行き先のわからない旅行記 (6)

初めて家に遊びに来てくれた人には「ご地元はどこですか」と聞くことにしている。47都道府県全てに行っているからこそ(海外生まれは別として)、だいたいの人に対して「以前お伺いしましたよ」と返すことができるからだ。食事によるもてなし以上に、喜んでくださる。旅行が好きなのは「これから出会うたくさんの人たちにとっての大切な場所を、先に知っておきたいから」という気持ちが大きいのだ。

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雲仙岳を眺めながらフェリーで熊本へと向かう。このフェリーは、その何年か前に逆方向(つまり熊本側から長崎方面へ)に乗ったことがあるので2回め。逆向きに乗ると、前回とはちょっと違うイメージで面白い。

熊本のフェリー降り場から熊本駅方向に路線バスに乗るが…遠い。この日はすでにかなり長いこと移動しており、暑さも手伝ってだいぶ疲れてきた。「熊本で一泊したほうがいいかも」などと思い始める。

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例のごとく車道でのルートになってますが、実際は線路です。

熊本地震が起こった2016年。その翌年に、一度熊本を訪れている。その時は車だったので高速道路を走ったわけだが、まだ復旧工事をしている箇所もたくさんあった。この旅行は2019年なので、それから2年が経っているわけだ。「もろもろ落ち着いただろうか…」

熊本駅に到着して、大層おどろく。建物が大きく様変わりしていたからだ。知らなかった。前に来た時は「随分と趣のある駅舎だなぁ」と思っていたのだから、急に現代的なデザインにはなおさら衝撃だった。

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前回来訪時の熊本駅。「中央階段にエスカレーターがない駅なんて、本当にターミナル駅としてどうかしてるよね」と自虐を言っていた友人の言葉を思い出す。大体同じアングルで撮ったのが次の写真。

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駅舎の立っている場所自体が奥に移動した感じ。真っ白だった駅舎は、モダンな黒い駅に。

「駅舎が新しいものに変わる」というのは、ある人に言わせれば「昔の面影を壊す行為だ」…などと、とかく批判の対象になりやすい。最近で言えば若者の街、原宿駅が、かつてのイギリス木造建築であった瀟洒な駅舎を新しいものへと変え、3月から使われ始めているがこれも反対が多かったようだ。確かに気持ちもわかる。しかし…「面影を守ることばかりに頭が行き、その他のことを考えない」というのは少々危険なのかもしれない…と思い始めるようになった。

「景観を損ねる」と反対運動を起こし、結果、(奏効し)堤防が整備されなかったため、大雨の影響で堤防が決壊したケースなども思い出される。誰もが使いやすい、ユニバーサルデザインな世の中のためには、多少の思い出は諦めなくてはいけないのかもしれない。「以前の熊本駅に、一度来れていてよかったな」と思うようにした。当然、新しい駅はとても快適だった。

熊本で一泊してから宮崎に向かうことを決め、ホテルを予約し、久しぶりに熊本市の繁華街へと出かけた。早くから動き始めたので、たくさんのバーに行くことができた。

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Bar Amber、Bar Blue、Bar 高松、本田Bar、ひとくちお茶漬け どろや、Bar Masquerade

写真はBar Masquerade(マスケラード)さんというお店で、このお店がすごいのはなんといってもカウンター。一面にバラの花が敷き詰められているという、インパクト絶大のカウンターなのだ。熊本にはとても良いバーがたくさんあるので、ついつい色々回ってしまう。

また「なぜだか分からないが、熊本に行くとお茶漬けを食べる」という習慣があるので、以前行った店を探すも(酔いも手伝って)見つけられず… 「どろや」というお茶漬け屋に入った。なかなか気が利いていて美味しかった。あの以前行った店はもうやってないのだろうか… ぐらんぐらんになった酔客が入るのにはちょうどいい、雑然とした感じの暗い店だったのだが…

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熊本といえば、熊本市より南の内陸に「人吉市(ひとよしし)」という小さな城下町がある。知人が住んでいるため行ったことがあるが、とても良いところだ。電車が好きな人ならSLを思い出すかもしれないし、名物の栗めしや鮎ずしも有名である。

そんな人吉の場末に「おばちゃんが一人でやってる小料理屋」のイメージそのものの店があるのを見つけ、雨降りの中行ったところ「今日はお茶ッ挽き(※客ゼロの意)かと思った」と迎え入れてくれたことがある。「裏の山で取れた」という野いちごを食べさせてくれたことが懐かしい。

人吉市は、中央を球磨川(くまがわ)が流れる、典型的な川沿い都市なのだが「球磨焼酎」という焼酎の産地としても有名だ。クセの少ない米焼酎で、一時期このお酒に相当ハマっていたことがある。「お酒はあまり得意ではない」という親交の深いボカロPが家に来た時、「しろ」という名前の球磨焼酎を勧めたところ、大変に気に入り、その後は自分からこれを求めて飲むようになったくらいだ。

明日はバスで宮崎に向かうことにしよう。降りることは今回に関してはかなわないが、人吉市も通るはずだ。車窓をたよりに、色々と思い出してみるのもいいかもしれない。

(続く)

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