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「観る」と「語る」のセットで深まる観劇体験の良さとその可能性

『プラータナー:憑依のポートレート』という演劇と、その観劇体験を高めるワークショップ「あなたのポストトーク」がとても良いものでした。

『プラータナー:憑依のポートレート』とは

2018年にバンコクで世界初演を迎えた『プラータナー:憑依のポートレート』は、タイの現代史と、そこで生きる一人の芸術家を描く物語。国家、政治対立、芸術、セックス、ポップカルチャー、繰り返し起こる軍事クーデター。それらが渦巻くなかで、彼は人生の幸福と孤独に心と身体を囚われ、引き裂かれ、それでもなお生きることを望み、欲望する。
これは、決してタイだけの物語ではない。今を生きる、私たちとあなたたちの物語。(公式サイトより)

幅広いテーマを行ったり来たり掘ったり混ぜたりして、上演時間はなんと4時間。『タイタニック』より長時間の超重量級演劇です。

特徴的な演出や仕掛けは数えきれないほどあるのですが、なかでも全編を通じて印象深いのは主人公のカオシンがあまり名前を呼ばれず、他の人物から“あなた”と言われ続ける点です(ちなみに、タイの俳優さんたちが演じているので、セリフは舞台後方にあるスクリーンに日本語字幕が映されていました)。

それが観客たちが物語を「タイの話」としてだけでなく、自分達のこととして捉えてしまう仕掛けになっていて、不思議な観劇体験をつくります。

また、「新しい演劇との出会い方を見つけよう」をコンセプトに劇の外での展開も多く企画されていました。

清水淳子さんをメンターとして、演劇をグラフィックレコーディングするワークショップがあったり、臼井隆志さんのファシリテートで観劇後に感想を語り合う「あなたのポストトーク」があったり。

僕はふだんは積極的に演劇を観る人ではないのですが、臼井さんがワークショップをするのと、公式ガイドブックを編集されているのが大学時代からお世話になっている先生だったという2軸で縁を感じたので、観に行くことにしたのでした。

観劇後に語り合う「あなたのポストトーク」

「あなたのポストトーク」は『プラータナー』観劇後に、観てきた人たち同士で語り合うイベントです。

しかし、ただ集められて「さぁ存分に語ってください!」とやってもしょうがないので、ワークショップデザイナーである臼井さんが語りやすくなる場を設計したワークショップになっています。

臼井さんとはピースオブケイク社での「noteが書きたくなるワークショップ」を一緒につくったり、コラボさせていただくことは何回かありました。でも実は臼井さんのワークショップに参加者として参加したことはなかったので、とっても楽しみにして臨みました。

そしてやっぱり素晴らしい時間でした。
参加者たちは印象的だったシーンや感想を、時間制限と仕掛けが用意された場で気持ちよく語ることができます。

さらに贅沢なことに、参加者たちはもう一つのイベントである清水さんのワークショップで描かれたグラフィックレコーディングを見ながら、「あのシーンはああだったよね」「なるほどそういう意味があったのか」と解像度を高めながらおしゃべりすることができます。

ちなみに僕は『プラータナー』の特徴として先程挙げた、"あなた"というフレーズについて話をしました。

TRPG(トークロールプレイングゲーム)っぽいなと思ったんです。TRPGというジャンルではGM(ゲームマスター)が、プレイヤーたちにシナリオを読み上げるとき、「あなたたちは…」「君たちは…」などという文法を使います。(「君たちはゴブリンの巣の目の前に立っている…」とか)

それはプレイヤーが各々のキャラクターをつくり、それをロールプレイするというTRPGの性質上、特定の名前で呼ぶわけにはいかないからこその文法なのですが、それが演劇で使われると観客を舞台に引き込む効果を生むのか…と思ったのでした。

こういうこと、普段は思いついても喋る機会がありません。特に演劇は同じものを観ている人が限られるし、仮に友達などと観に行ってもわざわざルールを設けて語る時間をつくりはしないからです。

ですがワークショップという時間、話を確実に面白がってくれる人に向かってできる機会があると、この劇を観てよかったなと更に思えるし、深く味わえます。

そして臼井さんは参加者を主役にする達人ですから、あの場にいた人はみんな、かなり気持ちよく自分のプラータナーについて話せたんじゃないでしょうか。

こうした試みはプラータナーが4時間もの超大作で多数の切り口があるからこそ持ち上がったものだとは思いますが、もうちょっと短い映画などでもやってみたら面白いんじゃないかと思いました。

たとえば『アベンジャーズ/エンドゲーム』のポストトークワークショップなんてやったら、参加したい人はめちゃくちゃいそうです。

というわけで「新しい演劇との出会い方を見つけよう」というコンセプトから、新しいエンタメとの出会い方のヒントを教えてもらえた素敵な時間でした。ありがとうございました!

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ボードゲームデザイナー/株式会社バンソウ取締役 ボードゲームをつくる仕事をしています。『トポロメモリー』『コトバグラム』などを作りました。スキをいただくと、オススメなボードゲームをご紹介。 お仕事のご依頼・ご相談は、noteの仕事依頼ページのフォームからお願いします。
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