「京都LiQビル」に製造業の未来をみた話

3月末、京都に桜がちょうど咲いた頃。

所用で京都へ行った際に、「京都LiQビル」という今年オープンしたてのものづくりスペースを訪問。ここは少し前にWEBニュースでそのオープンを知り、かなり気になっていた場所です。

このスペースは、広島に本社がある精密鋳造を得意とした金属加工メーカー株式会社キャステムさんが京都の西院に新たにオープンさせたものづくりの拠点。JR京都駅からはタクシーで15分くらいと少し離れていますが、阪急西院駅からは徒歩4分。実は地下鉄を使えばかなりアクセスしやすい場所かも。

〒615-0022 京都府京都市右京区西院平町22

この千利休の黒茶碗を思わせるマットな黒の外装のビルを一棟つかった拠点が、京都LiQビル。

この日は株式会社キャステム新規事業本部 係長の石井さんに特別にお願いして案内していただきました。この日はオープニングレセプションの次の日だったようで、1Fに並ぶたくさんの開店祝いの花を横目に眺めつつ階段を登りまずは2Fへ。

2Fの部屋に入ると、そこは白い多孔ボードで壁一面が覆われているラボ。そしてその壁には複数の3Dプリンターとキャステムさんの製作物が所狭しと並んでいます。

特に目に付くのが光造形方式と呼ばれる、高精細な3DプリンターではNo.1の人気を誇る「Form2」が2台ならんでいる所。現時点での3Dプリンターは出力に数時間かかることも多いが、これなら多少の量の出力依頼が重なっても対応できそうです。

その他にも棚の上には、製品化してすでに販売されているグッズだったり、今をときめく大物現代美術家とのコラボレーション作品などがたくさん陳列されていて、まさにラボの雰囲気。中には3Dスキャナーや3Dプリンターなどのデジタル技術を駆使したプロレスラーやスポーツ選手のグッズなども。 また本社が広島だけあって広島カープの公式グッズなども製作されているとか。

ここで、案内してくれた石井さんに株式会社キャステムとこのLiQビルについて色々と聞いてみました。

株式会社キャステムは現社長のお父様が創業しました。お菓子屋の保全部門に所属していた戸田昭三氏がミシン部品からスタートさせたのだとか。現在は2代目の戸田拓夫氏が代表で、精密鋳造など特徴とした金属加工事業を全国展開しています。またもともと一つの業態にこだわらず、新しいものを取り入れる気風があったそうです。

そしてこのLiQビルは、現代表取締役の戸田社長の発足させた新規事業部が中心となって設立されました。そのきっかけは株式会社キャステムさんが3Dプリンターを導入した2015年以降、顧客から高いデザイン性を要求されるケースが増えてきたことでした。

戸田社長は、これからの製造業は機械工学系の人材ばかりに注目するのではなく、高い感性や芸術性を持った人材を確保することが必要だと考えたそうです。そういった人材を集める場として、このLiQビルを位置づけているそう。まさに時代に適応した新しい製造業の姿という感があります。

つまりこのLiQビルは、従来の会社組織では対応できない新しいものづくりを担い、また京都の文化や地域性を生かして芸大生やアーティスト、また京都ならではの地域の職人との協業を促進する施設だということ。

そしてこの場所を立ち上げた石井さんを初めとする新規事業部は、戸田拓夫社長直属の部署で社長の号令の元に新しい事業にどんどんトライしていく精鋭部隊。彼らは社長直属のため意思決定も早く、通常の大企業では意思決定に時間がかかるような試みも迅速にスタートできるのが強みだとか。

2Fを見た後、4Fにあがるとそこは昼でも真っ暗に感じるほどの漆黒の壁が印象的なイベントスペース。こちらは将来的には錫工房になる予定。

ちなみにイベントスペースの塗装は、その色に関しても社内でこだわりの議論があった後、ギリギリになって石井さん自身がDIYで完成させたとか。ビルの階段におかれた脚立がその苦労を物語っていました。

3Fは京都、滋賀、北陸の従来品向けの営業マンが常駐。彼らもまた新しい分野に切り込んで行けるように、名古屋支店と大阪支店から1名づつ、20代の若者が2名体制で待機しています。

さらに上には京都市内を一望できる屋上も。

そして特に気になったのが1FのCTスキャンスタジオ。ここは株式会社ニコンインステックの計測用CTシステム「MCT225」を導入しているのが特徴。なんとその価格は約1億円。この高精度なCTスキャナーを使うことにより、物体の外形のスキャンだけでなく、素材や内部構造の解析データまでが手に入ります

このスキャナーで本物の仏像をスキャンしたデータを見せてもらいましたが、内部構造や見えないところに使われている釘などまでがはっきりとデータ化されていてびっくり!

このデータを生かすことで文化遺産の解析や服生物の作成などが簡単になったり、そのデータをさらに加工して3Dプリンターで出力したりと、アイディア次第で新たなものづくりの可能性が広がるのは間違いなさそうです。

もちろんこれらLiQビル内の豪華な設備にも感心しましたが、一番印象的なのは戸田社長と石井さんを初めとした新規事業部の動き方。従来の昭和型組織ではすぐに実現しにくいリスクをとった新しい事業や、面白そうだが収益化が難しそうな企画にもトライする姿勢がラボ内のユニークな製品群から伝わってきます。

さらにその株式会社キャステムの攻めの姿勢がうかがえる事業がLiQビルの他にも。

1つは、2017年からスタートした「Monovate(モノベート)」というものづくりをテーマにした異業種交流会。第一回目から、豪華なセミナー講師陣を揃え、結果秋葉原UDXを埋める200名以上のものづくり関係者を集めました。

またもう一つユニークなのは、上野に鋳造を身近に体験できるカフェ「IRONCAFe」をオープンし運営していること。

ここではおいしいコーヒーや軽食が楽しめるほか、金属加工系ものづくりをテーマとしたトークイベントや鋳造の仕組みが学べるワークショップなども積極的に行っています。このように製造業が一般の消費者との接点をつくるのに積極的なことも、これからの新しい製造業の傾向だと思います。


僕が知る限りでは、カフェと異業種交流会とクリエイター交流スペースを運営している製造業の会社は株式会社キャステムさんをおいて他にはないはず。キャステムさんのこの多角的な攻めの業態から、製造業の未来が垣間見えた気がしました。

そんなわけで僕は今後も1ファンとして株式会社キャステムさんの動向と、京都LiQビルに注目していきたいと思います。

ちなみに現在LiQビルはスタートしたばかりなのでオープン利用は準備中ですが、一般の方の見学も受け付けているそうです。もし興味をもった方はぜひ下の連絡先から問い合わせをしてみて下さい。

〒615-0022
京都市右京区西院平町22
株式会社キャステム京都LiQビル
075-325-1811
y-ishii@castem.co.jp
担当:石井様

株式会社キャステム
Monovate
IRONCAFe

#ものづくり #製造業 #京都 #メイドインジャパン

ものをつくるひとを応援するために、いろいろな現場を取材しています。ここで得たサポートは、その取材活動に活用させていただくことにしています。