「好きなことを書きなさい」

 サアヤちゃんの今日の宿題は作文でした。先生は「自由に書いてきなさい」と言ったのですが、サアヤちゃんは「自由」という言葉を知りませんでした。先生に聞きに行くと怒られそうなので、家に帰ってきてからお姉ちゃんに聞きました。

「今日ね、作文の宿題で自由に書いてきなさいって言われたの」
「ふうん」 「自由に書くって、何を書けばいいの」 「そうね、好きなものを書くといいよ」 「好きなもの?」 「例えば好きな食べ物とかね」 「わかった、私ケーキが好きだからケーキについて書く」 「あと、好きな理由も書くと作文らしいのよ」 「ありがとうお姉ちゃん」

 ところがケーキのことを書いても原稿用紙のマス目は埋まりません。ここまで書きなさいという印のところまで書くのが決まりなので、困ってもう一度お姉ちゃんのところに行きましたがお姉ちゃんは遊びに行っていませんでした。代わりにちょうど中学校から帰ってきたお兄ちゃんに聞きました。

「自由に書きなさいって言われたの」
「うるせえな、好きなこと書けばいいんだろ」 「好きなことって例えばなあに?」 「好きな虫のことでも書いておけばいいだろ」 「私はアリが好きだから、アリについて書くわ」 「わかったよ、俺は勉強するから部屋に入ってくるなよ」

 ところがアリのことを書いても原稿用紙のマス目は埋まりません。もう一度お兄ちゃんに聞くのはおっかなかったので、代わりにお母さんに聞きました。

「お母さん、自由に書くってケーキとアリのほかに何を書けばいいの」
「自由に書くのね、好きな遊びについて書いたらどうかしら」 「私はかくれんぼが好きだから、かくれんぼについて書くわ」

 ところがかくれんぼのことを書いても原稿用紙のマス目は埋まりません。もう一度お母さんのところに行きましたがお母さんは買い物に出かけてしまった後でした。最後の頼みということでおじいちゃんに聞きに行きました。

「おじいちゃん、作文の宿題なの。自由に書くの」
「何、自由について書くのか。わしの言った通り書きなさい」

 この後、おじいちゃんは難しいことをたくさん話しました。サアヤちゃんは言われた通り一生懸命原稿用紙に写しました。おじいちゃんのお話でマス目はあっという間に埋まりました。

「ありがとうおじいちゃん、宿題が出来上がったわ」
「勉強熱心なのはいいことじゃ」

 その日の夕飯はカレーでした。お母さんはお父さんにサアヤちゃんがお姉ちゃんやお兄ちゃん、おじいちゃんにも宿題を聞いていたことを言いました。お父さんはサアヤちゃんを誉めました。そしてお姉ちゃんとお兄ちゃんにもっと勉強するように言いました。サアヤちゃんはうれしくてたまりませんでした。

 次の日、宿題の作文をサアヤちゃんは皆の前で発表しました。


 自由     丸田サアヤ

 わたしはケーキが好きです。り由はあまいからです。わたしはアリが好きです。り由はあなをふさいで遊ぶとアリがたくさんでてくるのが楽しいからです。わたしはかくれんぼが好きです。り由はかくれている人を見つけるのが楽しいからです。自由とはすべての人にびょうどうにあるものであり、だれにもそくばくされるものではありません。そのりそうは社会のあるべきすがたであるにもかかわらず、あまいしるをすいりけんをむさぼるものがたくさんいます。わたしたちはりけんをゆるしてはいけません。けんりょくをたてにしてろうどう者をさくしゅしているものをだんこ引きずり出すべきなのです。自由とはわれわれのけんりにして人るいのゆい一のよりどころです。けんりょくの犬はわれわれを反ぎゃく者とよぶだろう。しかし、同しは心でつながっていて目に見えないきずながあるのです。われわれのきずなをたやすことは決してないだろう。くり返す、自由とはわれわれのけんりでありしほん主ぎなどろうどう者をしばるくさりのようなものだ。立ち上がれ同しよ、自由の名の元につどうのだ。

 翌日サアヤちゃんのお宅に担任の先生がうかがったそうですが、それはまた別の話です。


<了>

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