短編小説:健治と体操服と体育館

小学6年生の夏。
全校集会の体育館の中で悲劇は起こった。
いつも通りの授業、いつも通りの給食、いつも通りの休み時間。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、
校庭で遊んでいた児童達はそれぞれの教室へと駆け足で戻っていく。
『キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン』
校舎内に再びチャイムが響き渡り、アナウンスが始まった。
「全校生徒にお知らせします。本日13時30分より体育館にて全校集会を行います。
繰り返します。本日13時30分より体育館にて全校集会を行います。生徒の皆さんは整列し、体育館へ集合して下さい。」
『また校長先生の長い話を聞かなきゃいけないのか。あ~あ、面倒臭いな。』
そんなことを思いながら僕は席を立ち、廊下に出た。
全校集会のある時は全クラスが廊下に出て整列し、1クラスづつ順番に体育館へと向かうのが決まりだ。
他のクラスメート達もぞろぞろと廊下に出て整列を始める。
整列順は背の順だった為、6年生で164センチあった僕は一番後ろから数えて2番目の位置で出発の合図を待った。
整列が整い、列が動き出すまでの間、皆は静かに待っていたわけだが
不意に、鼻をツンと刺激するような匂いがしたかと思うと、それは僕の身体中を駆け巡った。
『こ、これは!?これはまさか!?まさかこれは!?う、うんちゃんのオイニーってやつじゃないの!?』
間違いない。やっちゃってる。
人知れず、この列の中にいる誰かがやっちゃってる。
でも、隠しきれず人に知れちゃってる。
僕はオイニーの発信源を探った。
首を動かし、目をギョロつかせ、鼻の穴を1,5倍に広げて。
周りのクラスメートはどうだ?気づいてるのか?
それとも気づいてないのか?
いやいや、いくらなんでも気づくでしょー。
だって明らかにこの場所には不似合いなオイニーが、主張をやめないんだもの。
頼むから大人しくしてくれって思ったって暴れてるんだもの。
みんな優しいから「臭い」とか言わないだけなんだ。
だって、本人が傷ついちゃうって分かっちゃってるから。
そして、、
僕は見つけてしまった。
2人前に並んでいた、それはそれはお尻をこんもりさせた健治の姿を。
その時の僕たちのクラスメートの服装は、皆が体操服で半袖、半ズボンという出で立ちだった。
『まじか…健治か…健治、、やっちゃったか。』
共感できる方は多いと思うのだが、なぜか小学校時代、学校で大をするという行為はとても恥ずかしいものだった。
大をしている生徒を見つけただけで、小学生ギャング達は一気にフルテンションになり
個室の前で
「おいっ!誰かウン○してんぞ!ウン○してる!」と騒ぎたてる。
誰だってするだろ。と思うのだが、小学生の男子にとって、学校で誰かがウン○をしているという事実は
この上なくテンションの上がるイベントだったらしい。(一部の。としておこうかな)
そんなわけで、トイレに行くことを我慢し我慢し、
結果的にもっと恥ずかしいことになってしまう生徒が何人か言った。
そして、健治がまさにその状況に陥っていたわけだ。
『どうする?健治、どうする?』
僕は心の中で問いかけたが、もちろん返事なんてあるわけない。
そうこうしているうちに、無情にも列は動き出した。
健治も、、動き出した。お尻をこんもりさせたまま。
体育館に向かう列。こんもりが加速する健治。見守ることしかできない僕。
『着いちゃうよ。着いちゃう。体育館に着いちゃう。』
僕は心で叫んだ。叫びまくった。でも、声に出すことはできなかった。
周りの皆も誰も何も言わなかった。
結局健治はトイレに向かうこともなく、言い出すこともなく
黙って前をみつめたまま、体育館の入り口を通過してしまった。お尻をこんもりさせたまま。
全校生徒の整列が終わり、進行役の先生がマイクの前に立った。
「それでは、校長先生のお話です。」
校長先生が登壇し、マイクまで歩いていく。
ゴホンっと1つ咳払いをして、校長先生は言った。
「それでは皆さん、座って下さい。」
オーマイガーっ!!!!!!
『どうすんのよ健治!?どうしちゃうのよ健治!?』
僕はもう健治から目が離せなかった。
体育座りしながら、前にいる健治を凝視した。
『頼む!まだ間に合う。行ってくれ。行ってくれ。』
届かなかった。。
お尻こんもり健治はなんの覚悟を決めたのか分からないが、そのままゆっくりと腰を下ろし体育座りをした。
周りにいたもの全員が凍りついたのは言うまでもない。
この後のことはご想像にお任せすることにする。



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