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「四月になれば彼女は」

「四月になれば彼女は」川村元気

4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルから手紙が届いた。
“天空の鏡”ウユニ塩湖からの手紙には、瑞々しい恋の記憶が書かれていた。
だが藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。
失った恋に翻弄される12か月がはじまる――

なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。
川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。

ずっと気になっていた小説で、映画を先に観てから読んだ。
(改変がたくさんあったから映画が先で本当によかった笑。)

「愛」は捉えることのできないもので、不確定なもので、いつ壊れるのかわからない脆いもので。
それらを探してもがいている登場人物たちが、すごく人間味があるというか、読んでてもどかしい気持ちに何度もなったけれど、でも愛おしくて。
小さい頃憧れていたキラキラした恋愛では決してない。けれど深みがあり温度感すら感じられる恋愛小説だった。たしか中学生くらいから本屋で見かけて気になっていたけど、その時だったら全然理解できなかったかも。今は、まだちょっとだけわかる気がした。


「でも、これだけわかり合えていても、妻のことをいま愛しているかどうかわからない。とても大切で、一緒にいるべき人なんだ。けれどもときどき、俺たちの夫婦関係をつないでいるものが、ただのこだわりでしかないような気がして、すごく怖くなるんだ」

p141

好きって気持ちは永遠じゃない。
好きなものや本が年齢とともに変わっていくように、愛する気持ちもいつか消えてしまうのかも。
「夫婦だから」という事実だけが残ってしまうのかな…。
もし自分に愛する人ができたとしても、何年か先にこういうことを思ってしまうのだろうか。そう考えるとちょっと怖い。


愛を終わらせない方法はひとつしかない。それは手に入れないことだ。決して自分のものにならないものしか、永遠に愛することはできない。

p198

映画で何度も出てきたこのフレーズ。
確かになと思う。何かを手に入れるより、それを追い求めているときのほうが楽しかったりする。
行けなかったけど行きたかった場所、言いたかったけど言えなかった言葉、読みたいと思っててまだ手をつけてない本たち。そういうもののほうが記憶に残りやすい気もする。
それはそれで素敵なことかもしれないなぁ。

なんて話を友達にすると、「でもそれだと何も始まらないよね」と言われた。
まだ私には難しい。


わたしは愛したときに、はじめて愛された。
それはまるで、日食のようでした。
「わたしの愛」と「あなたの愛」が等しく重なっていたときは、ほんの一瞬。
避けがたく今日の愛から、明日の愛へと変わっていく。けれども、その一瞬を共有できたふたりだけが、愛が変わっていく事に寄り添っていけるのだと思う。

p264

その一瞬を共有できるなんてきっと奇跡なんだろう。私の人生があって、相手の人生があって、お互いの愛が重なり合う。もし気持ちが変わってしまっても、そんな瞬間があったことは忘れたくない。

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