第15回勉強会 「EVの今を知ろう」
ゼロカーボン(脱炭素)に向けて一人ひとりが主役となるための勉強会。
第15回の勉強会は、日本EVクラブ ジャーナリストの寄本好則さんを講師に迎え、「EVの今、日本と世界の潮流」と題して電気自動車の現状とこれからを、日本EVクラブ 代表理事の舘内端さんから、「EVモータースポーツの可能性」について、それぞれお話しいただきました。
開会前には発売間もないながらも注文が殺到している日産の電気軽自動車「サクラ」も展示し、見学いただきました。
白馬村でのEVの現状、充電器の設置状況など
初めに、白馬村の状況を白馬EVクラブの渡辺俊介さんからお話いただきました。
2021年度末時点における白馬村の自動車保有台数は9,565台で、乗用車と軽自動車がほぼ半々となっています。
長野県の1世帯あたりの保有台数は2.17台、1人あたりの保有台数は0.97台でいずれも全国で3番目に高くなっていますが、白馬村はそれよりもさらに高く、1世帯あたり2.40台、1人あたり1.13台であることから、他県や他市町村と比べて1人あたりが排出するCO2などの量も多いといえます。
そして、白馬村内の電気自動車は16台くらいで、全体のわずか0.2%にとどまっています。
国内では2022年6月時点で2.1%であり、前年同月比4.2倍となっています。
白馬村ゼロカーボンビジョンでは、自動車から排出されるCO2を2050年までにゼロにすることを掲げています。
それを実現するためには、自動車の電動化と地域内での小水力発電など再生可能エネルギー導入を同時に進めていく必要があります。
白馬村内には、普通充電器が36か所(62口)あり、急速充電器は4か所(4口)設置されています。
コンセントは安価に設置できますが料金徴収が課題で、課金機能付きの充電器は設置や運用にコストがかかることが課題となっています。
白馬村は目的地なることが多く、宿泊施設やスキー場など長時間滞在する施設に普通充電器を充実させることが求められています。
白馬村の助成を活用して、EV用200Vコンセントを増やし、白馬村統一の料金ルールを設け、お客様と施設の双方にメリットのある充電環境を整備し、EVユーザーに選ばれる先進的な観光地を目指しましょう!
EVの今、日本と世界の潮流
日本EVクラブ 寄本好則さん(EVsmartブログ編集長)
「都市型コミューター」と呼ばれるフィアット500e(チンクエチェントイー)のようにコンパクトタイプの電気自動車も増えています。
白馬でも「四駆のEVがあればいいのに」という話がよくありますが、BMW i4 / i7 / iX、メルセデス・ベンツ EQB、ボルボ C40 Recharge、アウディ e-tron Sportback、テスラ Model Yなど四駆のモデルが多く販売されています。
欧米のメーカーは高額なものが多いですが、ヒョンデのIONIC5は補助金を活用すれば500万円くらいで購入できる四輪駆動車であるため、注目を集めています。
国産では、トヨタ bZ4Xとスバル ソルテラに四駆があります。
同じプラットフォームで開発されそれぞれのブランドで展開されている兄弟車ですが、リコールのため受注停止となっています。
軽自動車では、商用のミニキャブ MiEVが今秋に復活すると言われています。
HW ELECTROというベンチャー企業が、アメリカに拠点を置き中国で生産されている車両を日本の規格に改良して、約45万円の補助金も対象となる形で軽と小型の商用EVを販売しています。
バリエーションはかなり増えてきたものの、まだ車両価格が高い状況にはあります。一方で欧米以外のメーカーから面白い提案が出てきているのが、ここ1〜2年の特徴的な動きです。
ユーザーとして何を基準に選べば良いかということですが、航続距離・充電性能・給電機能、そして車両価格のバランスを考えていただければ良いと思います。
航続距離は、バッテリー容量で決まり、大きいほど車両価格が高くなります。
日産のサクラは20kWhという小さいバッテリーしか搭載していませんが、手頃な価格設定となっています。
どのように使うかということが車を選ぶ際に重要になります。
シトロエンのAmiは10kWh程度のバッテリーで「ちょい乗り」に使われる超小型EVですが、フランスでは14歳以上であれば免許が無くても運転することができて、街の中には手頃に使えるカーシェアリングがたくさん用意されています。
航続距離が短いEVも社会のツールとして上手く活用できると良いのではないでしょうか。
イギリスではMOKEがEVを発売しています。
バッテリー容量が大きければ良いというものではなく、ライフスタイルや使い方に応じて様々な選択肢が考えられます。
中国の宏光(ホングヮン)MINI EVは50万円程度で購入できるため、テスラよりも売れているベストセラーEVとなっています。
中国国内ではそれを真似た車両が続々と販売されています。
中国の長城汽車はORA R1という150万円で30kWhのバッテリーを搭載したEVを発売しましたが、ラインナップを増やし、バッテリー容量も大きくなり現在は300万円弱くらいで販売しています。それでも日本で購入するEVを考えるとコストパフォーマンスはかなり高いと言えます。
中国産の車両に対する不安の声もありますが、元々電池メーカーであったBYDは、先日日本進出を発表しました。
初めに発売されるのはATTO3という車種で、オーストラリアでは既に販売されていますが、おそらく400万円くらいになると思われます。
コストを抑えたDOLPHINやスポーツタイプのSEALといった車種も発売される予定です。
急速充電の時間を気にする方も多く、「5分で満タンにならないのか」と言われたりしますが、そこまで便利にはなりません。
先日韓国で開催されたヒョンデの350kWの超高出力充電を見てきました。高速道路の急速充電器が50kWであり、7倍の出力ということになります。
実際には220kWくらいの出力で、16分間で52kWh(約250〜300km走行)の充電でしたが、その程度で十分ではないでしょうか。
30分間の休憩の間に急速充電をすることは、それほど苦になるものではないと思います。
充電設備の複数台設置を進めなければならないのは確実で、韓国ではヒョンデグループが高速道路上に12ヵ所×6基=72基整備することを発表しています。それ以外に、都市部に26ヵ所130基のE-pitと呼ばれる充電施設を整備するとしています。
テスラは全世界にスーパーチャージャーという独自の充電網を広げています。屋根にソーラーパネルを載せ、大容量蓄電池を備えています。
国内では、200kWの電源から1口最大90kWで充電できる6基の充電設備が横浜の大黒PAに設置されています。
給電機能として、災害時やアウトドアでの電源確保など、ライフスタイルを含めてどう使っていくかということが電気自動車を選択する上での鍵になります。
車と家の電気を繋げるV2H(Vehicle to Home)や、車と系統電力(電力網)を接続するV2G(Vehicle to Grid)を実現するためにも、EVパワーステーションが必要になります。
V2L(Vehicle to Load)を実現するためにはパワー・ムーバーが必要となりますが、ホンダ eは100Vのコンセントが使えたり、トヨタのプリウスやヒョンデのIONIQ 5には100Vの電源を取り出す器具が給電口に備え付けられています。国産車では対応していないものも多いですが、これから増えていくと思われます。
テスラ Model 3では、ナビのルート設定に応じてバッテリー容量の予想が表示されます。このような機能も含めて、電気自動車だからこそできることが増えていくと面白いと思います。
1回の充電で150km走れるEVを150万円で買えれば良いと思い、中古のリーフを購入しました。
今後、中古車市場にも出てくると思うので、興味を持って見てみてください。
様々な車種が販売されているので、白馬村でもEVを増やしていただきたいです。
質疑応答
軽の商用電気自動車が再販売されるということですが、なぜ販売停止となっていたのですか?
↓
あまり売れなかったからだと思われます。バンタイプであるため事業者が使うことが想定されていますが、当時よりも使いやすい環境が整ってきてたのではないでしょうか。初期費用が高いというイメージが…
↓
比較対象にもよりますが、補助金や減税などを考慮すると初期費用もガソリン車と比べて一概に高いとは言えず、壊れる部品も少なく、走行コストについてはガソリン車の3分の1程度に抑えられると考えられます。バッテリーはどれくらいの周期で換える必要がありますか?
↓
電気自動車が出始めた頃は使い方によってバッテリーの劣化が早いこともありましたが、最近は各社で劣化対策に取り組んでいて、かなり改善されてきています。
電気自動車にも駆動用ではない12Vの補機用バッテリーがあり、それが上がってしまうと始動できなくなるため、定期的に交換が必要となります。小型EVの利用シーンを自分や地域の人たちの生活に落とし込んでみると、軽トラがあると良いと感じます。国産メーカーから販売されないのでしょうか。
↓
2023年にダイハツ・スズキから、2024年にホンダから発売されると言われていますが、価格は高めになることが予想されています。
商用車両についてはベンチャー企業を中心にいくつか動きがあるため、今後様々な車両が展開されていくと思われます。EVコンバート(ガソリン車両の電化改造)は今後増えていきますか?
↓
改造申請のハードルが高く、電池の安全認証を取らなければナンバーを取得できません。
日本EVクラブは手づくりのコンバートEV教室などを開催してきましたが、市販EVが出始めて徐々に規制が厳しくなってきました。今でも取り組んでいる業者はあるため、やるのであればそういったところにお願いする必要がありますが、ある程度しっかりやるとコンバートにも500万円ほどかかります。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーなどが普及すれば車両に積載する使用を終えた後に自宅などでも活用できそうですが、現在は過渡期であると思います。初期費用が高かったり、雪国・寒冷地では安全性や性能面でも不安があったりして、購入に踏み切りにくいと感じています。
↓
過渡期であり「欲しくて買えるEVがない」ということが普及しない理由であることは間違いないと思います。選択肢は増えつつあり、バッテリーも進化しています。EVsmart Blogはとても参考になる情報がたくさん掲載されているため、多くの方に見ていただきたい。
EVモータースポーツの可能性
日本EVクラブ 代表理事 舘内端さん
昔からレーシングカーの設計に携わっていましたが、環境問題が取り上げられるようになり、このままではレースが続けられない(無くなってしまう)と思い、国の低公害車に関する諮問委員などを務めていました。
当時、大型のディーゼル車の取り組みが遅れていましたが、東京都が排ガス規制を設けてメーカーに働きかけ、取り組みが加速しました。
ディーゼル車の排ガスから肺がんや喘息の原因となるNOxやPMを減らすためには、軽油の硫黄分を減らす必要があり、精製から変えていく必要があり、メーカーだけでできることではなく、石油業界に大革命が起こりました。
アンモニア燃料やバイオ燃料などを内燃機関で燃やして動力にする研究も進められていますが、アンモニアを精製するために水素が必要で、水素を得るためには水の電気分解を行います。水を分解するための電気が必要になり、燃料電池車よりも多くの電気を消費することになります。
燃料電池車は1kmあたり230〜250g(フェラーリと同程度)のCO2を排出するいう産総研等の研究結果もあり、CO2ゼロの実現可能性が高いのはバッテリーEVであると思います。
ホモ・サピエンスは、5万年程前から2万年くらいかけてアフリカの草原から全世界に広がったと言われています。様々な困難があったと思いますが、旅や冒険など動くことが好きだったことで、現生人類のホモサピエンスは地球に広がれたのでしょう。
ヒトにとって「移動するワクワク感」は重要で、原動機を使って移動しようとして現れたのが自動車です。自動車のレースも疾走感や音などワクワクに溢れています。
Fomula-Eという世界最高峰の電気モータースポーツが盛り上がり世界で転戦されています。
ポルシェ、メルセデス、ジャガー、日産といった欧州や日本の自動車メーカーだけでなく、NIOという中国のメーカーやマヒンドラというインドのメーカーも参戦しています。
バイクのレースでも電動化が始まっていて、モトGPにもEバイクのクラスが生まれています。既存のメーカーに加えてベンチャー企業の挑戦も始まりました。
日本EVクラブでは、1995年に「日本EVフェスティバル」として、コンバージョンEV(改造EV)のレースを開催しました。
徐々に規模を拡大し、2010年には筑波サーキットでERK(Electric Racing Kart)のレースを開催しました。片山右京さんもドライバーとして参加し、市販車のGTよりも早いタイムを叩き出していました。
2014年の第20回では、ERKやコンバージョンEV、メーカーEVなど多くの車両が参加しました。
右下の3輪のEVで参加してくれた学校の先生もいました。
左下のスーパーセブンをEVに改造した車両は、航続距離80km程度でしたが、当時「急速充電設備が整備されていないためEVは普及しない」と言われていた中で全国各地で160回程の充電をして、急速充電だけで日本一周を達成しました。
1993年に「電友1号」という電動フォーミュラーカーを開発し、翌1994年にはアメリカのサーキットで開催された電気自動車のレースで3位になりました。
また、筑波サーキットで自動運転ERKのレースを開催したこともありました。
人間がどういった方法で自動車を運転しているか分析してみて、自動運転の難しさを改めて感じました。自転車に乗るコツを言語化するのが難しいのと同じようなもので、簡単ではありません。
パリ市内では今後最高速度が30km/hに制限されますが、最高速度30km/hを前提として車両を開発すると、極めてエコな自動車になります。
2000年には、EVミゼットⅡで世界初と思われるEVの耐久レースを開催しました。アナウンスを場内スピーカーではなくFMで発信し、静寂のサーキットでレースが展開されました。
2006年には24時間耐久レースを開催したり、音が出ないことを良いことに都心で深夜にイベントを開催したりもしました。
2009年にはEVクラブで製作したミラEVで東京〜大阪間の555.6kmを無充電で走り切り、世界新記録を樹立しました。翌2010年には、その車両でオーバルコースを走ったところ、1,000kmを達成しました。
中学生を対象にしたEV教室を開催しています。
エンジンは簡単に組めませんが、モーターは中学生でも組み立てられます。電気フォーミュラーカーは変速機も不要で、構造はシンプルです。排気ガスもなく、静かなので室内でもレースが可能です。また、シンプルなので壊れにくく、長持ちします。
EV教室に参加した中学生がプロドライバーの運転する電気サイドバイサイドに試乗するイベントもツインリンクもてぎで開催しました。
スケートリンクでERKを走らせました。
音も無く、排気ガスやオイルなども出ないためリンクが汚れることもありません。
前二輪で後ろがクローラー(キャタピラー)の電気雪上車を提案したこともありますが、海外ではMOONBIKESなどの電動スノーバイクや電動スノーモービルが普及し始めています。
白馬でも近い将来にこういった乗り物がたくさん活用されていることを楽しみにしています。
お知らせ
JAPAN EVラリー
9回目となるJAPAN EVラリーが7月23日(土)〜24日(日)に開催されます。
JAPAN EVラリーは、全国のEV/PHEV/FCV等に乗っているオーナーが白馬に集い交流するイベントです。
23日(土)には最新EV/PHEVの試乗会が白馬ジャンプ競技場北側ロータリーで開催され、誰でも無料で試乗できます。
ぜひみなさんでお越しください!
第16回勉強会「食から考えるゼロカーボン」
8月24日(水)18時30分から、安曇野市穂高で八百屋「よろづやいっかく」を営む崎元さんをお招きして「食」をテーマに開催します。
エネルギー分野と並んで多くの温室効果ガスを排出していると言われていますが、その分、食を見直すことで解決につながる可能性が高いと言えます。
会場でもオンラインでも、お気軽にご参加ください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?