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恵比寿「MAEN」 料理×日本酒で完成する、新世代の友情ペアリング

料理とお酒の組み合わせを楽しむ「ペアリング」。日本酒業界では10年ほど前から、和食だけではなく「洋食」に合わせるお店が人気を博し、ペアリングの本が出版されるなど、今ではひとつのカテゴリーになりました。

そんなペアリング界で今、注目を集めている新星が「Sake paring restaurant MAEN」。恵比寿で2021年に創業したペアリング専門店です。SAKEジャーナリストの木村さんに教えてもらい、新時代のペアリングを体験してきました。

恵比寿駅徒歩5分、ビルの7階にあるカウンターの店

場所は恵比寿駅から5分ほどの雑居ビル。エレベーターを降りると目の前に扉があります。

看板は…
ドアノブの部分にありました。知らなければ入れないお店です

店内は縦棒が長いL字カウンター。ジャズとか流れています。そんな空間に

冷蔵、常温さまざまな日本酒が並びます。

同学年コンビによる、洋と和のペアリング

お店を切り盛りするのはこのふたり。左は料理担当の井戸さん、右がお酒担当の御子柴さん。84年生まれの同い年コンビです。

ともに十数年にわたり飲食業界を渡り歩き、料理と日本酒のペアリングに開眼。同じ志を持つ2人がタッグを組み、自らの店を立ち上げたそう。なんか、いいです。バディもののドラマや漫画のようで、いいです。

メニューはその日のおまかせコース(品数違いで2種類)のみ。お二人に縁のあるという徳島県と長野県の食材を使った洋のメニュー1皿につき日本酒1杯をペアリングで提供してくれます。

では、早速スタートです!

【1皿目】 鹿 × どぶろく 果実の甘酸っぱさが合う!

大きなさらにちょこっとあるタイプです

1皿目は鹿肉のしんたま(赤身のやわらかい部分)です。肉の下にはクリームチーズとドライ無花果、そしていちごが入っています。これに合わせるのは…

「十二六」(武重本家酒造)

どぶろくです。冬の期間限定で販売されるお酒で、酵母が生きていてどんどんガスがでるそう。アルコール5%と軽く「甘酸っぱい」味わいです。

…合う! 料理自体が肉の味に果物の甘さが合わさったものですが、そこに甘酸っぱいどぶろくがぴったりハマります。口の中で混ざって「デザート」になります。

【2皿目】牡蠣×SUN 日本酒がドレッシングになる!

「阿波はじめ牡蠣」というブランド牡蠣に、発酵キャベツ&みかんという一皿です。

料理を提供してくれるのは井戸さん。提供と同時に料理の説明をしてくれます。

SUN-さん-(大和川酒造)

料理説明が終わると、御子柴さんにバトンタッチ。ここでお酒の説明と「ペアリングの理由」を教えてくれます。1皿、1ペアリングごとにふたりが順番に出てきて話してくれるシステムです。

御子柴さん「お酒は福島の大和川酒造さん。通常は食中酒が多い蔵ですが、あえて酸味を引き出すつくりをしているユニークなお酒です。香りは『酢』ですが、飲み口は『白ワイン』のよう。料理の『ドレッシング』のようなペアリングにしました」

これも、ぴったり合います。口の中が酸→旨(牡蠣)→苦(野菜)&甘(日本酒)とどんどん変わっていきます。試しに日本酒なしでも味わってみたのですが、お酒が組み合わさる方が断然おいしい。別々じゃなくて、2つで一皿なんですね。

【3皿目】茶碗蒸し × 諏訪泉 口が「超・しいたけ」に

ここで熱燗へ。MEANでは70度、90度という2つの燗どうこ(お湯の入ったお酒を温める器具)を使い、ちろり(お酒を温めるときに一時的に入れる容器)は錫・銅・そしてビーカーを使い分けています。

たまごは「小林ゴールドエッグ」というブランド品種

次の料理は刻み椎茸が入った「茶碗蒸し」。そしてお酒は鳥取の諏訪泉(諏訪酒造)。平成20年の熟成酒を「お燗させていただきました」とのこと。

御子柴さん「お酒が熟成しており、枯れた印象がでています。イメージは『しいたけ』。料理にもふんだんに使っているのですが、その風味がより立つようにイメージしました」

合わせてみると…完全に「しいたけ」です。香りも味も、食べた後の余韻も全部しいたけ。それが料理とお酒の両方で膨らみ、『超・しいたけ』です。

御子柴さん「僕たちは、ペアリングには『情報』も大切だと考えています。自由に味わうというのもいいですが、意図を持って提供しているのであれば、解釈をお客さんに丸投げするのは配慮が足りない。しっかり説明し、情報からも狙っている美味しさにお連れしたいんです」

【4皿目】ヒラメ × 大倉 レモンチーズソースの口内調理

まだまだ続きます。魚料理はヒラメと春の野菜。乳酸発酵の赤蕪・すんきをつかった自家製タルタルソースを添えた一皿。

苦味がうまい

お酒は奈良の「大倉 Limone Mature」(大倉本家)。水酛という古い製法でつくったお酒で、レモンのような甘酸っぱさが特徴的です。

御子柴さん「今回はお燗、少し低めの60度にしています。この温度帯ですと、お酒から『チーズ』のような香りが楽しめるんです。料理のタルタルソースと相性がいいので、『レモンチーズソースを加える』感覚で、一緒に味わってください」

…当然、合います。本当に「料理のソース」です。説明を聞いていて「確かに合いそうだな」と予想するのですが、その通りぴったり合うので、だんだん笑えてきます。

料理とお酒、両面から「合わせに行く」合体技

コースの途中ですが、なぜこんなにもすべてペアリングがはまるのか気になり、聞いてみました。

御子柴さん「うちではまず、その日手に入る食材から『料理』を決めます。そして、井戸からメニューを聞いた僕が各料理に3つほどのお酒の候補を上げ、営業前に実際に合わせて決めています。

もちろん、最初からすべて決まるわけではありません。そんな時は、僕はお酒の温度や提供方法から、井戸は料理の味付けや調理法などを工夫し、『お互いが合わせにいく』感じですね」

料理とお酒、店内では明確な役割分担がありつつ、お互いがお互いの料理・酒について理解しているからこそペアリングができる、と御子柴さん。まさに2人で1つの合体技です。ツインシュートや反動蹴速迅砲を想起しました。

営業中はふたりの会話は最小限かつ、無駄のない連携。ペアダンス的な演目をみている気分になってきました

【5皿目】猪×伊根満開×ジャスミン茶

御子柴さん「ペアリングの時は、お酒側を少し『いじる』こともあります。それが次のメニューです」

料理は「猪 発酵いちごソースかけ」。お酒は京都「伊根満開」(向井酒造)。そこに少量のジャスミン茶(水出し)を加えているとのこと。

御子柴さん「伊根満開は古代米を使ったお酒で、甘味がありお肉の『ベリーソース』になります。そこにジャスミン茶が少し加わることで、①香りが軽やかになり、お酒の重さが感じにくくなる ②ジャスミン茶のタンニンが加わることで赤ワインのような後味が生まれ、肉料理と相性がよくなる、という効果があります」

もう、上記の通りです。感想というより、味わいながらペアリングの「答え合わせ」をしているよう。お酒に何か混ぜるってありなんだ。

【〆】あんかけおこげ×大七 トマトで味変!

ラストはごはん。コシヒカリのおこげに、レタスとイカのあんかけ。コリアンダーが効いています。

お酒は……こちらは福島「大七」(大七酒造)を、魚介出汁とドライトマトを加えた「トマトの出汁割り」とのこと。

これは、スープです。トマトのおいしいスープ。レタスの風味のあるおこげにトマト出しが合わさると、口の中でもうひとつ別の料理が生まれます。もはや、「合う・合わない」といった次元ではないです。「別の料理をつくる」ような感じです。ただただおもしろい…。

わかっちゃいるけど驚く、答え合わせの面白さ

「ペアリングのお店」といっても、いろいろなタイプがあります。

その中で、MAENは「2つ揃ってはじめて完成する」という、ペアリングの中のペアリング。ど真ん中を攻める豪速球ペアリングです。食べる直前に丁寧に説明してハードルを上げ、その上で「やっぱり合う!」と答え合わせをさせてくれる。2時間超のコース、その連続です。

「育成中(熟成中)」という常温のお酒。洋食メニューに合わせるため、味に個性のあるお酒が多いのだそう。

ごちそうさまでした。まんまと驚き、まんまと楽しませていただきました。


もちろん、お酒を飲みます。