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クラフト酒と料理は合わない? 個性派日本酒×料理人のペアリング対決【Kitchen g3】
日本酒は食中酒。日本酒は(他の酒と比較して)味わいの幅が広く、和洋中問わずさまざまな料理とペアリングができる。
──と、上記のようなことを日本酒に詳しいお店の方から聞くことがよくあります。実際「日本酒×料理」のペアリングを売りにしているお店は多く、私自身そんなお店が大好きです。
しかし、流石に「どんなお酒でもいけるわけない」と思うのです。
例えば、最近少しずつ酒屋さんでも目にする機会が増えてきた「クラフトサケ」は、副原料(別の果物とかハーブとか)を加えた新ジャンルのお酒です。これはこれでおいしいのですが、液体だけですでに「日本酒×味つき」なので、それをさらに寿司とかに合わせようとは思わないのです。
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そんな中、浅草橋にある日本酒専門店「SAKE Street」さんより、あるイベントへお誘いをいただきました。
なんでも「クラフトサケを始め、料理を合わせにくそうな超個性的なお酒を、ペアリングを得意とする料理人がむりくり合わせる」というもの。
行ってきました。そして、忖度なしで正直にレポートします。
酒屋さんが個人的に集めた変なお酒に、料理人が挑む!
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舞台となったお店は、東京・五反田にあるkitchen g3。普段は、その時々の食材を使ったコースをいただけます。
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左がg3オーナーシェフの山口さん。右は日本酒専門店SAKE Streetの二戸さん。今回は、二戸さんが収集した個性派のお酒たちに対して、シェフが合う料理を考案してくる、というものです。
さっそく、いただきます!
①大倉 Limone Mature 無濾過生原酒 2年くらい自家熟成
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見た目は白ワインのこのお酒は、奈良県にある大倉本家の「大倉 Limone Mature 無濾過生原酒」、そしてそれを2年ほど置いていたものとのこと。
…完全にレモンです。すっぱ甘い。とろみのついたレモンスカッシュみたいです。そこに熟成してチーズのような独特の風味が加わります。
料理は「イカ墨のショートブレッド」。上にストラッチャテッラ(ブッラータの中身)と生クリーム、上にナッツと生ハムがあります。
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二戸さん「独特な味のお酒を、レモンクリームのソースだと思って、一緒に味わってください」
ショートブレッドを一口。噛むとチーズが溶け出し、ナッツなど食感の異なるいろいろなものが混ざります。おいしい。具材が多すぎて構造がよくわからないケーキを頬張っているみたいに、理解できない多福感に包まれます。
そこにお酒を入れると……??
あ、おいしいです。カオスになっている(ブレッドの香ばしさ?ハムの塩?ナッツの食感?チーズとクリーム??)口の中を、レモン味でキュッと締めてくれます。何がどうあっているのかはわからないです。
これは深く考えず、思い切って「酒をジュースのようにごくごくいって、口の中のパンを流す」くらいの勢いで口に放り込むと、細かいことがどうでも良くなってさらにおいしくなりました。おいしいです。
②稲とリンゴとホップ
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続いては「稲とリンゴとホップ」。秋田にあるクラフトサケの酒蔵「稲とアガベ」のクラフトサケです。
クラフトサケは、だいたい「日本酒×何か」なのですが、これは「日本酒×リンゴ×ホップ」という3種類。こんなのあったんですね。
まずはお酒だけで飲んでみます。……うん、よくわからないです。
最初はホップ? 飲み口はおとなしい日本酒、リンゴの甘み? なんだこの液体は、体験したことがなく、味覚と脳がバグを起こします。
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料理は「馬肉のカルパッチョ」です。上にチーズや大量のクレソンがかかっています。このクレソンがペアリングの肝とのこと。
山口シェフ「ソースはメキシコなどで使われるチュミチュリソース(ワインビネガーなど酸味の効いたもの)と、青かびチーズ、クレソン。馬肉の脂が強いため、苦味のつよいクレソンと一緒に食べてください」
クレソンと肉を頬張り、そこに先ほどの酒を流すと……あ、あいます。あってる……のか? ちょっと自信ないけれど、よいです。
馬肉の旨みとクレソンの苦味が、酒のホップ感とちょうどいい塩梅になります。もう少し細かくいうと
・酒(日本酒・リンゴ・ホップ)
・料理(肉・クレソン・チーズ・ソース)
が
・ホップ × クレソン・肉
・リンゴ × ソース・チーズ・肉
・日本酒 × 全体
みたいな感じで、それぞれ対応してくれているのです。
そして何より、料理のパワーです。肉も野菜もパワー系の味付けが、不思議な味のお酒を問答無用でまとめてくれます。おもしろいです。
③LIBROM COLA
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続いてもクラフトサケ。福岡にある「LIBROM Craft Sake Brewery」の「LIBROM COLA」です。クラフトコーラを作るときにでたハーブなどの原料を使うことで「コーラのような酒」になっているそうです。
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飲むと…これは完全にコーラです。ハーブやスパイスが効いている「高級コーラ」です。日本酒の甘みでここまでなっているのがすごいです。
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料理は熟成牛のハンバーガー(のミニ)。
そう、ハンバーガーとコーラの組み合わせです。
……………うん、これこれ。この味は、そりゃあおいしい。
しかしなんか、ずるい。ハンバーガーとコーラって、もう合うとか合わないとかではなく、ガツンと濃い味を口いっぱいに含み、炭酸の砂糖水で問答無用で流し込む。
ペアリングという言葉の響きから感じる繊細なものではなく、「俺の好物2つ」といった、強いものに強いものを合わせる、資本主義の象徴みたいな組み合わせ。
頭空っぽにして喰らいつくが正解なやつです。
④辨天娘 純米吟醸 2018年
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4本目にしてやっと普通の日本酒です。熟成が得意な、旨みたっぷりな「辨天娘 純米吟醸 山田錦」をぬる燗でいただきます。
料理はしじみのフラン(茶碗蒸し)八丁味噌とムール貝。和な雰囲気のペアリングですが、ポイントは「(お酒を温めて)温度を合わせる、(八丁味噌と貝で)旨みを掛け合わせる」こと、とのこと。
すごい、めちゃくちゃ濃いです。もうこれは旨みの塊です。
そこに、畳みたいな香ばしい日本酒のお燗が、合います。すごい、やっぱり「(普通の)日本酒って、料理によく合うんだ」と感じる組み合わせです。
味噌があることで、普段なら嫌に感じるお酒の「苦味」が、チョコっぽく感じ、貝の旨みとまたよくあいます。おかわりしたいです。
⑤火落ち酒
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火落ち菌とは、日本酒造りの大敵とされている菌。これにかかると、日本酒は白濁し、品質が大きく劣化しまうのです。当然、売り物にはなりません。この火落ちしたお酒を、主催者の二戸さんが大切に保管し、今日のために出してくださいました。(そのため、お酒の名前は非公開)
料理は冬瓜と猪のファルシ(肉詰め野菜)、コンソメ味。上の緑は、ミントとフレンチパセリのチャービルです。
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まずはお酒。…酸っぱいです。濁っていて、ナチュラルワインでこういう味に出会ったことがあります。火落ち酒はさらに、なんとも言えないえぐみというか、クセがあります。
そして料理は…すごい、肉肉しいです。力強いです。ミントとハーブが強烈で、臭み消しになっています。そしてこのハーブが、お酒のクセも調和してくれます。
モツ系の料理にニンニクとか生姜をいれるみたいに、クセのあるものには香りの強いものをあわせますが、その意味がわかります。ハーブを介することで火落ち酒のえぐみが消え、猪の獣感も落ち着き、「すっぱいナチュールワインと肉」というちょうどいい組み合わせになります。
なるほど、これは、すごいです。
まとめ:個性派の酒は、パワーで無理やり合わせる
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「食事に日本酒を合わせる」というと、料理を際立たせるとか、寄り添うとか、「脇役」な役割になることが多いのですが、クラフトサケをはじめとする個性派酒の場合は逆です。
そもそも寄り添えないほど個性があるので、料理も強烈なパワー系。バキバキに当てに行くことで、口のなかでひとつに合わさりました。
また個性的な酒のペアリングは「酒の味に臆せず、ごくごく行くと、爽快な気分になる」ことを学びました。考えちゃだめなんですね。
SAKE Streetの二戸さん、g3の山口さん、
口の中がバグる不思議体験、ありがとうございました!
もちろん、お酒を飲みます。