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東京都内いらっしゃいませ

東京に来て3ヶ月になる。
引っ越して、養成所に入り、
生活用品を買い揃え、引っ越した。
この期間の出来事。
なにから話せばいいかわからないが
ひとつずつ整理していきたい。


3月の内見

気になる物件をピックアップし、東京へ。
最初に訪れた不動産屋で「この辺でその条件だと4万円はまず無いですね。」と言われる。
失意のまま、次の不動産屋へ。そこでは大ベテランのおじさんが担当してくれた。「ここは〇〇線と△△線、両取りヘプバーン」「住めば都はるみ」という軽妙な口上に身を委ねると、あれよあれよという間に内見がはじまり、その日の夜には部屋を決めていた。しかしその帰り道、「ロフトだし狭いし調理スペース部屋のど真ん中だし…」と、自分が挙げていた当初のNG条件全て満たしている上に家賃が4.2万円(予算+0.2)であることに気づく。考えれば考えるほど、「取り返しのつかないことをしてしまった」と焦り、新幹線の中で何度もえずいた。小心者に新幹線は速すぎた。

「すいません、あの部屋キャンセルしてください」

振り出しに戻った。今度はちゃんと、誰にも強要されないで決めるんだ。と胸に誓った。


僕の部屋

1階。4万円。駅徒歩10分。新宿まで15分。ユニットバス、ベランダ、室内洗濯機置き場有。オートロック付き。

これはどうもとんでもない掘り出し物をみつけてしまったらしい。

金銭面の問題と時節柄、何度も関東関西を行き来する事が憚られた。それに「内見しても不本意な部屋掴むことになるんだ、えぇいかまやしねぇ!こうなったら博打デェ!べらんメェ!このスットコドッコイ!」と、お江戸に前乗りしていた僕の小粋なマインドの判断で、内見をしないまま契約を進めることにした。まず、素人が見たって気づかないポイントを、付け焼き刃の知識で洗っうのには限界がある。ここは気持ちよく決めてしまおう。写真で見る限り、悪い部屋ではない。ただ1階とあるが写真はどうも窓が低い。もしかしたら半地下かもしれないが、それはそれで話のひとつにもなるだろう。小さな頃快速アクティーの二階建車両が大好きで、特に下の階が好きだった。普段見えない人の足元が目の高さにくるのが面白かった。その感覚が残っていたのかもしれない。半地下にすこしワクワクすらあった。

不動産屋さんにも「この部屋安いね」と言われ、鼻が高かった。

これが大きな間違いの始まりだった。


悪夢

はじめての独り暮らし。やっと全て自分の思いのままにできる。僕の部屋だ。お金はないが、気持ちは弾む。部屋の壁紙、フローリングは張り替えられ、写真よりも綺麗にされていた。悪くない。しばらくはここに根を張って、頑張ろう。
以前から決めていたベッドを買い、すこし良い家電を買った。
異変はこの辺りからはじまる。

配送の日。
まずベッドが入らなかった。これは僕の採寸の不備だったが、玄関からギリギリ入らなかった。そして同階3部屋のうち、僕の部屋だけありがたいことにベランダ部分が厳重なフェンスで囲まれていて、窓からの搬入もできなかった。あえなくベッドは返品になった。
数日後。洗濯機が来る。
どうも2層式洗濯機用と思しき長細い排水パンに嫌な予感はしていたものの、家電量販店で聞いてみると「そのサイズでも置ける全自動はある」とのことで、安心して紹介されたものを買った。

【配送当日】
業者:「これ二層式しか置けないスね」
ニコ:「あ、置けるって聞いたんですけど」
業者:「無理スね。無理やり置くのとかも責任取れないんで」

冷蔵庫を残して洗濯機は帰っていった。


慣れない街で毎日続く買い物の疲れと不毛な返金手続きの連続。ベッドや洗濯機を取り上げられてたような気持ちにやられた僕は気力を失い、ここからしばらく部屋に敷いた段ボールで寝起きすることになる。この時まだガスも通っておらず、風呂にも入ることができなかった。室内ホームレスの誕生である。

後日、ヤケクソの僕は二層式洗濯機を買いに再び家電量販店に向かった。二層式を扱ったことがないというどこか半笑いの店員さんに、こちらも負けじと半笑いで洗濯機を購入した。


【配送当日】

業者:「これ置けないスね」


?

業者:「水道の位置的に無理っスね」

ニコ:「????」

業者:「置くとしたらこうスね」



ニコ:「じゃ、前の人何使ってたんですかね」

業者:「全自動スね、跡ついてます。」


???


どうやら少し前までは、防水パンをはみ出して洗濯機を置くことも業者はやっていたらしい。しかし、最近は水漏れなどの責任問題になった場合を考えて、基準に従った施工を厳守するようになったとのことだった。

さらに不思議はつづく。
排水設備をつなぐためには足台が必要とのことで言われるがままに足台を追加購入するも、足台を置くと今度は蛇口が邪魔で蓋が開かなくなるのだ。


もう好きにしてくれ。
僕も疲れたんだ。何だかとっても眠いんだ。


本当の悪夢


何はともあれ(何はともあれではないが)生活に必要なものが揃い、日常がはじまった。新宿も下北沢も吉祥寺も自転車で行ける。買い物をする場所も決まりだし、暮らしが回り始め、楽しくなってくる。そんな矢先あることに気づく。

「雨の日の湿気すごくない ?」

雨の日の湿気がすごい。雨の翌日も。
いやもはや雨の日関係なく湿気がすごい。
半地下だから…で片付けられる次元ではない。
部屋のもの全てが湿っている。服も、紙も、何もかも。

乾いたから取り込んだはずの洗濯物は湿っているし、さっき買ってきたノートは波打っている。ルーズリーフに書く鉛筆の文字が薄い。これはおかしいぞ…気づいた時には遅かった。

洗濯機の説明書。毎回使う時開いていたのがたっぷり水気を吸ってクタクタになっている。よく見るとカビが生えている。これはまずい。

湿気がたまるので、常に換気をしたい。
ところが窓を開けると砂が入ってくる。それに網戸が歪んでいて虫が入ってくる。虫といってもハエだけでなく地べた系の虫も参加する混成チームだ。これがたまらない。虫と湿気、どちらを取るか。どちらも取りたい僕は電気代を生贄にすることを決意した。換気扇、エアコンのフル稼働だ。扇風機も買った。そんな努力を嘲笑うかのように大事なものが続々とダメになりだした。「これもダメか。」「次はこれか!」「こんなところまでか!」奴らは着実に僕をすり減らしにくる。

同じ階に部屋が3つある。端の人は常に扉が半開きになっている。越してきた当初は意味がわからなかったが今考えると生きる為の手段だったのだ。真ん中の人、つまり僕の隣の部屋の人は毎晩明け方まで喉がちぎれるような咳をしていた。あれがカビ由来ならえらいことだ。

身の危険を感じたので早々に引っ越しを決意した。
わずか2ヶ月のことだった。まだゴミ箱も買わないうちにこの部屋を去る。

養成所のオンライン授業。薄暗い部屋で受講している生徒に「半地下にいる?」というイジりが飛んでいた。みんな笑っている中、「…おどれらほんまもんの半地下教えちゃろか!」とひとり画面越しに激昂したこともあった。
半地下暮らしの話をすると、大抵の人があの映画のタイトルを口にする。もう反応する気力も残っていないが、ただひとつ言いたいことがある。

半地下でピザの箱は作れない。

とんでもない湿気で作るそばから箱はクチョクチョになる。それに半地下のにおいがついた箱に食べ物は入れられない。

ポンジュノさん、あんたまだまだだね。

ここで話したこと以外にも、色んなことがありました。家賃を抑えて探してるからどこも一緒だろと思っていましたが、そんなことはありませんでした。格安家賃、風呂なし特殊条件の家に住む友達にも「それはやばいね」と心配されるほどでした。内見はしましょう。お部屋は考えて選びましょう。

今はシェアハウスに身を置かせてもらっています。紹介してくれた人は「今住んでるところと水準は変わらないと思いますよ」と言っていたけど、窓があって換気ができること、部屋のものが湿らないことが何より嬉しくて本当に快適です。湿気がないことでこんなに気持ちが違うとは。
目覚めまで違うなんて。
勉強代にしても笑えない金額が飛びましたがひとつひとつ勉強になりました。あの部屋に至るまで、あの部屋での生活、そして脱出に至るまでまたいろんな人が助けてくれて、手を貸してくれました。ひとりひとりに本当に深く感謝しています。まだ落とし込めていませんが、

これも経験です。

そのはずです。


だといいな…


最後に、
引っ越す際にはじめて目の当たりにした家具の変化(購入1ヶ月)をご覧いただきながらお別れです。

ありがとうございました!


2021年 初夏

#東京 #上京#部屋探し#内見#自暴自棄#不注意
#半地下 #パラサイト#二層式洗濯機#梅雨#換気#湿気#カビ#ていねいな暮らし

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