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そもそもアブストラクトゲームの「アブストラクト(abstract)」って何?について書いてみる。

この記事はアブストラクトゲーム Advent Calendar 2022の1日目の記事として書かれました。

はい、どうも。
珍ぬと申します。
3年半近く、noteでボードゲームやパズル関連の記事をかれこれ250本近く書いています。
今回、初めてAdventarのカレンダーをたててみました。

よろしくお願いします。

この記事は書かなくてもよい

いきなりちゃぶ台返しをします。
なにせ、数ヶ月前に加藤香流(Kanare_Abstract)さんが「アブストラクトゲームはなぜそう呼ばれているのか」という秀逸な記事(さらに関連記事2本)を書いているのです。

なので今更何を書くのか、という話です。
重箱をつつくような話題となりますので、補遺の補遺程度に扱っていただけるとさいわいです。

アブストラクトゲームと呼ばないとしたら?

本記事のタイトルの話題に入る前に、ちょっと寄り道をします。
アブストラクトゲームをアブストラクトゲーム以外の呼び方はいくつかあります。

加藤香流さんの記事では、
◆アブストラクト・ストラテジーゲーム(Abstract Strategy Games)
◆コンビナトリアルゲーム(Combinatorial Games)
の2つがあげられています。


アブストラクト・ストラテジーゲーム

「アブストラクト・ストラテジーゲーム」は、Boardgamegeekでもカテゴリとして使用している用語です。
今年逝去した松田道弘さんの著書『世界のゲーム事典』でも、数多くのアブストラクトゲームを紹介しています。

ただ、その際の呼び方は「戦略的ゲーム」です。
「アブストラクト・ストラテジーゲーム」は、ナカグロにあわせて「アブストラクト(抽象的)」な「ストラテジー(戦略)ゲーム」と読みとれます。
その一方、ナカグロの位置を変えることによって、「アブストラクトストラテジー・ゲーム」――「ストラテジー(戦略)をアブストラクト(抽象的)」した「ゲーム」とすると、松田さんのニュアンスに近くなります。

コンビナトリアルゲーム

もう1つの「コンビナトリアルゲーム」。
Combinatorial Gamesを翻訳すると「組合せゲーム」です。
数学の分野の1つに「組合せゲーム理論(Combinatorial Games Theory)」があります。
「コンビナトリアルゲーム」は、この理論の名称から採り上げた言葉です。

上のリンクは英語版で、日本語版Wikipediaではそれに相当するページがありません(ただし、カテゴリー:組合せ論の下位カテゴリーとして、作成されています)。

日本では、2015年に「日本組合せゲーム理論研究集会(Japan Combinatorial Game Theory Workshop (略してJCGTW))」があります。

【引用:「組合せゲーム理論とは」より】
組合せゲームとは、二人のプレイヤーが交互に手を打つ(着手する)ゲームであり、次の二つの性質を持つものです。
(1)確定性・・・サイコロを振るなどの偶然要素を含まない。
(2)完全情報性・・・ゲームの進行やお互いの手の内が隠されていない。

組合せゲーム理論は20世紀はじめに研究がはじまりました。
そして、1960年代にElwyn R. Berlekamp(エルウィン・ベルカンプ)さん、John H. Conway(ジョン・コンウェイ)さん、Richard K. Guy(リチャード・ガイ)さんらの共同研究です。
1982年に、彼らの研究結果を一般向けにまとめた著書が『Winning Ways for Your Mathematical Plays』(日本語訳されたのが『数学ゲーム必勝法』(全4巻))です。

https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10003200.html


いろいろと細かいこと(難解なこと)がなんぼでも書けそうですが、今回はここで割愛します。


断っておきたいのは、

「コンビナトリアルゲーム」
イコール
「アブストラクトゲーム」
というわけではありません。

「アブストラクトゲーム」の多くが、組合せゲーム理論で扱える対象となりえるので、完全一致ではなく大雑把にあわせている、くらいのニュアンスです。

アブストラクトの語源・抽象の語源

加藤香流さんの記事「アブストラクトゲームはなぜそう呼ばれているのか」から、一部引用します。

【引用】
この言葉はボードゲームの世界で流通している用語なのですが、以下のような二通りの意味があり、慣れない人をいささか当惑させる言葉になっています。

1.運の要素がない(ダイスを振ったりカードを引いたりしない)ゲーム
2.テーマ(SF、ファンタジー、戦争、歴史、etc…)がないか、薄いゲーム

――(中略)――

しかし「アブストラクト」(抽象)という言葉から直接導けそうなのは2の意味のほうです。日本語の「アブストラクトゲーム」は英語のAbstract Strategy Games (アブストラクト ストラテジー ゲーム、抽象戦略ゲーム)から来ていますが、「抽象」にしろ「戦略」にしろそれらの辞書的な定義自体には「運の要素がない」という意味はありません。

※太字は、珍ぬが追加で太くしました。

では、辞書的な定義ということで「abstract(アブストラクト)」の語源を調べてみます。
珍ぬ的には、おそらく接頭語が「ab-」で「ab-stract」と分離できると思っていました。
思っきり違ってました

【引用】
◉ 語源解説
「何かから(ab-)抜き出した(tractus)こと」がこの単語のコアの語源。
ラテン語 abstractus(引き抜いた)⇒ ラテン語 abstraho(引き抜く)⇒ ラテン語 ads-(~から離れて)+traho(引き抜く)⇒ 印欧語根 dreg-(引く)が語源。
英語 attract(引き付ける)と同じ語源をもつ。

引用元:「語源英和辞典」
https://gogen-ejd.info/abstract/

abs-」と「tract」に分けるのでした。

※「tract」由来の単語に「牽引機、トラクター(tractor)」などがあります。

語源「何かから抜き出したこと」ですが、

抽象の「抽」
これって、訓読みすると
「抽く(ひく)」
だよね。

ひきだしは「引き出し」とも書きますが「抽き出し」もあります。
このことから考えると、アブストラクトゲームは

テーマがないゲーム
というよりも、
テーマを抽き抜いたゲーム

とみるとよいかもしれません。
テーマに依存しない、テーマという衣服を脱いだすっぽんぽんゲームです。

さらにいえば、すっぽんぽんなら「かくしごと」がない(できない)の運の要素を抽き抜いた=完全情報も連想できます。

締め

ということで、「アブストラクト」って何?をおってみました。
すっぽんぽんを言い換えると、骨だけの「スケルトン」です。
アブストラクトゲームは、骨から旨味を煮出した「出汁ゲーム」です。

あっさりなのかこってりなのかは、いろいろです。
これからもアブストラクトゲームを楽しみましょう。

アブストラクトゲーム Advent Calendar 2022の2日目もよろしくおねがいします。

では。

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