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我が家にコウモリが棲みついた(2)

これまでのあらすじ

昭和38年に両親が建てた築60年の我が家で。ある日、二階の瓦屋根の上に生き物の糞らしきものを発見する。突然あらわれた夥しい数の黒い小さな糞。掃いても掃いても一晩のうちに何者かによって瓦屋根の上は糞だらけ。犯人は誰だ。二階の窓から身を乗り出し見まわす。二階屋根の軒下に生き物のようなものが。部屋にあった釣竿を長く伸ばして突っつくと飛び立った。犯人はコウモリだった。

ネットでコウモリの糞害をリサーチ

二階屋根の軒下から飛び立った一匹のコウモリを目撃した私は、その夜、ネット検索の欄に「コウモリ」「糞」の二語を打ち込んだ。するとどうだ。出るわ出るわ。「コウモリのフンは危険?安全な処理方法と予防策を詳しく紹介。」「夏はコウモリが活発化!意外と知られていない糞害の恐ろしさとは。」「もう悩まない!コウモリのフン害を確実に解決する方法。」

もう読んでるだけでお腹いっぱいに。いや気分が悪くなってきた。サイトのほとんどがコウモリ駆除業者によるもので読めば読むほど不安がつのる。駆除業者はそれを商売にしているのだから当たり前といえば当たり前だ。それはそうだとわかって読んでいるつもりなのに。ついつい乗せられてどんどん不安に。ダメだ。ダメだ。よくない。

と思いつつもパソコンにかじりつくこと数時間。コウモリの生態やら糞害とやらについて詳しく調べる。はじめて知ることばかりだった。軒下や屋根裏の他にも戸袋や換気扇の隙間、屋根瓦の下なんかにも棲みつくらしい。むむむ。ということは。もしかしたら。我が家の二階、天井裏にも棲みついている可能性がある。だとしたら。まさかまさかこの部屋の。この上やないか。天井板一枚。真上やないか。しかし、まさか。そんなはずはない。信じたい。

天井板をトントンと叩いてみる。人間、時に、わけのわからない行動をするもの。それは私だけか。天井をトントンと叩いて何をしたかったのか。いまだに不明だ。さらに続いて私は不思議な行動に。蚊取り線香。二階で蚊取り線香をたく。蚊取り線香の煙が天井裏に届けばコウモリが逃げ出すとでもいうのか。とにかく何か手を施さなければならない。そう思ったんだろう。しかしそれにしてもやることなすこと。愚かだ。愚か者だ。65歳とは聞いて呆れる。アホか。

もしかしたらコウモリが天井裏に棲みついているかも。もう考えてだけで寒気がする。ゾクゾクする。考えたら居ても立っても居られなくなり急いでパソコンやら何やらを手に持ち小脇にかかえながら駆け足で階下に降りた。しかし事態は想像以上。深刻だった。

夕暮れ、次々と飛び立つコウモリを目撃しパニック

翌日は快晴。夕方、日が暮れる前。ちょうど日没時刻の頃だった。昔からコウモリはこの時間帯によく見かける。そう思いながら庭先に出て二階屋根の軒下をぼぉーっと見上げた。ちょうどその時、屋根と軒下のあたり。そう、昨日、釣り竿を伸ばしてコウモリを追い出したあたりから。ひとつ、黒いものが飛んで出た。羽ばたいた。あっ、コウモリ。しばらくすると、また1匹。飛んで出た。また出た。

そう思って見上げていたら。さらに1匹、続いて2匹。続々と出てくる。まさかまさかの現実。あらあらあらま。あれよあれよ。言ってる間に。出るわ出るわ。指折り数えたら、結局、その日は、32匹のコウモリが我が家二階軒下からご出動しなすった。32匹。時計をみたら日没からわずか10分の間の出来事だった。驚く。たまげる。

こりゃ大変だ。信じられへん。けどこれ現実や。急に関西弁になっちゃって。腰抜かす。32匹やぞ。32匹。目の前を32匹のコウモリが飛んで出たんやし。見ただけで。数えただけでそんだけいてるということやからやね。そやし。もう数えきれてないもんもいてるとしたらやで、それ以上やないけ。我が家の二階、軒下だけに、あんなとこに、あんだけ、いてるとは思えない。ということはやね。やっぱり天井裏や。天井裏に棲みついているに違いない。まさか。まさか。信じたくない。けど、でも、でもそうとしか考えられない。こりゃ事態は深刻や。想像以上や。えらいこっちゃ。いやほんま。

毎日、毎日、あれだけの数のコウモリに糞をされたらたまらんぞ。天井裏に棲みついているとしたら、たまらんぞ。二階の屋根瓦にある糞以上に夥しい数の糞が溜まっているはず。わぁ〜。もうパニック。私はパニックになった。

引っ越しだ。引っ越しだ。二階から撤退だ。急げ。糞が落ちてくるぞ。いや既に糞が落ちてきてるかも知れないぞ。わぁ。頭の中をコウモリの糞やらコウモリの糞の粉末になったようなものやらがパラパラと舞い落ちる。大変だ。大変だ。狂ったようにというか、半ば、狂いながら二階の我が部屋に駆け上がり。次から次へと。運び出す。運び出す。まずは取り敢えず手当たり次第に隣の二畳へ。それから階下へ。さらには離れの和室へ。運べ。運べ。運ぶ。運ぶ。一心不乱とはことのことだった。

四畳半一間とはいえ、荷物は想像以上に多かった。とても一晩で運び出せる物量ではなかった。取り敢えず必要最低限のものだけは空き部屋になっている離れの和室へ運んだ。本格的な引っ越しは明日以降にするしかない。そう決心して疲れ果て寝る。

夜明け前、真っ赤に染まる朝焼けを背景にコウモリが舞う

翌朝、朝4時半に目覚める。コウモリは夜行性。昨日は日没直後の10分間で飛び出した。夜行性なら、今度は、日の出とともに帰ってくるのかも知れない。そんな気がして早くに目覚めた。日の出時刻を狙って監視してみよう。パジャマ姿のまま急ぎ外に出る。

快晴だ。朝焼けで空は赤く染まっている。まだ開けきらぬ薄明かりの空を見上げて息を呑んだ。コウモリだ。飛びまわっている。10匹以上はいる。我が家の二階軒下と西の空を行ったり来たり。ビュンビュン飛んでる。時々二階の壁や雨戸の戸袋に当たるような音もする。コウモリは壁などにぶち当たりながら飛ぶというのは本当だった。ななななんなんだ。これは。茫然自失。この言葉があってるかどうか。わからん。けどとにかく背筋が凍った。想像を絶する光景。ただそこに立ち尽くす。

朝焼けで真っ赤に染まる西の空をバックに我が家の二階軒下あたりで乱舞する夥しい数のコウモリたち。我が家はコウモリの館か。事態は想像以上に深刻だった。

朝焼けの日には流石にショックでビデオどころではなかったが、さらに翌日、ビデオ撮影してみた。この日は生憎の雨空。朝焼けの日とはまた違った雲行きで不気味さが漂う。

時々、コツンコツンと二階の壁や雨戸の戸袋にコウモリがあたる音がする。コウモリめ!

つづく


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