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風薫る シロクマ文芸部

風薫る……、って何でしたかね。遠い昔に聞いたような、口にしたような。もうすでにたくさんの言葉を私は忘れてしまったのです。
長い冬が終わり、春がやって来たのね。桜は咲いたのかしら?気づかなかったけれど、いつの間に?

今日は暑いくらいだわ、ねえエミちゃん。
え?あなたエミちゃんじゃないの?そうなの、エミちゃんはあなたのママ?
そうだったかしら。ではあなたは誰?
カナちゃん?そうなのね。ごめんなさいね。
あなたが食べているアイスクリーム美味しそうね。
あ、ありがとう。嬉しい。
フフっ、美味しいわね。

ところで、タカシさんは何処に行ったのかしら?最近見ないのよ。旅行だったかしら。あなた知ってる?
そう、当分帰らないのね。きっとお土産たくさん買ってくれてるわよね。楽しみにしていましょうね。


「ねえママ、おばあちゃんは、おじいちゃんが亡くなった事も何も覚えてないのね」
「そうよ、その方が幸せなんだと思う」
「どうして?おじいちゃんは優しくて、私大好きだった」
「あなたにはね。おばあちゃんにはとても辛い事が多かったの」


「ねえねえ、あなた達!来てご覧なさい!風が若葉の香りを届けてくれたわよ。きっとタカシさんのお土産よ」



小牧幸助部長の今週のお題。
『風薫る』から始まる短い話を書いてみました。
他人事ではない、近未来予測ですかね。
これもまた良いかも、ですね。めい



#シロクマ文芸部
#ショートストーリー