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短編小説:消えた男と小さなおじさん②

5分なんてあっという間だった。
「プップーーー」
アパートの外でクラクションの音がした。
『夜中にクラクション鳴らすなよ…』
と思ったが、本当に5分きっかりで到着したもんだから男は焦った。
何せ久保は待たされるのが大嫌いな人だからだ。
突然自分から声をかけてきて、相手の都合も聞かずに強引アポイントメント。
それで待たされて怒るって、どんなヤバい奴なんだと思うが
そんなヤバい奴が久保なのだ。
大急ぎで玄関を飛び出し、靴に踵も入れないまま男は走った。
腑に落ちないことだらけだったが、とにかく行くしかない。
「お待たせしました!」
男が息を切らせながら車まで行くと、助手席の窓がヴィーーーンと開き
長い髪を一つに束ねた久保が満面の笑みで顔を出した。
「おう!お疲れお疲れ。悪かったな、突然。」
悪いなんてこれっぽっちも思っていないような口調だ。
「とりあえず後ろ乗れよ。」
「は、はい。」
促されて、男は後部座席のドアを開けた。
ノリさんがハンドルを握っていて、助手席に久保。
後部座席の一つにはサトシが座っていたので、男は車に乗り込み、サトシの隣に腰を下ろした。
ちなみにノリさんはバイト先の店長で、サトシは同い年のバイト仲間。
つまり、全員が同じ店で働くメンバーというわけだ。
「この時間からサッカーですか?そんな場所あります?ボールとか持ってきてるんですか?」
矢継ぎ早に男は聞いた。
暗い車内ではあったが、男の質問に対して
3人がニヤニヤしているような雰囲気は伝わってきた。
「それがあるんだよなあ。この時間にサッカーができて、ボールも貸してくれるいいとこがさあ。」
男は久保の言い方に引っかかるものを感じたが、
車は深夜の道を走り出していた。

つづく

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