彼女はワガママ

 どうして君は泣いているんだ。またそんなオーバーなことを言ったってもう僕は騙されないよ。何度君のわがままを聞いたと思っているんだ。この前はお月様を取ってほしいと泣いていた。その前は虹の向こうに行ってみたいと駄々をこねていた。どれだけなだめすかせても、君は泣きやみそうにない。またお月様にそっくりなパンケーキでも探して来ればいいのか。虹色のキャンディーをお土産に買ってくればいいのか。それでも君は泣き止まない。

「ねえ、一体今度は何で泣いているというんだ」
 尋ねても一向に泣き止む気配がない。それどころか泣き声が一層大きくなった気がした。お願いだからそろそろ泣き止んでほしい。そして、いつものように笑いかけてほしい。多少の痛い目に合ってもいいから、君の笑顔が見たいんだ。
「またお月様を探して来ればいいのかい?」
 彼女は首を振る。
「それともまた虹を探しに行けばいのかい?」
 今度はもっと強く首を振った。
「だから泣いているだけではわからないだろう、きちんと言いなさい」
 ついに怒鳴ってしまった。いつまでもこうしているわけにはいかなかったし、何よりもう時間もない。出かける時間が迫ってきている。
「だって、だって……」
 彼女がしゃくりあげながらこちらを見上げた。
「だって、パパがおしごとにいっちゃうんだもん!」
 彼女は怒っていた。なんていうわがまま娘だ。こちらの都合を考えていない。彼女を抱き上げて、思い切り頬ずりをした。こんなに困ったわがままは初めてだ。仕事に出かけなければいけないのに、全く行く気がなくなってしまった。

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