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我が家にコウモリが棲みついた(1)

ある日突然、大量の糞に驚く

我が家は昭和38年に両親が建てた。もうすぐ築60年という計算になる。幾度か増築したり改築したり瓦屋根を葺き替えたりはしているが本体は昭和の建物だ。とくに二階は昔のままで手を入れたことはなかった。

二階には三部屋ある。二畳の小部屋と四畳半、それに六畳だ。四畳半と六畳は、それぞれ娘と息子の勉強部屋だった。娘も息子も大学進学を機に、この家を出たきりだ。いま、娘の部屋は妻の物置になり息子の部屋は私の仕事部屋になっている。コロナをきっかけに俄然家にいることが多くなった私は、もっぱら、二階に籠る時間が多くなった。

西から二階を見上げる

8月初めのことだった。私の使っている部屋は南側の部屋だ。南と西に面して窓がある。天気のいい日は両方の窓も開け放つ。その日も、そうだった。先に南の窓を、続いて西の窓を開けた。西の窓のすぐ下、屋根瓦の上を見て驚いた。夥しい数の黒い小さな糞そこにあったからだ。大量に散乱している。重なり合って積もったようになっているところもある。

天気の良い日は、ほぼ毎日、窓を開けている。いつも意識して直下の屋根瓦の上を眺めているわけではないが、それでもこれだけの糞があれば気づくはず。少なくとも数日前にはなかった。それは確かだった。

しかし何の糞かな。ネズミかな。それにしても半端な量ではない。大量だ。しかも屋根瓦の上。だったらネズミではないだろう。じゃあ、何だ。わからない。

そのまま放置して置くわけにもいかない。生き物の正体がわかず不安だったが一階に降りて小さな庭箒とサンダルを手に再び二階に戻る。西側の窓から屋根瓦の上にサンダルを履いて出る。瓦の上に立つ。なるべく黒い小さな糞を踏みつけないように注意しながら、ゆっくりと箒で糞を掃き降ろす。瓦の上だから塵取りで集めるようなことはできない。箒で屋根にかかる雨樋まで掃いて降してしまうしかない。雨でも降れば流されるだろう。

次の日の朝。西側の窓を開けてさらに驚いた。またもや大量の糞だ。昨日、あれほどキレイに掃いたはずなのに。一日いや一晩で凄い糞だ。誰だ。誰の仕業だ。

夥しい数の黒い小さな糞

犯人はコウモリだった

窓から身を乗り出してありとあらゆるところそこらじゅうを見渡してみる。二階屋根の軒下をしらみつぶしにくまなく、目を凝らして舐めまわすように。見てまわる。んっ。二階屋根の軒下の古い垂木の上あたりで微かに何がが動くようなものが、見えた。いや見えた気がする。いや違う。確かにそうだ。動いてる。生き物か。生き物の尻か。わからない。でもそれは確か動いている。生き物だ。

窓から乗り出した身体を一旦部屋に戻す。部屋の窓際、その隅にあった釣竿が目に入る。たぶん息子が小さい頃に使っていたものだろう。壁際には釣竿の他に竹刀やバットも置き去りにされていた。

釣竿なら長くなるはず。案の定、三段式で伸びた。釣竿を二階屋根の軒下、垂木に届く程度の長さに手早く伸ばす。伸ばした釣り竿を手に再び二階窓から身を乗り出す。恐る恐る正体のわからない生き物のお尻らしき部分を突っついてみる。えいっ。

二階屋根の軒下、屋根と垂木の隙間にコウモリはいた

あっ。飛んだ。飛び立った。なにあれ。え。コウモリ・・・。ちがいない。コウモリだ。ちがいない。コウモリだ。コウモリに間違いない。何度も何度も、コウモリ、コウモリ、とうなされたように四文字を繰り返し口にする。飛び去り見えなくなった西の空を眺めながら繰り返す。コウモリ。

夥しい数の糞が、いましがた飛び去ったコウモリ一匹のものでないことはあきらかだった。まだいる。まだまだいる。大量に。いるはずだ。ちがいない。

それからだった。私と妻はこれまで経験したことにない事態に巻き込まれていくことになった。

つづく


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