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ポケカのサイドルールは欠陥ルールなのか

ポケモンカードゲームの勝利条件は「相手よりも先にサイドカードを取りきる」ことです。

ポケモンカードゲームトレーナーズウェブサイト「ポケモンカードゲームの遊び方」よりhttps://www.pokemon-card.com/rules/howtoplay/basic_rules/05.html

この「相手のポケモンを1匹きぜつさせたらサイドを1枚とる」というルールが時たま議論を巻き起こします。
問題点としてよく挙げられるのが
・不利な方がさらに不利になる
・アドバンテージ的観点からポケモンを倒された方がサイドカードを取るべきではないのか

などです。
本記事はこのサイドルールに関して個人的な見解を交えつつ、これらの指摘は本当にそうであるのか考えてみたいと思います。


結論

問:ポケモンカードゲームのサイドルールは欠陥か
答:かつては欠陥ルールであったかもしれないが、現在では適正なデバックがなされ欠陥ではなくなった

というのが私の見解です。

「かつて」とは、ポケモンカードゲーム(以下ポケカ)が初めて発売された1996年に遡ります。
いわゆる「旧裏」と呼ばれる、まだポケモンカードゲームの裏面のデザインが新しくなる前のことです。(公式では「ファーストデザイン」と呼ばれている。)
世界で最初のトレーディングカードゲーム(以下TCG)であるマジック・ザ・ギャザリング(以下MTG)が初めて発売されたのが1993年であり、ポケカはそのたった3年後の発売でした。
遊戯王の第1弾の発売日が1999年、デュエルマスターズの第1弾の発売日が2002年であることを考えると、1993年に発売されたポケモンカードゲームはまさに国産本格TCGにおける先駆者だったのです。

まだカードゲームのノウハウが現代のように確立されていない時代ですから、ルールやカードテキストに欠陥があることは珍しい事ではありませんでした。
今や世界最大規模となったMTGですら、1マナで3ドローするカードや2マナで追加ターンを得るカードを作っていた時代です。
そのような時代背景からしてもポケカの初期ルールが適正ではなかったのは仕方のない事でした。

しかしポケカはこのファーストデザインのサイドルールを引き継ぎ、現在では国産TCGのトップへと成長を遂げました。
つまりこのサイドルールは面白いのです

実は私もポケカを始めたての頃はサイドルールについて懐疑的でした。
不利な方が不利になり続けるゲームであるという認識でしたが、ポケカを理解していくうちにその認識は間違っているのではないかと思うようになりました。

サイドを取る≠アドバンテージを得る

かつての私のような「不利な人が不利になり続ける」という考えに至る人は、アドバンテージの捉え方が他のゲームに影響されすぎています。
それは主に「マナコストを支払う」ゲームに関わった事のある人が抱きやすい感想です。
アドバンテージには様々な種類がありますが、マナコストを支払うゲームにとってのアドバンテージは「カードアドバンテージ」であることが多いのではないでしょうか。
カードアドバンテージとは「手札の枚数差(選択肢の多さ)による優位性」です。
デュエルマスターズやMTG等のマナコストが存在するゲームにおいて、ボードアドバンテージ(場にあるカードの優位性)やタイムアドバンテージ(ダメージクロックにおける優位性)などもゲームの有利不利に関わってはきますが、多くの場合カードアドバンテージを取りに行った方が安定であり、それが定石となっています。
サイドを取る=カードを引く=カードアドバンテージを得る=有利になる
という理屈になりますが、そもそもポケカにおいてサイドを取る行為は本当の意味でのカードアドバンテージになっているのでしょうか。

デュエルマスターズやMTGは何も考えずに毎ターンマナ(土地)をセットしカードをプレイしていると、中盤以降必ず手札が枯渇します。
とにかくリソース不足になりがちなこれらのゲームにおいて、ドローという行為はたとえ絶対的な有効牌が引けずともそれは「マナ」というリソースになりますし、とにかく「カードを引く」ことに意味があります。
それを裏付けるように、ドローの効果を持つカードのマナコストは重めに設定されることが多く、カラーパイによってはそもそもカードを引く事自体が困難になるなど、ドローはクリーチャーに書かれているパワーやタフネスと同等かそれ以上に重要な要素とされています。
つまり「ドローの価値が高い」と言うことができ、いかに手札とボードを温存しながら戦うかというゲームになりがちです。
(※極端なアグロデッキなど一部例外あり)

ですがポケカはどうでしょう。
ポケカはほとんど場合手札が無くなりません。
手札が「濁る」ことはありますが「枯渇」することはあまりなく、終盤には山札を引き切るなんてことは当たり前です。
毎ターンサーチとドローを繰り返して山札を循環させます。
つまり「ポケカはドローが安い」のです。
という事は、このゲームの優位性は単純な手札の枚数差によるカードアドバンテージによるものでは決まりづらいと言えます。
ではポケカにおいて重要視されるアドバンテージとはなんなのでしょうか。

ポケカにおいて重要なアドバンテージとは

カードアドバンテージはポケカにおいても重要であることに間違いありませんが、これと同等かそれ以上に重要なのが「タイムアドバンテージ」です。
タイムアドバンテージはダメージクロックの優位性を表すものですが、ポケカにおいては「サイドを取りきるまでにかかる攻撃回数」ということになります。
その代表的な例が《ボスの指令》です。
このカードは自分のタイムアドバンテージを得るカードでありながら、攻撃できないポケモンをバトル場に呼び出すことで相手のクロックを遅らせ、間接的にこちらのクロックを稼ぐカードでもあります。
つまり、サイドを先行することが有利不利という話ではなく、自分のタイムアドバンテージを獲得して初めて有利不利を語れるということになります。

それでは手札を大量に引いていち早く《ボスの指令》に辿りついた方が有利になるという事ですから、結局のところポケカでもカードアドバンテージが最も重要という事になってしまいます。
ですが実際はそうとは言い切れません。
なぜなら、ポケカにおいてカードアドバンテージとタイムアドバンテージはトレードオフの関係性にあるからです。
「サポートカードは1ターンに1枚しか使えない」
これはポケカでアドバンテージを語る上で非常に重要なルールです。
手札をたくさん引く効果は主にサポートカードによってもたらされますが、《博士の研究》のようなドローサポートを使うと、同じくサポートである《ボスの指令》は使えなくなります。
相手が《ボスの指令》によりクロックを進めた場合、相手はこの番タイムアドバンテージを得ますが、それと同時に相手はカードアドバンテージを得る機会を失っています。
つまり、サイドを進めるという有利状況と引き換えに、後続アタッカーの準備やベンチ展開が弱くなります。
ここでポイントなのが、ポケモンを倒した側がサイドカードを引く=タイムアドバンテージを得ている方がカードアドバンテージまで得られるという風に見えてしまうことです。
ここが「不利な人が不利になり続ける」と言われる所以なのではないでしょか。
たしかに実際にカードを引いているのでそういう意味ではアドバンテージを得たと言えますが、そもそもサイドから引いたカードはその番は使えません。
サイドカードが本当の意味でのアドバンテージとして機能するのは次の自分の番からです。
サイドから欲しいカードを引いたとしても、そのカードは相手の攻撃を受けた後にようやく使えるかどうかということになります。
さらにサイドが動いた場合、新たな要素が絡んできます。
それが手札干渉やカウンター系カードなどによる「サイドを先行されるアドバンテージ」です。

サイドを先行されることによって生まれるアドバンテージ

ポケカにおけるもうひとつの重要な要素が「サイドを先行されるアドバンテージ」です。
本記事ではこの「サイド負け状態による恩恵」を「サイドアドバンテージ」と呼ぶことにします。
”サイドを取られるとポケモンを失う上に相手にドローされ、不利な人が不利になり続ける”
という指摘がありましたが、「サイドが負けている状態」の時に強力な効果をもつカードが多数存在します。
現在では《カウンターキャッチャー》《ツツジ》《ナンジャモ》、ポケモンでは《リザードンex(悪テラスタル)》などがその代表例です。
昔で言えば《N》や《リセットスタンプ》などがありました。
現在のレギュレーションで使える《カウンターキャッチャー》はAレギュレーションからの再録カードであるため、ポケカ開発はサイドアドバンテージを初期段階から強く意識していたことが伺えます。
そしてこの傾向はここ1年ほどでますます強くなってきています。
つまり、現在のポケカはサイドを取られる事がそこまでアドバンテージの損失になっていないのです。
むしろサイドが負けている時に使えるカードが増えることになり、それは実質ドローをしているのと同等かそれ以上のアドバンテージを得ていることになります。
サイドアドバンテージを得るカードが多数存在している以上、「不利な人がさらに不利になる」とは言えません。

特にサポート権利を使わずとも能動的にタイムアドバンテージを得ることができる《カウンターキャッチャー》はこのゲームに深みを持たせています。
タイムアドバンテージ上の不利を《ナンジャモ》等の手札干渉サポートと同時に使う事で一気に形勢を逆転することが可能になります。
タイムアドバンテージを取りにいくゲームであるのに、安易にタイムアドバンテージを取りにいくと不利になるリスクを抱えているのです。
これにより「あえてサイドを取らせる」と言った、将来発生するであろうサイドアドバンテージに重きを置く戦略がもの言うようになってきます。
それを裏付けるように、現在環境においてトップシェアを誇る《リザードンex》はサイドアドバンテージの恩恵を大きく受けるデッキです。
リザードン自身の技がサイドアドバンテージを生かす効果であり、ミラー対戦になろうものならば「サイドを取ると不利になる」というわけの分からない状況になります。
となると次はタイムアドバンテージを見据えつつボードアドバンテージを取り合うゲームになり、ますます複雑なゲーム展開を見せることになります。

さらにサイドを先行すると起こり得る不利状況には《ナンジャモ》等の「手札干渉」の存在もあります。
例え手札を大量に蓄えながらバトルポケモンを倒すことに成功しサイドカードを2枚引いたとしても、それは1枚の手札干渉カードにより全てが無かったことになるどころか、アドバンテージの観点からすると損をすることになります。
つまり、今使えないカードを手札に溜めることはポケカというゲームにおいてはリスクを伴うのです。
このことから前章の最後で触れたとおり、サイドカードを引くことが直接的にアドバンテージを得ることとは言いづらく、不利な人がさらに不利になるとは言えないのです。

もしもサイドルールが逆だったら

もし「相手のポケモンを1匹きぜつさせたら、相手はサイドを1枚とる」だった場合、このゲームはどのようになるのでしょうか。
答えは「誰もポケモンを倒したくなくなる」です。
むしろ実際に倒さなくなるでしょう。
この現象はデュエルマスターズの第1弾環境に酷似しています。

※あくまで初期環境の話であり、現在のデュエルマスターズには完全に当てはまらないことにご注意ください。
デュエルマスターズは自分が攻撃された時にシールドゾーンにあるカードが一枚手札に加わるという、ポケカのサイドルールとは対となるルールがあります。
ですがこのシールドルールはデュエルマスターズを「攻撃した方が不利になるゲーム」にしました。
その結果、蓋を開けてみれば初期のデュエルマスターズは子供向けカードゲームでありながらも「コントロール最強環境」になり、大人しか勝てないカードゲームになってしまったのです。
一生懸命シールドを攻撃する子供たちに対し、コントロール側は自分の場にブロッカーがいたとしても「わざと」攻撃を通し、2~3枚ほどのアドバンテージを得てから返しの番にボード有利を取っていきます。
ポケカのサイドと違う点は、ブレイクされたシールドが手札に加わるのが相手のターン中という点です。
それはつまり、増えた手札がタイムラグ無しで自分のターンに使える事を意味します。
かてて加えてシールドトリガーのリスクもあるのですから、なおさら攻撃側に不利になるようにデザインされています。
序盤~中盤のダメージクロックによるタイムアドバンテージよりも、攻撃される側のカードアドバンテージの方の価値が圧倒的に高かったのです。
当時コロコロコミックに連載されていたデュエルマスターズの漫画では、主人公である切り札勝負くんが火文明の攻撃的なデッキを使い果敢に相手のシールドをブレイクする姿が描かれていましたが、実際のゲームでそれをやってしまうとほぼ確実に負けてしまうという、厳しくも悲しいカードゲーム的な洗礼が子供たちを待ち受けているのでした。

とは言えそれはそれで面白さがありますし、むしろ私は気持ち悪いニチャニチャ大人サイドの人間なのでそのようなゲームを好んでプレイします。
ですがポケカはそのような状況になることを避けたかったのです。
ポケカは前向きなゲームであろうとしました。
この意図はポケカデバックチームのインタビュー記事でも語られています。

やられたときにサイドカードを取るルールだと、“サイドカード=取りたくないもの”と認識してしまいますよね。すべてのプレイをポジティブにとらえてほしいので、相手のポケモンを倒したときにサイドカードを取れるようにしています。

https://www.famitsu.com/news/201903/14173198.html?page=2

加えてもうひとつ記事をご紹介させて頂きます。

ポケカのサイドが逆になった時にどのようになるのかが考察されています。
同じようなテーマなので完全に二番煎じ、というか意図せずパクリのようになってしまいました…
元祖はこちらなのでぜひご一読ください。
本記事よりも完結かつ非常に読みやすくまとめられております。

まとめ

もともとポケカのサイドルールは「ポケモンバトルを再現する」という観点からデザインされた側面が強かったのかもしれませんが、それは結果的にポケカに他のカードゲームにはない面白さを与えました。
攻撃した側が絶対的に有利になるとみせかけ、そこにサイド負けしてる側に有利に働くカードを作ることで絶妙なゲームバランスを実現しています。
タイムアド=カードアド+サイドアド
のパワーバランスを基本とし、それが状況によってシーソーゲームになるように調整されているのです。
これであれば序盤から積極的に攻撃してサイドを進める理由も生まれますし、コントロールが好きな大人が多少の不利を背負いながら戦うこともできます。
大人も子供も一緒に遊べる、非常に優れたゲームですよね。

プレイングやデッキ構築を語るのも面白いですが、「ルール」というゲームの本質を理解しようとすることも面白いものです。
ルールの本質を理解することが巡りめぐって自身のプレイングの指針になることもあるでしょう。
常に一定の勝率をキープしている上位プレイヤーたちは、もしかするとその「ルールの本質」を見抜いているからこそ勝ち続けられるのかもしれません。

ちなみに私はこのようなめんどくさい事を考える事が好きですが、肝心のポケカの方は下手くそです。
偉そうな記事を書いてごめんなさい。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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