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「螺旋の映像祭」の為の公開往復書簡.3


これは写真家/美術家の本藤太郎と音楽家の宮田涼介が、2020.10/10に逗子市で行われる「螺旋の映像祭」に提出する作品を制作する為に行っている公開往復書簡です。

※前回はこちら

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信じることについて-死の舞踊の時代に-


宮田さま
お返事ありがとうございます。

8月末日が〆切の仕事がやたらとあった為に返信が遅くなってしまいました。申し訳ありません。

思えば奇妙な8月でした。信じられない程の長雨の日々が続いたかと思えば、一転して無慈悲な太陽が照りつける灼熱の世界となり、元々熱と光に弱い私は生命維持をする事で精一杯でした。(誇張はなく)

これから秋にかけてはまた未曾有の台風がやって来ると言われていますし、それに加えて今も疫病は確実にそこかしこでほくそ笑んでいます。(生き物ではありませんが)

まったく翻弄されてばかりの年ですね。

さて、そんな中、先日止む無く外を歩かねばならない事がありまして、セミの亡骸にアリが群がっている所に遭遇しました。ありふれた夏の光景ですが、何故かその時はたまらなくそれに惹かれてしまい、亡骸から伸びる川の様なアリの行列を眺めていました。

朝から晩まで喚き散らしていたであろう“それ”はもう物言わぬ骸に成り果てていて、解体され、運ばれ、また誰かの糧になっていく。そんな出来事が足元で静かに起きている事に、形容し難い〈畏れ〉の様な感覚を抱きました。凝視している最中は不思議と周囲が静かに思えました。

もう5分はその場に立ち尽くしていたでしょうか。咥えっぱなしの煙草の灰が靴の先に落ちた束の間、頭上のセミ達の絶叫が耳に戻り、私はふと我に帰りました。

“ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみにうかぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と棲(すみか)と、又かくの如し。”

                           鴨長明『方丈記』

これは方丈記の有名な冒頭部分ですが、自分のこの意識も、生命も、〈よどみにうかぶうたかた〉に過ぎないんだなと、なんだか改めて思いました。


翌日、同じ場所ではセミの亡骸もアリの川も跡形もなく消えていました。


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                  窓からの眺め-View from the Window


急に大きな話になってしまいましたね。話を戻しましょう。


前回の宮田さんからの手紙には自身のネット依存が由来の〈中立〉への憧憬の様なものが綴られいたかと思います。

東日本大震災を経験し、スマートフォンの普及も重なってソーシャルメディアは〈それ以前〉と〈それ以降〉へ否応なく書き換えられたと感じています。

そして宮田さんの言うところの〈真面目化〉が加速度的に進み、言葉狩りが横行し、いわゆる〈自粛警察〉的な人々が跋扈する極めて不自由で不健全な景色に成り果てたと思います。
〈それ以前〉からその場所に(それなりにディープに)居た宮田さんは突然眼前に表れた〈それ以降〉の景色に絶望してしまったんだと想像します。

その結果として

“どちらにも属さない〈中立〉という立場を望み、分断化社会の当事者となることを避け、殻に篭ることで自分を守ろうと”

心に決めたのだと思います。

これもまた鴨長明ですが

“事を知り、世を知れれば、願はず、わしらず、ただ静かなるを望みとし、憂へ無きを楽しみとす。”

                           鴨長明『方丈記』

という事なのでしょうかね。得体のしれなさは今日も確実に進んでいると思います。


宮田さんは前回の手紙で

“存在しないはずの中立が存在するとしたら、どんな景色になるのか。そして、芸術にそれが体現可能なのか…?
「中立的な人」というのは、もはや人間ではないでしょうね。神様か何か…?(笑)
言い方を換えれば、「人間らしくあることを拒んだ人間」でしょうか。
僕は以前、「かろうじて人間」という名前のバンドをやっていましたが、まさに僕はかろうじて人間なのかもしれません。”

“今回「中立」や「見学希望」というキーワードを持ち出したのは、人間らしく生きていくことの熱量を失いかけていたからであり、自分の場合、その背景にはネット依存があったことに気付きました”


と締め括っていましたね。


私は「かろうじて人間」というフレーズに希望を感じました。

そもそも

〈人間らしく〉生きなきゃならないんですかね。

〈正しく〉生きなきゃならないんですかね。

ソーシャルメディアの話に戻れば、人々は常にこの〈正しさ-Correctness-〉に振り回されている様に見えます。様々な事象に対し、まるで正しいステップを踏み続けるかの様に、リアルタイムで〈正しい〉判断と行動を延々と示し合うゲームをしている様に感じます。

先日、「アントミル」という現象を知りました。

これは餌を見つけたアリから出るフェロモンを感知した別のアリがそのアリに続いて行列を作る、という習性が産んだバグ(bug!!←)らしいんですね。

で、それがどんなバグかと言うと、行列の最後尾に先頭が接続されてしまい、延々と円環を歩き続けて最終的に集団で死んでしまうというバグなのです。
私はそのまるで「死の舞踊-La Danse Macabre-」の様な映像を見ながら、円環の外でトボトボ歩いている数匹のアリに注目しました。

〈習性〉が正しく作動し、集団ヒステリーの如く行進しているアリ達がまさに「アリ」なのであれば、周縁で孤立しながらも足元を〈信じて〉歩いているアリ達は〈かろうじてアリ〉なのではないかと思いました。

そしてそんな〈かろうじてアリ〉達は結果として〈種としてのアリ〉を救うのではないかと思いました。


私はそんな〈かろうじてアリ〉達を見て、かつて小林秀雄が

“信ずるということは、諸君が諸君流に信ずることです。知るということは、万人の如く知ることです。”                    

                  『学生との対話』 (新潮文庫)  – 2017

と学生たちに語った逸話を思い出しました。

私は今こそ〈信じること〉が必要なのではないかと思います。

疫病や分断や差別の巻き起こす現代の「死の舞踊」の渦中で、それでも〈かろうじて人間〉として一歩一歩を粛々と進み続ける事が希望になるのだと信じたいです。

多分、この意味としての〈かろうじて人間〉が、我々の〈中立〉なのかもしれませんね。

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                  原稿を書く私を監視する愛猫のヨル


最後に、宮田さんが何故「アンビエント」を作り続けているのかをお聞かせください。
アンビエントといえば「家具の音楽」としての音楽ですよね。
〈聴かれる〉という事を目的としない、むしろエリック・サティ的に〈聴かれてはならない〉音楽を作り続ける事には大変な困難さをともなうと想像します。私にはそれが宮田さんの〈かろうじて人間〉としての、ある種一貫した実践及びスタンスの様に思えるのです。

気がつけば本番までおよそ一ヶ月になりました。お互いの持ち寄れるものを持ち寄って作品を作りましょう。

そしてそれを信じましょう。

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2020.9.2
自宅にて

本藤太郎

※次回はこちら


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本藤太郎/Taro Motofuji a.k.a Yes.I feel sad.

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逗子生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒。カメラマンとして撮影現場を奔走する傍ら2016年より美術活動を開始。写真作品を中心に舞台やインスタレーション、楽曲や映像等を制作し国内外のアートフェアや地域アート等で発表している。 ZAFには2013年の「逗子メディアアートフェスティバル」の頃から雑用として関わっており、2017年には作家として参加。常に寝不足。
https://www.yesifeelsad.com/
https://www.instagram.com/taromotofuji/?hl=ja

宮田涼介

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神奈川在住の音楽家。ピアノ楽曲や電子音響作品を中心に、国内外でアルバムを発売。また、カフェやWebコンテンツでのBGM制作、シンガーへの楽曲提供・編曲を行う。
http://ryosuke-miyata.com/
https://www.facebook.com/ryosuke.miyata.music/


2020年10月10日(土)「螺旋の映像祭」開催!
逗子文化プラザ さざなみホールにて
https://note.com/zushi_art_film/n/n502ed347ee86

逗子アートフェスティバル公式ウェブサイト
https://zushi-art.com/

▼今後の逗子アートフィルムの予定
逗子アートフィルム 沖啓介 現代美術オンライン特別講義
第1回「ウェットウェア、ドライウェア」
8月22日(土) 20:30~22:00
https://artfilm-oki1.peatix.com

第2回「アートが神経を持ったら」
8月29日(土) 20:00~21:30
https://artfilm-oki2.peatix.com

第3回「月は最古のテレビ」
9月5日(土)20:30~22:00
https://artfilm-oki3.peatix.com


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