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とべない、友だち。

僕の友だちは、飛べないことを悩んでいる。

会うたび、彼は口にする。

「飛べないんだよ?鳥なのに。せっかく立派な羽までつけてもらったのにさ。」
「まわりはみんな飛べるんだよ?なのに僕は何年経っても飛べやしない。あと少し頑張ってみようって言われるけど、もう疲れたよ。」
「まわりはみんな馬鹿にしてるのさ。もう馬鹿にされるのは懲り懲りだ。」
「僕はダメだ。ダメな鳥だ。僕なんか何をやってもできないんだ。」


そんな言葉を聞くたび、悲しくなる。
それどころか怒りすら覚える、ふざけるなと。
鳥だから飛べなきゃいけない?
そんなの間違ってる。絶対に間違っている。

でも、彼の大切にしている世界では飛べることが当たり前のようだ。
飛べないことはダメなようだ。自分を否定しなければならないほどに。

きみが心も体もボロボロになるまで頑張る姿を見ていると、僕は思う。
飛べなくていい。飛べなくたっていいじゃないか。って。
きみの優しさが、もふもふした笑顔が、てくてくと歩く姿が、どれほどあたたかな気持ちにさせてくれるか。きみは知らないだろう。
他のみんなと比べなくていい。いや、比べられるものか。
飛べないことが何だというのだ。

僕は強く、強くそう思う。

でも、それを口にすることはできない。
それを口にすると、きみの大切な何かを傷つけてしまう気がして。
どうしても声にできないでいる。

だから。だから僕はいつも、口下手ながらに祈りをこめてこう返す。

「きみの素敵なところを僕は沢山知ってるよ。数えきれないほどに。飛べようが飛べまいが僕はきみの友だちだ。」

それを聞くと彼は、
「ありがと。」
と返してくれる。

僕の気持ちは、きっと彼の心に届いていない。
彼は彼の世界で、これからも生き続ける。

でも、言葉にはチカラがあると信じている。
声にすれば、大切な時にきみのそばで響いてくれると信じている。

いつか、きみに届きますように。
きみがいてくれるから、僕は楽しいんだ。

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