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リベフェミVSアンフェの歴史改編闘争SF

早川書房のセールで安くなってたし早川書房のnoteで「フェミニスト・ディストピア小説」と紹介されていたので『タイムラインの殺人者』を購入した。

で、読んだ結果どうだったかというと――

ジャンル分けするとしたら、LGBTQ(のなかでも特にTQ推し)リベフェミ寄りのフェミニズムSFで、わたしにとってはフェミニズム的なスタンスが作者と合わないので、う~~~んって感じ……
キャラクター設定や会話の内容に作者の思想が垣間見えるというか。
ぶっちゃけると、たぶんアライ寄りの人の方が楽しめる内容だと思う。
(そもそもアライの人はわたしのnoteを読まないだろうけど)

まぁね、どんな本にも合う合わないはありますわな。
わたしも毎回100%好みドンピシャの小説ばっか引いてるわけじゃないということです。

【以下ネタバレ注意】


なんでこんなに合わないのかな?と思ってたら、解説に

冒頭で著者が献辞を捧げる女性チャーリー・ジェーン・アンダーズと著者ニューイッツは、かれこれ二十年続くカップルだ。
(中略)
「レベル・ガール」アンダーズが著者にとって親友で、戦友で、恋人である大事な人であることは想像に難くない。
(中略)
ニューイッツは二〇一九年から、自分の三人称代名詞としてsheではなく男女二元にとらわれない(ジェンダー・ニュートラル)単数形theyを使用している。

解説 時代を超えて響く、女性たちの叫び より

チャーリー・ジェーン・アンダーズ - Wikipedia

とあり、その理由が分かった気がした。
著者の二十年来のパートナーがトランスジェンダー女性という当事者だったのだ。

他にも解説(※本文ではない)には

二〇二〇年の女性テスは文化地質学研究者として、時間旅行装置〈マシン〉を使い、過去の大きな社会的変化を調査するため過去へさかのぼっている。
しかし彼女は、非男性(女性とノンバイナリー)の秘密結社〈ハリエットの娘たち〉の一員でもあった。
作中で主流のタイムトラベル理論では過去を変えても大きな変化をもたらすことはできないはずだが、彼女たちは複数の小さな変化によって大きな変化を引き起こすことが可能ではないかと考えていた。
そして同じ仮説を信じ、歴史修正を試みる時間旅行者たちの存在に気づく。女性の権利を制限せんとする〈コムストック信奉者〉である。テスのパートでは〈ハリエットの娘たち〉と〈コムストック信奉者〉による時代を超えた歴史改編闘争が描かれる。

解説 時代を超えて響く、女性たちの叫び より

とあって、出出出~~~「非男性」!!!「non-man」!!
「男かそれ以外か」かよ!!!と思った。
※「他称TERF流行語大賞2023上半期ノミネート集」の「non-man」参照


ストーリーに関しては、前半に出てくる男が今のところレイパーとかペド教師とかクズばっかりで、たしかに○されてもいいくらい彼らのやったことは酷いが、殺されかたの描写がスプラッター的で結構生々しいので注意。

殺されるほどでもないにしても、膣外射精を避妊と思ってる男がいて胸糞悪い。
そのせいで妊娠した子が「実はあの時、中絶したんだ」って告白したら、膣外射精した男はなんていったと思う?

「そうだな、でも……知っておいてほしいんだ、そこまでしてくれたなんて、きみは真の友だ……」言葉がとぎれた。彼の声は高ぶる感情のためにかすれていた。「ぼくのためにそんなことをしてくれる友だちはそうたくさんはいないよ」

ですってよ!?!?自分に酔うのも大概にしろ💢
誰のせいで中絶する羽目になったと思ってんだよ💢
罵詈雑言が止まらなさそうなのでここまでにしておく。

40%あたりまではWokeなところ(例 画像参照)が散見されて、心の中の訝しプーさんが出現したので読むスピードがあがらず。

『傷つきやすいアメリカの大学生たち』を彷彿とさせるWokeっぽさ
「トランスウーマン」の定義は?

それ以降の、「クイーンと呼ばれる繁殖階級の女性と働き手の女性がテクノロジーによって作られる」という、女性にとってのディストピア世界からやってきた未来人の女性(ムルシーン)がやってきてからは、続きと結末が気になる一心でなんとか最後まで読めた。

個人的には過去改変闘争よりもムルシーンのいたディストピア未来のほうがめっちゃ気になる。
ミソジニーがずっとひどくなり、性と生殖の権利が男性に握られ、女性が死に絶えかけていて、ムルシーンのいう「あなたがたは地獄で子をなさない快楽にひたりますか?」が女性への罵倒になるのは、いったいどんな社会が構成された未来なのだろう。

〈コムストック信奉者〉の教祖的存在であり、敵役としても重要なキャラクターのアンソニー・コムストックって実在の人物だったんだね!

コムストック法 - Wikipedia

他にも、巻末にある著者自らによる「史実との関連性・参照文献」にある通り、この小説に登場する出来事や登場人物は、現実にあった事件や人物が反映されているので、別の世界線のようなところは面白かった。
主人公のひとりであるベスの毒親による虐待描写もかなりキツかったんだけど「ベスの家族のエピソードのいくつかは、うっすらとわたしの体験が基になっている」と書いてあったのでびっくりした。

そしてトランス女性は出てくるのにトランス男性は出てこなくて(確か 間違ってたらすみません)、本当そういうとこだぞ。
「男性だって妊娠する」はどこいったんだろう。
「妊娠する男性」は妊娠中絶に関係ないんですの?
などとモヤモヤするところが多々あったので、GCの立場の人が読んだ感想(やツッコミ)を知りたい。

ちなみに、妊娠中絶の合法化だけでは男性優位社会の温存で根本的な解決にはならないと思うので、女性の資源化を防ぐためには魔女狩りとか産業革命とか資本主義が生まれたころに介入すれば良かったのでは……?
もしタイムラインを編集できるんだったら、わたしはそういった時代に行ってみたいな。
(その前に現実問題として当時の英語がペラペラにならないといけないだろうし、そもそもアジア人女性があの時代のヨーロッパに行くのは色々と厳しそう)

現場からは以上です。


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