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愛を量る(ショートストーリー)

「深い愛をご主人から貰えるのは猫より犬の方だな」
犬は自慢げに言う。

「そうかな?」
猫は意味ありげに笑った。ついでに小さく鼻を鳴らす。

「飼い主に溢れるほどの愛を捧げるのも犬さ」

「では、自分は二の次なのか?自分の人生なのに?」

「そうさ、そうすればご主人も大きな愛を返してくださる。喜びさ」

「私のご主人は、いつも私の愛を欲しがるが、私は気まぐれにしか添わない」
猫は尻尾を立てて、どこが得意げだ。
「ご主人の愛は、チュールの数でわかる」
猫は歩き出し、振り向きざまにそう言い残し去った。

犬は思う。
人間は猫の為に、せっせとチュールを購入する。どうなんだろう。チュールの数で愛が量れるのか?猫が可愛いからと言うより……。やめておこう。犬の愛は大きいのだから。

でも、御主人の犬への愛はどうやって量ればいいのだろう。犬用のチュールもあるらしい。ご主人は買ってくれた事は一度も無いが……。無いが……。

ところで、人間はどんなふうにして愛を量るのかな。
人間用のチュールがあるのかな。そうかもしれない。人間は猫のチュールの前に、人間用のチュールを作ったはずだよね。ボクのご主人は多分食べた事は無いと思う。ご主人は、きっと誰からもチュールをもらったことが無いんだな。それなら僕も我慢しなくちゃね。
やっぱり、御主人とボクは強い絆で結ばれているんだ。

その時、さっきの猫が尻尾を立ててやって来た。チュールの匂いを振りまきながら。
犬は黙って猫を見送った。チュールの匂いは、しばらく漂った。
犬は次に生まれ変われるなら、猫が良いなあと思うのだった。



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