イエメンの男性医師の話(家人談)

◆【感想】◆

「イエメンの男性医師」が終わった。

感想は「むこうの攻略マニュアル、よく出来てやがんな~」である。
リアリティは全くない。小学生でもツッコむレベル。
でも進行がスピーディでツッコませない。

要約ツイートを読んだ方には、イエメンの男性医師は実在すると思い、
支離滅裂な彼のメンタルを心配する人もいますけど心配ご無用。
「イエメンの男性医師」は実在しません。

イエメンの男性医師の書き込みには、人間らしいムダが全くない。
タイプ量も最小である。
なんだかんだと駄弁を弄していた当方の書き込み量の10分の1もないのではないか。

「あなたは素晴らしい人だ!」とか何とか、
盛り上がったときの書き込みは多めにタイプしているが、
よく見ると正確な繰り返し、コピペである。

イエメンの男性医師側の無茶な要求で、
会話がモメて雰囲気が悪くなっても、一言も謝らない。
言い訳も一切しない。

一つの話題が(当方からカネをしぼり取る上で)行き詰まると、
サッと他の話題に移り、ちょっとした感想や、こちらの気持ちを慮る言葉、
場を和ませるためのひと言などは、ただの一行もない。

また、その話題にはその後、まったく言及しない。

とにかく「中の人」が、最小限の労力で続けられて、
ゆすりのネタの仕込みに最短距離で直行するスタイルになっている。

会話の間中、私の圧倒的な感触は「私はいま機械を相手にしている」だった。

オール機械ではないとは思うが、AIが支援しているのかもしれない。
少なくとも、よくできたチャートが組まれているのは間違いない。

イエメンの男性医師はファンタジーな発言をする。

曰く
「私は数十億ドルの資産をもっている」
「私の父は成功した億万長者だったが、妻に暗殺された」
「私はイエメンの国連病院で30人のスタッフを指揮する医師である」
「私はイエメンの人々を救う救世主なのだが、とっとと退職して東京で投資家になる(え?イエメンの人たちは?)」
「私は日本の医師資格が無いが、東京で大病院を建設しそこの院長になるつもりだ」(どうやって?)
「私はショッピングモールを建設しそこの経営者になる」

そして、私に様々な仕事をオファーしてくれる。
「君は私の病院の理事長になれ」
「私のショッピングセンター建設の監督をやれ(月給は一千万円)」
「東京で私の個人的な助手を務めろ」
「私の荷物を受け取って保管しといてくれ」

オファーのときも、無骨な口調は使わない。
「あなたにそばにいて欲しい」など、
80年代アイドル歌謡曲の歌詞ライクなポエムで口説いてくる。

これらの発言にはもちろん意図がある。

こちらを感心させ、畏怖させ、圧倒し、
向こうの申し出に、一度でいいから、うっかり「ハイ」と答えさせて、
なんらかの言質をとるのが目的。

私がうっかり相手のオファーの一つに「ハイ」とか言い、
病院の理事長か、ショッピングモール建設の現場監督か、
彼の個人秘書への就任に同意していたら、
タイヘンだっただろう。

最後の「彼の荷物を預かる」という身近なオファーすら、
エラいことになったろう。

なにしろ彼が送ってよこすはずだった荷物には「軍事書類」が入っている。
「軍事書類」って何だ?
おっかねえ…。

「いいですよ。送りなさい」と請け合ったら向こうにとってはしめたもの。
何も送らず、しばらくして「荷物を確認しろ」と(突然アタリがキツくなった)要求をする。

当然こっちが「え?何も届いてないけど…」と答えると、事態は急転直下。
「何!?あれには重要な軍事機密が入っていたんだぞ!緊急事態だ!オマエのせいだ!」

あとはもう、賠償とか法的手続きとか、物騒なコトバが乱れ飛ぶカオス空間に直行である。
二十万円とか三十万円とか〝微妙にこっちが払える額のおカネ〟を貢ぐまで、騒ぎは収まらないだろう。

では病院やショッピングモール建設の監督への就任に同意していたらどうだったろう?
そんなこと実際に担当させられたらタイヘンだが、まさかそんな事業が本当に始まるはずもない。
しかし…である。

「オマエはこの事業の監督だろう。これこれの支払いを立て替えて払っておけ」
「この口座に送金すればいい」
「オマエの名前を責任者として登録してしまった。オマエの名前で支払う必要がある」
「心配するな。立て替え金はすぐこちらから補填する。オマエの口座を教えろ」
「いますぐ払わなければ、もっと高い違約金が発生する」

このようなミッションがくることは、大いにありうる。

〈建設資材の買い付け〉みたいな大きな買い物ではなく、
登記とか事務手続きなら、十万~二十万円くらいの経費でもおかしくない。
そうやって二十万円くらいをだまし取られた被害者は、それなりにいるようだ。

もちろん「イエメンで軍医をやってる」を始めとするこれらの自称は、
矛盾だらけの与太である。小学生でも分かる。

その矛盾をついて、狼狽える彼を見るのが楽しみだったのだが、その試みは全て失敗した。
イエメンの男性医師のスルー力が強いので。

私は礼儀に反しない範囲で、過去の発言の矛盾を突いた。
(礼儀を守らないと、会話が荒れてつまらなくなる)

「イエメンの医師ならイエメンにいる証拠写真を見せろ」
「日本の医師国家資格はあるのか?」
「数十億ドルの資産があるなら、顧問弁護士とかマネージャーとか一杯抱えてるだろ?なんで一人で東京来るの?」
「大金持ちのくせに、荷物を受け取るのに、10日前に知り合った赤の他人の家に送るの、ヘンじゃない?」

イエメンの男性医師の反応は、毎回、見事に定型的だった。

(1)すごく適当な答えを返す。(「日本の医師国家試験、受けマ~ス!」みたいなの)
(2)「私の友達はあなただけだからデース!」という哀れっぽいトークに逃げる。
(3)「兄弟と呼んでイイですか?」という定番フレーズを出す。

とくに三番目の「兄弟と呼ばせて!」には、毎回、うならされた。
「それ、ここで出すんかーい!」と、出してくるタイミングが絶妙なのだ。

「兄弟」を出すと、キモチ悪い発言なので、当然、私は断る。
するとイエメンの男性医師は「なぜ私を兄弟として受容れられないのだ!なぜだ!」と熱量を増して迫ってくる。
当然、場は荒れる。
すると私が突っ込んでいた矛盾など、どこかへ言ってしまう。

そして「兄弟」で時間を稼いでいる間に
「私は勤務時間が来たので、哀れな貧しいイエメン人(超失礼)を救いに病院に行く」という、
もう一つのパワーワードが出てきてしまう。

そのあと一晩、または数時間が経つと
「数十億ドルの資産」も「病院建設」も「ショッピングモール建設」も、
イエメンの男性医師の頭から完全にフラッシュされ、二度と思い出されることはなくなる。

一晩にして、新しいイエメンの男性医師に生まれ変わったかのようである。
いや、実際に中の人が交代したんだと思う。

攻略マニュアルには「一つのネタで押して、カネをゆすり取る言質が取れなかったら、
そのネタは忘却して、なかったことにしろ」というルールがあると思う。

相手(つまりワタシ)がしつこく過去発言の矛盾を突いてきたら、

(1)適当に調子会わせる(ではそうしマ~ス!/その通りデ~ス!)
(2)ワタシにはあなただけしかいない!(ロマンス発言)
(3)兄弟!(定番)

の三連コンボで撃退する。
矛盾のない経歴や発言を考えるより、よっぽどラクである。
いやはや、ホントに上手く出来てるよこれ。

◆【教訓】◆

「イエメンの男性医師」には、日本人(に限らず、世界中の被害者)をひっかける
ネット詐欺の、いま現在の黄金パターンが網羅されているんじゃないかと、勝手に思っている。
(ネット詐欺のトレンドなんて知らないけど)

ツカミは〝いかにも〟である。

イエメンの男性医師が接触してきたのは、とあるSNS。
(そこでの登録名はイエメンの男性医師とは違った)

アイコンには可愛い猫の写真。
中味は猫とお花の写真でいっぱい。
自己紹介欄は「猫は世界の宝デス」みたいな、どうでもいい日本語ポエム。

それぞれの写真のアップ日時を見ると、今年の5月に登録して、
ちょうど一ヶ月ごとに、月初めにまとめてアップされている。

釣りアカだよね、これ。

そこで会話が始まると日本文化や日本アニメをベタぼめである。
「日本人って日本のアニメだけほめときゃゴキゲンだろ?」と、ナメられているようである。

そこから他のSNSに移行したが、そこでイエメンの男性医師の名前が変わった。
こっちのアイコンは富士山と桜の花である。日本大好きアピール。

ここでワタシはイエメンの男性医師の、驚異の人格とキャリアに触れた。

なにしろ「激戦地イエメンで三十人以上の医療スタッフを指揮して、
貧しいイエメン人(すごく失礼)を救う、国連勤務三十年の医師」にして
「巨万の富を築いたビジネス・タイクーンでありながら、自分の妻に暗殺された父を持つ男」である。

「資産数十億ドルの富豪」にして
「東京で(日本の医師資格も無いまま)大病院を建設する未来の院長」にして
「東京でショッピングモールを建設する実業家」でもある。

読者諸兄においては

・日本文化や日本アニメは素晴らしい。
・自分は超金持ちである。
・近々日本にいってビジネスを始める。

の三点セットが入ってたら、間違いなく詐欺師である。ブロックしよう。

トークの手法もよく出来ていた。
「ワタシにはあなたしか友達がいない」みたいな哀れっぽいトークを仕掛けてくることは、もう書いた。

もう一つ、こちらが男性医師の思うように動かないと
「私はいまあなたにとても腹を立てています!」と、突然、怒るのだ。
気の弱い人なら、すぐ守勢に追いやられてしまうだろう。

カネをゆすり取るための〝オファー〟も、
「これがダメだったらそれ、それもダメだったらアレ」と、効率良く繰り出してくる。

私が全て「だが断る!」したので一度も「カネを振り込め」展開には至らなかったが。
断るのが苦手な方だったらタイヘンである。

つくづく嫌な男である。
ゆかいにリライトされた要約ツイートからは伝わらなかったと思うが、
私の感触は終始「嫌悪」そのものだった。

「イエメンでの紛争」という深刻な事態をネタにして、心理的ショックでマウントをとるやり方は最悪だった。
「日本人はこういう世界の現実、知らないだろ?」とバカにされてる感じも、おおいにあった。
もっともらしく見せる具材として、戦争の犠牲者の患部や手術中の写真を送ってきたのは、本当にヒドいと思う。

「イエメンの男性医師」に関わっていた連中全員の頭部を、落雷か、建築現場から落ちた建材が直撃しますように。
また彼ら全員の内臓に、不治の病の源が発生し、発見されたときには、手遅れなまで成長していますように。

ともあれ、今回、彼ら詐欺師の(現在の)手口や手法について、様々な実例に触れることが出来たのは収穫である。
筆者は、そのために今回、あえて彼らとの会話を引き延ばし、実例収集に努めた次第だ。

ごめんなさい、嘘です。
面白かったからです。

面白くても危険なので、みんなは、
〈三点セット〉があったら即ブロック・アク禁でお願いします。

参考にして頂けたら嬉しいです。

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