行き先のわからない旅行記 (2)

「このあと、行き先が決まってないんです。どこに行ったらいいでしょうか。」

少し驚いたマダム3人は、僕が東京から来たことを確認すると「あっちがいい、こっちがいい」といろいろ協議をしてくれて、最終的に「津和野(つわの)が良いと思う」と結論づけてくれた。

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コーヒーを飲もうと入った不思議な喫茶店。見た目は田舎の美容室だが、奥にはロの字型でテーブルが置かれ、さらにカラオケの機械が入っている。壁には隙間なく演歌歌手のポスターが貼られていた。

益田からは、3方向に電車が伸びていたので実質このなかのどれかになることは分かっていたのだが、津和野出身だというおばさまの熱烈なプッシュにより、一番ディープそうな南方面に落ち着いたのだ。途中、喫茶店のご主人が出てきて「萩のほうが…」と助言を試みてくれたが、3人のパワーには結局かなわなかった。

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【飛ばしてもいいです】全国いたるところに「小京都」と呼ばれる土地はあるが、この津和野は「山陰の小京都」と呼ばれ、城下町のおもむきを今に伝えている素敵な町である。殿町通りには、白い土塀や、なまこ壁、「このまんまここに残っていたんだろうな」と思わせる、江戸時代の商店の間口を見ることができる。京都の伏見稲荷に有名な”千本鳥居”があるが、ここ津和野にも「五大稲荷」の一つ、太鼓谷稲成神社があり、規模は小さいにせよ朱色の鳥居が境内まで続いている。

津和野の町並みを散策したあとは、同じ方向の列車で山口市へと向かう。新山口駅の近くのビジネスホテルに荷物を置いたあと、来た路線を逆に戻る方向で「湯田温泉駅」で降車。温泉街の町並みを楽しみつつ、山口駅前まで歩くことに。途中、知り合いのバーテンダーに「山口でおすすめのバーは」と聞いたところ、紹介してもらえたのでそこに向かうことにしたのだ。

このバーテンダー、名前を松沢君という。どこか地方に足を向けたときは、必ずと行っていいほどこの松沢君に「山口 バー 検索」などとふざけたLINEを送る習慣がついた。本人の実家も長野でバーをやっていて、東京の名店「ベンフィディック」での勤務ののち、階下の系列店「B&F」で数年(この店で知り合う)。20代ながら先日ついに神楽坂で独立を果たした、「バーテンダー界のサラブレッド」のような人間なのだ(…なのだろう)。

松沢君が働いていた「ベンフィディック」という店の名前は、日本のバーテンダーからしてみれば有名すぎる存在で、特にオーナーの鹿山(かやま)氏の名は、自分のような「バー好きな人」でもしょっちゅう耳にするほどだ。どの店に行けば間違いないかは、さすがは『餅は餅屋』、いっこうに外したことが無いので信頼しきっているというわけ。

そういえば。松沢君が独立をして自分の店を構えるまでの間、「準備期間」と称した長期休暇を取っていたので、それはそれは色んな店に誘い、行ったものだ。あげく、拙宅に友人を呼んで食事を振る舞う時など、彼にわざわざ「店で営業している時と同じ格好で」来てもらい、キーボードスタンドに板を置き、テーブルクロスを敷いて簡易的なカウンターを用意し、さまざまなリキュールを揃え、フレッシュフルーツを使ったカクテルを作ってもらった事も何度かあった。

「あの時、歌い手に作ってあげたカクテルのレシピを覚えてるか」と聞いたところ「お客様のお好みを覚えるのもバーテンダーの仕事ですので」と笑っていたので、この状況が落ち着いた折に、興味のある方は実際に神楽坂のバーで注文してみるのも楽しいだろうと思う。同じものを出してくれることだろう。

さて。教えられたバーに入るにはまだ少し時間も早い。ここのところ和食続きだったので、近くに気の利いたビストロなど無いかと探してみたところ、すがすがしいワインバーを見つけたので入ってみる。カツオとラズベリーのタルタル仕立て。皮はソテーされカリカリとさせ、トマト・ポルチーニ・バジルのソースで合えた地鶏のヴァプール(蒸し)。ソーヴィニヨン・ブランのワイン。

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「ワイン&ビストロ Pépan」。その後のバーは2軒で、「BAR SPEYSIDE」、「ショクバ」(すべて山口市米屋町)。

2軒めのバーでバーテンダーさんに「今日ここに居ることはたまたまで…」という旨の話をしていたところ、横で飲んでいた青年が「もしかして」と話しかけてくれた。Twitterで見ていてくれていたらしい。

酔いも手伝い、うながされるままバーテンダーさんも含め3人で写真を撮った後は、そのままホテルに戻る。最後のバーテンダーさんに「やっぱり九州のバーは面白いですから、九州に行かれては」と言われ、どことなく気持ちは九州に向いていた。(続く)

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