見出し画像

エッセイ:大ちゃんは○○である30

声が震えていたかどうかは定かではないが
精一杯の自分をアピールし、持てる自分を出し切った。
詩の朗読でも、台本の読み合わせでも手応えを感じたし
『合格したな』とこれまた根拠のない確信を勝手に持っていた記憶がある。
退室し、ビルの外に出た時には夕方になっており
西陽を全身で浴びながら、東京の空気を身体いっぱいに吸い込んだ。
立ち並ぶビル群に目をやりながら、間違いなく夢の一歩を踏み出したんだという実感が湧いてきていた。
合格者への通知は後日ということだったので
自信はあったものの、まだ合格するかどうかなんて分からない。
でも、上京することは決めて来ているわけだから
住む場所を決めて帰らないといけない。
今回のミッションで成し遂げなければならないことのもう一つ。
アパートの契約だ。
しかし、土地勘もなければ、どっちに向かって電車に乗ったらいいのかも分からない。
どの辺に住むなんて目星もつけずに来てしまったもんだから困ってしまった。
ただ、なんとなくでしかなかったが、東京から千葉に近づくにつれ
家賃は安くなるんじゃないだろうか?という考えから
総武線を1駅づつ下っていくことにした。
なぜ、神奈川ではなく、埼玉でもなく千葉方面だったのかというのは
幼少期に少しだけ住んでいたことがあったから。
ただそれだけのことだった。
駅員さんに尋ね尋ね、総武線の秋葉原を目指した。
秋葉原でまた尋ね尋ね、千葉方面の電車を見つけ乗り込んだ。
一つ降りては首を振り。一つ降り首を振りては溜め息をつき。
高かった。東京の家賃は高かった。
結局流れ流れてたどり着いたのが、千葉県は津田沼の地。
駅を降りて、外に出た時に、なんとなく街の空気感というものを感じられると思うのだが
その時直感で
『あっ、ここに住むんだろうな』と思ったのを覚えている。
早速、駅近の不動産屋に飛び込み条件を伝えた。
そんなにこだわりがなかったということもあるが
驚くぐらいスムーズに、且つトントン拍子に話は進み
新天地での居住地を決めることができた。
これで京都に戻り、最終的な上京に向けての準備をするだけだ。
と思っていたら、重大なことを忘れていたことに気づいた。
大学に退学届を出したこと。上京を決めたこと。を
両親に伝えていなかったのだ。

つづく

この記事が参加している募集

習慣にしていること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?