、気がついたのは後になってのことだろうが、要するにりん子の方も奴に気があったということだろう。そんなコトとは露知らず、奴は半年間で確実に何キロか体重を減らしたのだから始末におえない。もちろん、かかる苦行あればこそ、りん子と知り合えた当日が人生最高の一頁であったことに間違いはない。
おっと、いつのまにか乗換駅だ。急ぎ足にエスカレーターを駆け上がり、通
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 5章・6章
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俺は奴からこの話を聞かされた時、正直言って腹を抱えて笑い転げてしまった。どこぞ深窓のご令嬢でもあるまいに、気楽に「ハーイ」と声を掛ければ済むものを。
どだいおんなという生き物は、いつだって男に声を掛けられるのを待っているものだ。笑顔で応えてくれたらラッキー……そっぽを向かれても、男たるもの、いくらでも捨て台詞のバリエーションは用意しているはずだ。
しかし、考
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 3章・4章
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なに、要するに奴はインディアンの戦士に己れを準えようとしたらしい。愛の戦士。いかにも奴の考えそうな小児的発想だが、ま、俺に言わせれば奴は戦士どころか、情けなや「恋の奴」というわけだ。事実、奴が信じるほどに得難い美女とは思えない。胸も低いし、足にしても脚線美とはお世辞にも言い兼ねる。己れの美意識よりも、見栄のために周囲の目を意識するのが現代人の流行とあってみれば、
【恋愛小説】 紫水晶(アメシスト) 1話、2話
紫水晶(アメシスト) あらすじ
玩具メーカーに勤める至(いたる)青年は、何事にも自信の持てぬ人間であったが、女子事務員りん子に思いを寄せることで、積極的に生きることに目覚める。デジタル全盛である時代に逆らい、アナログ的思考を以て社内で頭角を現す。
一方、デジタルの急先鋒でもある専務の大神は、幼少期の忘れ得ぬ少女の面影を、古風のふぜいを宿すりん子に投影、無理心中を計る。至青年は、鏡の中