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労働運動は社会変革を起こす動力源になり得るのか。

こんにちは。Fiyunです。久しぶりに投稿を再開したいと思います。

自民党総裁選にて河野太郎氏を下し、岸田文雄政権が誕生した。岸田首相は新たな分配政策を実施することで日本の「新たな資本主義」を目指すことを表明した。このような動きはいったい何を意味しているのだろうか。

今回紹介する本はNPO法人POSSEの代表である今野晴貴著の賃労働の系譜学である。

この本は「労働」というテーマをもとに、これからの資本主義社会がどのように変容していくのか、どのようなムーブメントが資本主義社会を変えていくのかを著者自身がPOSSEで体験した事実から考察している。では早速見ていくことにしよう。

これを見て何がわかるのか

労働の変化(労働運動、労働者の持つ力、労働環境)

日本ではブラック企業やブラックバイトが多数存在する。近年ではステークホルダーを重視する会社が増えているが、依然としてブラックな企業やバイトは後を絶たない。それはなぜなのだろうか。それは日本の社会が自由主義的な資本主義にいまだに活路を見出そうとしているからだ。そもそも資本主義はもとから今のような自由主義的なものではなかった。

現在の資本主義社会の始まりは産業革命後のイギリスだ。イギリスではお金を持ち、資本を増幅させる資本家と労働力を商品として提供することでお金を稼ぐ労働者が存在した。ここまでは今と変わりはない。しかし、決定的に違う点がある。それはヘゲモニーである。ヘゲモニーとは主導的地位や指導権を意味する言葉である。産業革命後のヨーロッパでは労働者がある程度のヘゲモニーを握っていた。それはモノを生産するためには労働者が持つ熟練したスキルや、彼らしか持っていない能力が存在したからだ。そのため、低賃金であったり劣悪な労働環境であった場合、ストライキを起こし労働環境の改善を訴えることで彼らの声を資本家や経営者に通すことができた。しかし、テイラーの科学的管理法によって労働は単純化・簡略化・形式化され労働者が握るヘゲモニーは次第に弱体化していった。これにより、ヘゲモニーは資本家または経営者が握るようになった。

では、労働者は資本家や経営者に対抗する力を完全に失ったのだろうか。そうではない。現在ブラック企業やブラックバイトが少なかれ是正されているのを見てわかる通り、労働者はある程度のヘゲモニーを握っているのだ。そのカギとなる要素が言説である。2000年代中盤に労働運動によって「ワーキングプア」「貧困」という言説が普及されることで状況は一変した。非正規や失業といった労働問題は「貧困」の問題に置き換えられていった。このように労働者の声はある程度ではあるが言説として反映されるようになっていった。

現在の資本主義社会はどう変わっていくべきなのか(労働を軸としての考察)

先ほど述べたように労働運動が「言説化」し、社会運動の要素を含むようになった。では、言説化された労働・社会運動はどのような方向に向かうべきなのだろうか。著者はフォーディズム型労働運動からの転換を推奨している。フォーディズムとは現在の労働者が資本への「従属的性格」を持つようになったきっかけである。20世紀初頭、もともと資本家の労務管理が間接的管理であったのが、直接的管理に変わり労働が細分化され作業速度が大幅に上昇した結果、労働者は激しいストライキを起こした。その結果大企業は労働者のストライキに直面し、賃金の上昇と長期雇用の保証によって階級統合を図り、それが新たな生産体制を生み出したとされる。このような労使関係は、大量生産・大量消費の循環モデルを作り出した。この生産体制をフォーディズムと呼ぶ。著者はこの、賃労働や資本に従属されるフォーディズム型の労働運動から脱却し、職務の格付けにとどまらず、職務の設計や経営の在り方に介入する労働運動がである「ジョブ型」労働運動を、また最後にはコモンの再建を推奨している。つまり、連帯の原理が労働市場規制に基礎づけられている点すらも脱却し、労働の技能、技術を労働者が管理し、労働者自身が情報や資源を共有しあい、管理するのである。そうすることで人々は市や町、自治区の単位で豊かになり、何かに縛られることなく、自分自身が望むことを行うことができるようになる。労働運動には今の環境を変える大きな力を持っているのだ。

コモンの再建ということに関しては自分自身が理解不足である点が大きいため、これからも勉強していこうと思う。次回はそれに関する本を紹介することにする。

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