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科学の視点で散歩 -色について考える-

 最近、1歳になった娘が家の中に飽きた様子で、よくわめきます。なだめようとするも効果がなく、根負けして自宅の周囲を散歩することがよくあります。だいぶ重くなった娘を抱えて歩いていると、視界に飛び込んでくるのは家や車、野花などのよくある田舎の光景。

 私も科学者の端くれでありますので、そういった光景の中にある科学を考察してみることにしました。今回は「」についてです。

 誰にでもわかるよう、平易な文章を心がけていますので、理科や科学が好きな人、興味ある人だけでなく、昔苦手だった人にも読んでいただけると嬉しく思います。

花の色から考える

 タンポポ、アサガオ、カタバミ、ツルニチニチソウ、春の道端にはきれいな花々が咲いています。これは花を目立たせ、虫たちにアピールすることで花粉を運んでもらう、という植物の生存戦略として知られています。もちろん花の種類によって色が違います。

 では、そもそも色とは何でしょうか?

 色は、私たちの目に飛び込んでくる「」です。赤や青などの人間が認識できる光、これを可視光線といいます。一方で、紫外線や赤外線など肉眼では認識できない光もあります。

 日中の屋外では、主に太陽光が色の源です。太陽光は白色に見えますが、その白色の中にはいろいろな色が混ざっています。太陽光が花にあたると、吸収される光、反射される光に分かれます。吸収される光は私たちの目に入ってきません。一方、花に反射される光は私たちの目に飛び込んできます。

 タンポポの場合、主に黄色い光が反射されています。厳密には、黄色だけが反射されているのではなく、いくつかの光が反射されており、それが合わさって黄色に見えているという解釈が正しいと思います。
 
 日中のタンポポは黄色ですが、夜は黒色に見えます。光源となる太陽光がないからです。黒色はほとんどの光を吸収しており、反射して目に飛び込んでくる光がない状態です。黒いTシャツって他の色のより温まりやすいですよね。黒は色々な光を吸収している状態なので、光のエネルギーをその分受けているので、他の色よりも温まりやすいんですよ。

私の色とあなたの色

 「私が見ている色とあなたが見ている色は同じなのか?」これは、私が学生時代から感じていた疑問です。私が持っている赤色のリンゴはあなたから見たら、(私が認識している)青色かもしれない。私が運転している緑色の車は、あなたにとっての黄色かもしれない。

 光には固有の波長があるので、機械で測定すれば、どの波長の光かは判断できます。しかし、受け側である目の視細胞が一人一人異なるので、同じ波長の光であることは証明できても、同じ色に見えているかを判断することはできません

 この答えはある一冊の本に書いてありました。それが、茂木健一郎博士の『意識とはなにか ー<私>を生成する脳』です。

 本書にはクオリアというキーワードが繰り返し登場します。クオリアとは、ユニークな質感を表す言葉です。例えば、甘いものを甘いと感じる、夜空に広がる星をきれいと感じる感覚が当てはまります。これらは主観的で定量的に表すことが難しいながらも、我々に密接に関わっているものです。

【客観的な同一性と主観的な同一性】
 私たちの心の中で、<あるもの>が<あるもの>として感じ取られていること、あるクオリアがユニークな質感として感じられているということは、<私>がそれを感じるという主観性の構造と切り離せない形で結びついて成り立っている。(中略)

 だからこそ、「私にとっての赤のクオリア」は、<私>を離れて「彼」や「彼女」と共有されるということがない。クオリアについて、「私が見ている赤と、他人が見ている赤は同じなのかどうか」ということが常に問題にされるのも、クオリアという同一性の形式が、物質における客観的な同一性と異なり、「私にとって」という私秘的な(プライベートな)形でしか成り立たないからである

【引用】
『意識とはなにか ー<私>を生成する脳』 茂木健一郎著 p37-38

 赤色の光を認識するプロセスは私もあなたも同じであると客観的に判断できます。一方で生み出される赤色のクオリアは私、あなたという主観的なフィルターを通すので、同一のクオリアであると判断するのは困難であるということです。

 赤いリンゴを見て、赤色の光を目の視細胞で感じ取り、電気信号が脳に行くということまでは客観的に判断できます。しかし、その映像があなたの心に映し出されているのかは個人にしかわからないということです。

まとめ

 道端の花をヒントに「色」について、科学的視点で考察してきました。以下、本noteのまとめです。

【科学的な視点で散歩 -色-】
①わたしたちが認識している色の多くは、物体から反射した光
②黒色はほとんどの光が吸収されている状態、または光がない状態
③私とあなたの認識する色は客観的には同じ色といえるが、個人レベルでの  同じ色とはいえない

 色や光に関する教養の1つとして、参考にしていただけましたら幸いです。

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