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短編小説:消えた男と小さなおじさん①

ある夏の夜のことだ。
男はアルバイトを終えて帰宅し
疲れた身体をベッドに横たえていた。
今年の夏も暑い。夜になっても熱帯夜な日々は続いており
不快指数マックスな夜との戦いの毎日が続いていた。
男の部屋にエアコンなんてものはついていない。
年季の入った扇風機と大きめな団扇が夏を生き抜いていく為の男の武器だ。
「あぢぃーーー」と言いながら団扇を扇いでいると
不意に携帯電話の着信音が部屋にけたたましく響き渡った。
気を抜いている時に鳴る大きな着信音ときたら
お化け屋敷で、のっぺらぼうが振り向いた時ぐらいびっくりするものだ。
男はビクッと驚きながらも身体を起こし
液晶画面に目をやると、そこに表示されていたのは
『久保道雄』。
久保先輩だ。男と同じアルバイト先に勤めている3つ上の先輩。
髪の毛を背中まで伸ばし、綺麗な金髪に染め上げた
ノリの軽いチャラ男眼鏡。
時計に目をやると夜中の1時半。
この時間の電話にろくなことはないのだが
久保という男、こちらが出るまで電話をかけ続けてくるもんだから厄介極まりない。
男は仕方なく電話に出た。
「もしもし。お疲れさまです。どうしました?」
「おう!今、ノリさんとサトシと一緒にお前んとこ向かってるからよ、サッカーしに行こうぜ。サッカー!
あと5分ぐらいで着くと思うわ。じゃーな。」
いつもこうだ。いつもこうなんだ。
こっちの都合なんてお構い無し。
一方的に切られた携帯電話を見つめながら
文句の一つでも言ってやればよかったと男は思ったが、身体は着替える準備を始めていた。

つづく

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