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日本酒は開けたてがいい?に物申す、ヒネ上等の開栓後熟成酒の会(地酒屋こだま)

・日本酒は、繊細なお酒で管理が難しいです
・口開け(開栓してすぐ)が最高です
・冷蔵保存してください、特に「生酒」は
・開栓したら早めに飲んでください。ヒネます(劣化)

日本酒に関するこんな言葉、聞いたことはないでしょうか。私も、なんとなく言葉通りに受け取り、それを「常識」のように思っていました。

このセオリーに物申すのが、大塚にある「地酒屋 こだま」さんです。

販売においては、お酒によって常温・冷蔵の適した管理を徹底している「品質にすごくこだわる系の酒屋さん」なのですが、上記の常識を覆すべく、店主である児玉さんの趣味で「さまざまな日本酒をあえて開栓後常温で保管してみる」、取り組みをおこなっているそうです。

そして今回、その門外不出の放置熟成酒が飲める会が開かれると聞き、行ってきました。変な香りや味の変化上等、変わった熟成酒の数々を飲みます!

今回は意味のある文章ほぼなし!ただラベルがどんどん並びます!「あ、飲みたい!!!」となる人と出会えることを願います。

地酒屋こだまって、こんなお店

少しだけ、今回の舞台の「こだま」さんの紹介を。
もともと日本酒大好き会社員だった児玉さんが、好きが高じて脱サラ開業した、地酒愛あふれる個人店。有名無名、規模の大小にかかわらず、造り手の顔が見えるお酒を発掘して紹介しています。最大の特徴は、ほぼすべてのお酒が「試飲可能」。自分の好みを探りながらお酒を買えるお店です。

店内はこんな感じ。温度管理も徹底されています

ラインナップはどちらかというと「味が乗ってる」タイプが豊富。「料理をあわせたい」などを相談すると、どんどん候補を教えてくれます。個人的には、福島のマニアックな銘柄や地元向け普通酒を探しによく訪れます。

こだまさん熟成の日本酒を存分に味わおう!

今回の「児玉さんの自家熟成酒を飲む会」は、店内の片隅で行われる「希望者の小さな会」といったもの。店内の一部をお借りし、立ち飲みでいろいろいただきます。

店内。奥の人は普通のお客さん。手前の段ボールからこちらが立ち飲みスペースです。

繊細な「生酒」たちは、寝かせたらこうなる!

まずは「上品なお酒たち」としていただいた数本から。すべて「味が変わりやすい」といわれる生酒です。※加熱処理をしていないお酒

「琥泉(こせん)純米吟醸 生原酒 27BY」(泉酒造 兵庫県)
7年もの!恐る恐る飲んでみると、意外にもきれいめ。ベリー系というかきゅっとした酸味があって普通においしいです。

「風が吹く 山廃仕込 純米吟醸生酒 中取り 2017年」(白井酒造店 福島県)
5年もの!
甘みしっかり、だけど透き通っています。生酒熟成全然いけます。

「初雪盃 吟醸 無濾過生原酒 2010」(協和酒造 愛媛)
すごい、12年! また、こちらは「袋づり」というとても手間のかかる製法で造った「いいお酒」です。ものすごいしっとり。嫌味なところいっさいなしです。今回最古のお酒ですが、言われなければ熟成酒とわからないほどです。

「笹政宗 純米吟醸 生酒 平成23.4」(笹政宗酒造 福島県)

11年もの。…え、きれいです。熟成のごっつりした感じはなく、するっとはいってくる。こちらも、熟成と聞かなければ気付けないほどです。

児玉さん曰く「カプロン酸エチル(りんごみたいなフルーティーな香りのタイプ)は熟成に向かないといわれがちだけど、きちんと造られたものはしっかり熟成がすすむ」とのこと。

爽やかな夏のお酒、の熟成酒は意外とすっきり!

続いては「夏酒」シリーズ。暑い夏のあいだ、すっきり軽やかな日本酒がお店に並びます。でも今回は、その夏酒を、数年熟成させたものです。

「辰泉 夏のウマ★カラ 純米吟醸 中取り 要冷蔵 平成28年6月」
季節ものなのに6年熟成!
たしかに夏のお酒っぽく、軽やかです。でもどことなくケミカルというか、独特の香り甘味があります。さすがに夏というワードから連想する「フレッシュさ」からは結構離れてきています。

「篠峯 ろくまる 御山錦 純米吟醸 無濾過生原酒 平成25年7月」(千代酒造 奈良)
9年!!
 みんな大好き篠峯です。甘味たっぷりでとろっとしています。でも、熟成でよく見るいやな香りなどはなし。すごいうまいです。

「十六代 九郎右衛門 特別純米 ひとごこち 夏生酒 28BY 仕込53号」(湯川酒造店 長野)

6年!すごいけど、だんだん麻痺して普通な気持ちになってきました。造った時の数年前の狙いは「少しドライ」だったそうですが、熟成で丸くなっています。夏用、ではないですが、これもこれでおいしいです。

いろいろつまみがありつつ、結局これをみんなで摘みます

関係ないですが、参加者持込のじゃがりこ。サラダではなく「のり塩バター」。コクと塩味が、熟成酒たちにぴったりでした。

昔と今年、飲み比べが楽しい!

「赤石太陽 純米吟醸 たれくち 生原酒 平成29年」(太陽酒造 兵庫)

次の「赤石太陽」は、今年のものと平成29年の5年ものを飲み比べることに。熟れた果実のような、甘味の強いお酒なのですが…不思議と熟成した方が飲みやすく感じます。同席した人によると「台湾のパインケーキのよう」とのこと。確かに、そんな感じです。

「神稲 野条穂 純米吟醸 平成26年」(太陽酒造 兵庫)

同じく太陽酒造のお酒で、一度途絶えた酒造好適米「野条穂」を復活させて造ったお酒とのこと。こちらも今年のお酒と8年熟成を比較します。アルコール度数が18〜19あるにもかかわらず、不思議と飲みやすいです。

きれいめフレッシュなタイプはどんどん味が乗る!

まだまだ出てきます!

「永寶屋(えいほうや) 純米吟醸 生酒」(鶴乃江酒造 福島)

こちらは会津中将で知られる「きれいめなお酒」の鶴乃江酒造の地元向け銘柄。それも前の杜氏の時代に造られたものだそう。こういう、今はもう再現できない味に出会えるのも熟成酒の楽しみです。

味はというと、まろやかな甘味の奥にチリッと苦味。でもこの苦味が全体を支えているような気がします。

「初雪盃 純米吟醸 無濾過生原酒 平成25年」(協和酒造 愛媛)

9年!先ほども登場した初雪盃の別の造りです。甘味がしっかりで、とろり。ちょっとした貴醸酒というか、蜜のような感じです。

「笹の誉 特別純米 ひとどこち三割麹生 平成27年」(笹井酒造 長野)

8年! ちなみに「三割麹」とは、通常よりもたくさん麹を使ったしっかりした味わいのお酒とのこと。結構熟成がしっかりしていて、フルーツよいうより、カラメルや、草っぽさがあります。「昆虫になって木を舐めた味がする」という人がいましたが、本当にそんな感じです。

最後は変わり種熟成酒

「大倉 山廃特別純米 直汲み無濾過生原酒 平成28年」(大倉本家 奈良県)
6年! これ、一番好きでした。めちゃくちゃリッチな甘味です。大倉ブランドの中でも試行錯誤して生まれたシリーズとのことで、6年前に相談を受けた児玉さんが「この方向だ!!」と太鼓判を押し、そこから現在にかけて、どんどんブラッシップしているのだそう。

お店にあった新酒を買ったのですが、たしかに比較すると新酒のほうが甘味がはっきり。熟成酒で、お酒と蔵の成長を感じられるのですね。

(手前のカラフルな瓶の説明です)

「十六代九郎右衛門 低アルコール原酒」(湯川酒造店 長野)

アルコール度数13度台の低アルコール日本酒も熟成されています。アルコールは賞味期限がないとされていますが、低アルコールで常温放置と聞くと少し心配になります。味は…なんか尖っているというか、元のすっきりしたボリュームのままねじれたというか、なんとも言えない味。「低アルコールの熟成は難しい、でもまあ実験だとおもって」とのこと。なるほど、こうなるのか。

「銘柄非公開 火落ち酒」

ラストは、銘柄非公開。日本酒の中では大敵とされる「火落ち」したお酒を出してもらいました。噂には聞いていた火落ち、はじめて飲みます。

火落ち 乳酸菌の一種である火落ち菌が日本酒の中で繁殖することで、味や風味が大きく変わってしまうことを指す。「酸っぱくなる」といわれ、商品として世に出ることはない。日本酒愛好家の中には、この火落ち酒をあえて求めるマニアも存在する。

…すっぱいです。えぐい。うわぁ…すごい変な味です。でも、「臭いチーズ」の類だと思えば、いけなくもないです。美味しいわけではないけど、こういう世界もあると頷けなくもない。とにかく初めての味でした。

ちなみに児玉さんいわく「しっかり造っている日本酒の中には、火落ちしてもおいしいものもある。また、火落ち菌もさまざまで、どのような味になるかはわからない」とのこと。奥深い。


以上、これらの他、熟成酒20種類ほどを少量でどんどんいただくという、貴重な機会をいただきました! 熟成はどうなるかわからないお酒といいますが、意外というか「普通においしい」ものがほとんど。むしろ、あまりに飲みやすいと「物足りない」「もっと熟成の変な感じがほしい」と感じるようになりました。

常温、生酒、熟成という新ジャンル、おもしろいです!児玉さん、ご馳走様でした。

今回の熟成酒イベントは、地酒屋こだまさんのwebサイトで告知されています!9月は6、14、22、30日に開催!気になる方は予約して大塚へ!

また、地酒屋こだまさんをはじめ、大塚の日本酒店さんたちのイベント「大塚sake walk」の情報はこちら。今年は10月開催予定とのことです!


もちろん、お酒を飲みます。