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渋川動物公園へインタビュー|放し飼いの動物園!?

岡山県玉野市にある渋川動物公園。
今回は飼育員をされている「山根さん」にインタビュー取材をさせて頂きました。
約600頭羽の多くが放し飼いにされている渋川動物公園の魅力や、山根さんの日々の業務、動物たちへの想いをお届けします。

インタビュー開始

ー山根さんが現在担当されている業務内容を教えてください。

山根さん:園内が小動物メインの上エリアわんわんチームと、ウシやウマ、ヒツジなどの下エリアもーもーチームに分かれているのですが、私は受付を含めた小動物エリアの方を担当しています。

ー平日だと始業から終業までのタイムスケスケジュールはどのようになっていますか?

山根さん:7:30に出勤して、お昼の休憩が12:00-13:30までの実働8時間です。なんですが、今日も休憩入れたのは13:15くらいでした(笑)なかなか色々とその日によって対応が違ったりするので時間通りに休憩に入るのは難しいんですよね。

ーかなりお忙しい状況なのですね。

山根さん:そうですね。出勤したらまず受付エリアのトリたちを外に出したり、17匹いるネコたちのご飯を作ったり健康チェックをしたりしています。あとは24頭いるイヌたちのご飯をあげたりしているのですが、いつも同じものを食べているわけではないので「今日はどんなメニューにしようかな」とその子たちのことを考えながら作っています。なるべく色んなものを食べて腸内の善玉菌を増やしたりしてほしいので、毎日ドッグフードを〇杯あげるというような形ではなく、ドッグフードを中心に頂いたサツマイモに火を通してあげたりお肉をあげたりいろいろです。

ー毎日動物たちのことを想いながら対応を変えているんですね。

山根さん:そうですね。そこから受付付近や事務所内などの掃除をして、動物たちをそれぞれのポジションに移動させますね。アルダブラゾウガメやケヅメリクガメたちは自分で歩いて移動してくれます。

ー自分で歩いて持ち場に行ってくれるんですね!

山根さん:扉を開けたら歩いて自分で行ってくれますね。ゆっくりしている子はその場所に辿りつかずにお客様がいるところにずっといることもありますが(笑)

ー寄り道を楽しんでいるんですかね(笑)

山根さん:そうかもしれません(笑)うちは放し飼いにできる子はなるべく放し飼いにするというコンセプトでやっているので、歩いていたら大きなカメが目の前を横切るというような体験も楽しんで頂いてます。

ー園全体がふれあいコーナーになっているような所はあまり多くないと思うので、渋川動物公園ならではの魅力だなと感じました。

ゆずにゃん病院へ行くの巻

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ー餌をあげたりポジションに連れて行ったりするのにかなり時間がかかるものなのですね。

山根さん:いつも気付いたら「もうこんな時間!?あれもこれもまだ終わってない...!」ってなってます(笑)今日なんかは2週間前に避妊手術をしたネコのゆずにゃんという女の子を、抜糸のために動物病院へ連れて行ったりもしてました。

ー抜糸...!病院に連れて行くとなるとちょっとした抵抗にあうこともありそうですね。

山根さん:今日まで2週間ずっとエリザベスカラーをつけていて、やっとエリザベスが取れるねという話もしていたので、今日はそんなに嫌な顔はしていなかったですね。避妊手術はゆずにゃんのためといいますか、出産は控えてほしい、自分の体を大切にして欲しいと思ってのことなので、今日はゆずにゃんも私も足取りは少し軽めに行けたかなと。

ーそれはゆずにゃんとしても嬉しかったですね。

山根さん:ゆずにゃんは8:30から16:00くらいまで、園内をフリーに過ごしているネコちゃんなんです。でもここ2週間はエリザベスカラーをつけて「ここにいてね」と制限がかかっている状態だったので。

ーやっと自由に動き回れるようになったということですね。ちなみに今ゆずにゃんはどこにいるのですか?

山根さん:ゆずにゃんと書かれた首輪をつけて事務所内のここから見える所にいますね。まずは無事に終わって良かったです。

家族でのふれあいを大切に

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ー渋川動物公園は9人と園長で運営されているとお聞きしたのですが本当ですか?

山根さん:9人でフルメンバーですね。ただ、今日は2人休んでいるので7人で対応してます。

ー7名で600頭くらいのお世話をされているってことですね...!

山根さん:そうですね。平日だとそんな感じです。

ー朝から晩まで飼育・接客などをされている感じですね(山根さんは14:00~16:00は広報や経理など、他の業務をされているそうです)。

山根さん:そうですね。うちは飼育だけをするスタッフやチケットだけを売るスタッフという形では分かれていなくて、みんな全部をこなさなきゃいけないので、他の飼育スタッフが多い施設とは違うかなと思います。

ーそこまでお忙しいと、新しいイベント事や取り組みには手が回りづらい状況だったりしますか?

山根さん:本当にやるかやらないか、というやる気次第です。年賀状用に毎年動物と写真を撮ったりするイベントはしてますが、イベントはあまりしていない方針になってます。園長の「動物相手だといつも何か違ったことがあるから毎日がイベントだ」という考え方を大切にしてますね。

ーたしかにお客様から見たら行く度に違うことがあって、それがある意味イベントになっているという側面はあるかもしれないですね。

山根さん:他の水族館さんや動物園だと「〇時から〇時まで餌やり体験で、その次はショーをやります」などがあると思うのですが、うちは「何時から〇〇を行います!」みたいなものがないんです。だからこそ、園内をゆったりのんびりと散策してもらえればなと思います。

ー実家に帰ってきた安心感と言いますか、いつ来ても同じ渋川動物公園があるというのは魅力の一つなのかもしれませんね。

山根さん:昭和な雰囲気がありますよ(笑)うちはWi-Fiもないですし、山を利用して作ってるので、谷の部分だと電波も繋がりにくなったりしていて。

ー一種の隔離された空間になっているんですね。

山根さん:実はWi-Fiもわざと入れていないんです。せっかく家族で来たのにお父さんだけずっと座ってゲームをしてるとかではなく、園内で鳥の声や家族とのふれあいを大切に過ごして欲しいなと思っています。

ー家族みなさんでふれあってもらうための配慮を持っているからこそ、Wi-Fiもつけていないというこだわりがあるんですね。

山根さん:そうですね。「ここでゲームしてるから行っておいで〜」ではなく、子どもさんとたくさん遊んで欲しいですね。

出産に立ち会えるかも?

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ーお話を聞いていて色々なところにこだわりが見られたのですが、それも園長さんのこだわりが多いのですか?

山根さん:園長の方針ですね。オンリーワンにこだわっているところはありますね。

ー設立に関しても、たしか園長さんがお一人で立ち上げられたんですよね。

山根さん:そうですね。もう開園してから33年になります。私はオープン当初にはいなかったので今28年目ですね。

ーそんなに長く!

山根さん:はい、そんなにです(笑)歳がばれますね(笑)猛獣とか珍しい動物がいなくても30年以上やってこれたというのは、それなりの何かがあるんじゃないかなと思って頑張ってます。

ーリピートされるお客様も多そうですね。

山根さん:そうですね。フリーパスのお客様も増えましたね。

ーリピーターのお客さんはどういった点を楽しみに来園されているんですか?

山根さん:ご贔屓にしてらっしゃる子と会うために来て下さっている感じがしますね。ワンちゃんにしても、このワンちゃんが好きだからこの子とお散歩するために来るとか。

ー自分の推しの個体がいるという。

山根さん:そうですね。ワンちゃんですと制限時間なくお散歩を一緒にできたりするので、ワンちゃんも人間も両方楽しい、初めて会った日でも家族のように過ごせる。そんなワンコとの出会いの場所を目指して一緒にワンコたちとお仕事してます。なので、お家ではワンちゃんを飼えないけど、ここに来たらいつでもあの子がいるからっていう感じで会いに来て下さっているのかなと思います。

ーなるほど。実際に本物の動物を見たり触ったりする機会は少なくなっていると思うので、そういう時代だからこそ動物たちとのふれあいが心に残るのでしょうね。

山根さん:実際に触ると触らないのとでは、すごく大きな違いがあると思います。今はネットで調べればなんでもすぐに出てきますけど、一瞬でもいいから触る、ふれあうっていうところで大きく印象に残りますから。

ーたしかに...!

山根さん:あと小さなお子さんからおじいちゃんおばあちゃんまで、「初めての体験」をして頂きたいなと思ってます。赤ちゃんや2歳くらいの方だと初めてカメに触ったとか、初めてワンコに触ったとかっていう初めての体験も多いんですけど、おじいちゃんおばあちゃんにも何かしらの初めて体験をして帰って頂ければなと。リピーターの方はなかなか初めて体験は減っていってしまうとは思いますけど、その中でも初めて体験をしつつ、推しのメンバーとの時間を楽しんで頂ければなと思ってます。

ー初めて体験が少なくなっていっても、山根さんがさっき仰っていた毎日がイベントのようなものというところで新しい楽しみはありそうですね。

山根さん:例えば、目の前で赤ちゃんが生まれるところに遭遇する方もいたりしますね。うちはバックヤードで生むというよりも、飼育舎がオープンになっていてヤギの出産などに立ち会うことができたりもするんです。

ー出産に立ち会うこともできるのですね...!あの時生まれた子がこんなに大きくなったんだという成長過程も見ていけますし、渋川動物公園の魅力の一つですね。

一念発起して"好き"を仕事に

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ーちなみに山根さんが渋川動物公園に入社された経緯もお聞きできますか?

山根さん:子どもの時から家でリスザルやオウムなど色んな生き物を飼っていて、そこから動物好きが始まったんですけど、最初は社会人としてスーツを着て勤務をしていてたんです。ずっと動物関係のお仕事をやってみたいなと思ってはいたものの、お休みもあまりなく、好きな仕事ではなく休みと給料のための仕事に就いておりました。

ー初めから動物園に勤務していたわけではないんですね。

山根さん:はい。ただ、このまま結婚してしまったら、やりたかった動物関係の仕事に携わることはできないだろうなと。これはちょっとまずいなと思いまして。実家からすぐ近くにこの動物園が出来たことは知っていたんですけど、何か近づいてはいけない感覚もあって。

ーなぜ近づいてはいけない感覚があったんでしょう?

山根さん:うーん、そうですねえ。たぶん「動物関係の仕事がこんなすぐ近くにあるのに!」ってなっちゃうと思ったのかなと。でも23のときにこれを逃したらチャンスはないなと思い、求人を出してるか確認してみたところ絶賛募集中とのことだったので。

ーそれで応募して今に至るというわけですね。

山根さん:もちろん子どもが生まれてフルタイムではなかった時期もあるんですけど、あれから28年間働いてきましたね。

ー「好きなことを仕事にしたいけどなかなか勇気が出ない」という方もたくさんいらっしゃるかと思うのですが、山根さんはどうして一歩踏み込んで好きを仕事にしようという行動を取れたのですか?

山根さん:22歳のとき、ペットショップでワンちゃんの販売に携わったことが一瞬だけあったんです。動物に関わるお仕事というものに一瞬触れただけだったんですけど、やっぱり今私がやっている仕事は全然やりたくてやってる仕事じゃないなというのを感じたんですよね。

ーそこで現状とのギャップに気づいて、やっぱり動物関連の仕事をしたいという想いが強まったんですね。

山根さん:はい。昔は結婚して普通に出産してというイメージを持っていたので、こんなに長く続けられるイメージは持てていなかったんですけど。でもこのままじゃダメだろうということでまずは行動しましたね。

ー「こんなに長く続くとは思っていなかった」という話がありましたが、長く続いている理由はどこにありますか?

山根さん:この子たちがいるからですね。動物がいるからというよりも、この子たちみんながいるから続いてます。

ーこの種がいるから、ではなく〇〇くん、〇〇ちゃんがいるからという感じですね。それがあっての28年間という積み重ねだったわけですね。

山根さん:ですね。離れることはちょっとイメージできないですね。

馬たちの過ごす場所の土壌を変えたり動物が暮らしやすい環境に変えたりしていきたい

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ー最後の質問になりますが、もし臨時収入で使い切れないほどのお金が入ってきて、資金にも人的負担にも余裕が出てきたらどのようなことに取り組みたいですか?

山根さん:園内の景観を崩さずに自然を残したまま、より水はけのいい地面に変えたいです。年々かなりの大雨が降るようになってきましたけど、前はこんなに一気に降らなかったんですね。これから20年、30年と経てばもっと強くなっていく可能性がありますから。もし園にお金が入るのならばそういった部分ですとか、人間も動物たちも喜べるような環境にしてあげたいですね。

ー環境エンリッチメント的な動物福祉の観点ですかね。

山根さん:そうですね。人間だけが嬉しい場所じゃなくて、人間も動物たちも嬉しい。そういう動物園になればいいなと思ってるので。

ー世界的にはそういう方向に向かってますけど、日本だとなかなかそこに手が回っていないですからね。

山根さん:ずっと檻に入っていて、ここだけでしか動けないっていう状況は回避してあげたいですよね。自分の意思で動く動物たちをなるべく狭い場所に閉じ込めず、動物たちの魅力をより知って頂ければと。動物が好きだから動物たちを守る取り組みにも意識を向けようと、そう思って頂けるようにもなりたいですね。

ー動物が好きというところから、さらに守りたいというところまでいけるような。

山根さん:ただの展示で終わって「動物たち可愛かったね」って言って帰るだけでなく。福祉的な方向にも興味を持って頂いて、なんなら海洋プラスチックを減らす事や温暖化を防げるくらいの考えにも興味を持って頂ける状態になればいいなと思いますね。

ー大変共感いたしました。最後に来園されたお客さんに「ここだけは見て欲しい」というポイントがあれば教えて頂けますか。

山根さん:汚れてもいい服装で来てもらって、ワンちゃんとのお散歩や乗馬体験などたくさんふれあいをして頂ければと思います。コロナ禍ではありますが、マスクと入り口での消毒をしっかりしてもらえれば入園できますので。こういう世の中になったからこそ、ふれあって命の温もりを感じる体験をして頂けたらなと思います。

編集部より

渋川動物公園ではワンちゃんとのお散歩や乗馬体験など、たくさんの動物たちとふれあうことができます。
自然豊かな園内でゆったりとした時間をお過ごしください!
もしかすると赤ちゃん誕生の瞬間にも立ち会えるかも...?

渋川動物公園のことをもっと知りたい方はこちらをチェック↓

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【追記】
インタビュー取材後に山根さんから心温まるお手紙を頂きました。
このような優しさのあふれる方々がいる場所だからこそ、30年以上も愛され続けているのだなと思いました。
どこかのタイミングで時間を作って渋川動物公園に遊びにいきます。

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