見出し画像

石の上にも三年目の挑戦[1]

りんご音楽祭に出たい。そう思って何年経っただろう。
東京で暮らして3年目に突入する今年、いよいよりんご音楽祭に出るための行動を起こすことになった。

大学進学がきっかけで8年ほど暮らした大好きな街、松本。
3年前、そこから転職を機に東京にやってきたが、山に囲まれた美しい地方都市の暮らしをほどよく気に入り飽きることなく住んでいたわたしは、お金もなく知り合いも少ないこの街で2年半ほどまあまあ苦い汁をすすって暮らしていた。

山がない。お金もない。ただ同然で手にいれた自転車で行けるのは、気力と体力を併せてもせいぜい中野駅周辺までだ。街を歩いて偶然に友達に出会ったりしない。行きつけの場所もない。知り合いもいない。友達も少ない。23区内なのに、渋谷まで出るのに1時間かかる。お金もない。遊び方や価値観のあり方、コミュニケーションの取り方が違う。今までのようにやっても全くうまくいかず、次第に職場とジムとスーパーに行く以外は家から出なくなっていた。理由なく生きるには、あまりにもつらかった。

ここは、目標がある人のための街だ。
あるいは、お金を持つ人だけに開かれた街。

東京に来て一年目の秋、りんご音楽祭で松本に遊びにいった。
いつもはほかの市町村区や他県からやってくる友達を大勢泊めて、合宿場のようになっていた自分の家はもうない。当たり前だけれど、住んで暮らしていないと馴染んでいたはずの街からは締め出される。東京に来たときに、コミュニケーションの取り方が違うと感じたのと同じような気持ちを松本に対して感じた。この年もスタッフとしての参加だったけれど、よそものの気持ちで参加した最初の年だった。

その年の11月ごろ、イラストレーターの友人がわたしの歌を使った短いアニメーションを作ってくれた。自分は「作っていただいた側」かと思っていたが、友人はお礼にと焼き肉をごちそうしてくれた。才能があり努力を惜しまない同い年の友人の作品に参加できたのは嬉しかったし、それに久しぶりの外食だ。食事の間わたしはひどく盛り上がっていた。「Yaejiみたいにさ、なりたいよね!デザインとか音楽とか、いろいろできて。おしゃれだし…」と言ったきり、発言とは裏腹にその翌日にinstagramのアカウントを停止した。限界だった。りんご音楽祭から戻って来てほどなくして、ゆるやかに精神を落ち込ませていったわたしは突然、終わった。

表現をするためのインプットが足りない。インプットをするためにはお金が必要だ。あるいは、体力が。何かを発信するために、だれかの発信したものを見ないといけない。だれかが楽しそうにしているもの、行きたかったライブに行っていること、その全てにうんざりした。

友人に、イラストが面白いから絶対に日記を載せたらいいよ!と言われていたアドバイスにも、「すごくいいね!やってみる」と言ったきり。

そんな感じで記憶のない秋と冬へ突入したわたしは、年が明けた冬から春にかけて交通事故に2回も遭い、乱暴にまとめるとそういった一連のすべてがあって、今年も東京での暮らしを継続している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?