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【vol.2】エンタメにおけるWeb3.0の考え方「どこの範囲にファンがタッチできるのか」

Bandai Namco Entertainment 021 Fundは、今年6月にブロックチェーン技術を活用したファンエコノミー事業を展開する株式会社Gaudiyに出資を行いました。

同月、バンダイナムコグループ各社へGaudiyを紹介するために、バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役宮河とGaudiy CEO石川さんのお二人をお招きし、「Web3.0」や「ファンコミュニティ」をテーマに対談を行いました。

第1回の「Gaudiy社へ出資した理由」に続いて、今回は「エンターテインメントにおけるWeb3.0の考え方」を公開いたします。ぜひご一読くださいませ。(第1回の記事は下記からアクセス!)

風間
IPを扱っているバンダイナムコとWeb3.0の考え方や技術を持っているGaudiy社が組み合わさることで、ファンやクリエイターの方々とつながった、活発なコミュニティを生み出せるのではないかと感じています。

エンターテインメントの世界において、Web3.0の考え方や技術がどう役に立つのか、この機会にお二人のご意見を伺いたいです。

いかがですか、石川さん。

石川さん
考え方や技術の説明をすると分かりづらくなると思いますので、ブロックチェーンのコミュニティがどうなっているのかという具体例からお話すると分かりやすいと思います。

3~4年前、まだNFTやWeb3.0という言葉がない時から、僕はブロックチェーンコンテンツのコミュニティを見ています。その時から人々がコンテンツのファンとして集まっていて、みんながそのコンテンツの通貨を持っているんです。そこで何が起こっていたかというと 、コンテンツを盛り上げるために、コミュニティのみんなで頭を使って議論をしていたんです。そのサービスがより魅力的なものになるように、アップデートの度にみんながフィードバックをしていたんです。
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別の場所でも同じです。ブロックチェーンゲームのイベントに足を運んでみるとめちゃくちゃ盛り上がっているんです。パブリックビューイングで盛り上がっている。でもそのブロックチェーンゲームのユーザー数は1万人しかいないみたいなんです。

この盛り上がりを生み出す正体は何かと考えた時に、みんながそのコンテンツの通貨を持っているからこそ、当事者としてそれをより良くしようっていう気持ちがものすごく大きくなっていることが分かったんです。

そして、コンテンツを作っている人たちも、ユーザーのことを消費者として見ていないんです。共に創る人たち「共創者」として見ているんです。ファンの人達の創作によって認知が広がるとか、ファンの人達に支えられて盛り上がりが増すことを理解していて、その構造をサイエンスで実現しているんです。

Web3.0のコミュニティの人達は自分達の応援しているコンテンツのことを自分事化して、応援している仕組みになっているわけです。このような強固なコミュニティをサイエンスとして実現できる可能性があることがWeb3.0のすごいポイントだと考えています。

宮河
今の話を聞いていて、改めて「ああ、僕の時代が終わった」と思いました。
昔は、コンテンツやIPの創り手が「いいから俺が作ったものを見ろ」って、1から100まで全部創っていました。今もまだそういう部分が多いのですが、その時代がそろそろ終わりを告げ始めているのかもしれません。「みんなで創りあげる」という時代が近づいている。

もちろん、1から100まで創り上げる部分も多少は残っていくのだと思いますが、バンダイナムコのビジョンにある「Connect with Fans」の時代に向けて、力を入れて取り組まないといけないと改めて感じました。

石川さん
僕はWeb2.5がいいんじゃないかって思っているんです。

例えば、少年漫画の物語展開をファンに全部決めさせたら、絶対面白くないと思います。僕は、強いリーダーシップを持った天才的な人がコンテンツを創り続けるべきだと思っています。ただ、どこの範囲にファンがタッチできるのかが、すごく大事だと考えています。ブロックチェーンゲームで例えると、ファンはオリジナルを作れないんです。

一方で、ファンの人たちが宣伝とか、サードパーティーがコンテンツを使った新しい遊びを作るような構造になっているんです。神様みたいな創り手は存在していて、そのコンテンツが成長した時、より良くなった時にファンの人たちに還元されるスキームが必要なんです。

宮河
ああ、神様は存在するんですね。多数決だと良いものが出てこないから。
 
石川さん
はい、神様は、存在し続けるべきだと思います。
イノベーションは多数決では絶対生まれないと思っていますので。

ただ、それに共感する人たちも存在していて、その人たちが応援することによって還元される構造はあったほうがいいので、僕はWeb2.5がベストだなと思っています。

宮河
うん、よく分かりました。
僕はWeb3.0の時代は神様が存在するコンテンツとみんなが創るコンテンツが両方あるのかなと考えていましたが、神様が存在した上で、ファンにどう還元するかという考え方だけをWeb3.0にするということなんですね。
安心しました。もう少し生き残っていけます(笑)

石川さん
いやいやいや(笑)
より神様の力は強くなると思います。より神様を必要になる時代になってきます。先ほど宮河さんが「権利が保全された環境で自由にファンと作る」って話をされていましたが、僕はそれが一番いいなと思いました。日本は二次創作をする人たちが多いのに、まだ二次創作をグレーにしている。

宮河
二次創作から神様が生まれてくる構造になっていると感じています。あれがすごく重要で。例えば「歌ってみた」から、大物アーティストが生まれ出てくるわけです。コンテンツの神様が存在していて、二次創作をしているファンに還元もされながら、その二次創作をしているファンからまた次の神様が生まれてくる。そういうサイクルにしたいと考えています。

石川さん
おっしゃる通りです。
「歌ってみた」もそうですし、漫画家の方々も最初は二次創作からスタートしていると考えています。それなのに、これまでは二次創作をグレーにしていたんです。この二次創作を正義にできるのが、保全しながら拡張が可能な構造、いわゆる仮想通貨のようなものだと考えています。還元する仕組みがありながら、権利が保全されるところがブロックチェーンの強みです。

風間
お二人ともありがとうございます。
先ほど石川さんからお話がありましたファンへの還元の仕方について、少し整理したいと思います。石川さんがおっしゃったように仮想通貨でファンへ還元するというやり方もあると思いますが、違うやり方もあるのではないでしょうか。例えば「ガンダムのファンであればガンプラをあげます」でもファンへの還元になると感じます。仮想通貨のようにWeb3.0の技術を使わなければ、絶対に成り立たないことなのかというといかがですか。

石川さん
自由市場につながれるところと、知的財産の保全をしながらの拡張はブロックチェーンを活用しないと実現できないところです。

その通貨の価値をあげようというモチベーションが必要だと考えています。大きな企業に所属しているとイメージが湧きづらいかもしれませんが、ストックオプションという従業員が所属している会社の株式をもらえる仕組みに似ています。初めは価値の無いものですが、会社が将来的に大きくなった時に従業員に還元される仕組みです。決して、それだけをモチベーションにしているわけではないですが、自分の行動が最終的に還元に繋がる意味付けになっています。

風間
なるほど。お金を最初からお渡しするので応援してねと、やるのではなくて、応援した結果が後からちゃんと返ってくる構造をセットできるのが良いということですね。

石川さん
そうです。その行動に対してお金を払ってしまうとモチベーションにならないんです。100円は100円以上になることは無いので、ストックオプションとは違いますよね。

これからは資本主義から価値主義になると、よく言われています。資本主義が何かというと100あるお金をみんなで奪い合うゲームだと考えています。何かビジネスをした時に、手数料をもらったりしますが、100の量は変わらず、その中での取り分を決めますよね。

一方で、仮想通貨・Web3時代というのは、価値主義、価値を創造していく時代です。価値が100あるものを奪い合う世界ではなくて、1ある価値を100にする時代なんです。どうやったらそのコンテンツが魅力的になるのか、どうやったらそのコミュニティをより良くできるか。ベクトルがぶつかるんじゃなくて、同じ方向にベクトルを向かせることができるということです。

風間
「ARMY」と呼ばれるBTSさんのファンの方々は、自主的にBTSさんを有名にしようと熱心に活動をされていますよね。これは自然発生的な事例かもしれませんが、こういった構造をWeb3.0の技術や考え方を使うことで実現できるということですね。例えば、「ガンダムをもっと有名にしよう」といったモチベーションをガンダムファン全員で持ちやすいように環境を整えることができる。

石川さん
そうですね。そういったファンの活動はかなり加速しますし。
BTSが所属している事務所であるHYBE(当時、ビッグヒットエンターテインメント)が上場した際に、ARMYの方々が株式を初めて買っていたんです。株式を購入した理由について「私たちがBTSの一部を持ちたいんです、これはグッズです」と話していたんです。株式を持っている人たちがBTSをより盛り上げれば、その会社の株価も上がる構造になっている。そういった現象が既に起こっているので、もっと加速させることができる技術だと理解いただければ良いかと思います。

宮河
石川さんのお話はとても分かりやすいです。
少し話を戻しますが、たしかに今までの資本主義は100の中での奪い合いでしたよね。僕もシェア争いには興味が無くて、エンターテインメント業界はシェア争いが無いという話を社内で度々しています。僕もエンターテインメントは0を1や100にする仕事だと思っていて、「0の価値をどうやって上げていきますか」という視点で会話をしていました。だから、石川さんのお話にはすごく共感します。

石川さん
これくらいの市場規模があって、こういう顧客の層があるからというお話からクリエイティブに入っても、そんなに面白いものができないんじゃないかと思います。

宮河
うん、もちろんそういった分析も大事なんだと思います。
それでも「面白いものを作ろう」という気持ちから入っていく方が分かりやすい。

風間
お二人ともありがとうございます。
エンターテインメントにおけるWeb3.0の考え方が良く分かってきました。ここまでのお話の中で断片的に触れていただいているかと思いますが、ここからは「これから目指したい理想のファンコミュニティの姿」を軸にお話をしていきたいと思います。

第3回 「目指したい理想のファンコミュニティの姿」につづく


■「Bandai Namco Entertainment 021 Fund」概要

  • 主な投資対象
    国内外のブロックチェーン、VR/AR/xR、AIなどの技術を活用したエンターテインメントに関連するプロダクトやサービスの提供、また、メタバース、Web3.0関連の事業を行うスタートアップ企業など

  • 投資対象ステージ
    プレシードからレイターステージまでの幅広い成長ステージの企業を対象

  • 投資規模
    年間10億円(3年間で30億円)程度の出資を想定

  • チケットサイズ
    数千万円~5億円

  • 公式ホームページ
    https://021fund.bn-ent.net/(日本語)
    https://021fund.bn-ent.net/en/(英語)