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『共感』は時に相手を傷つける

「医者は患者の気持ちがわからない冷たい人間が多い」
と言われる機会が多いからか、最近の医学教育ではコミュニケーションの授業がある。授業だけでなく、コミュニケーションの試験が導入されている。

 OSCE(オスキー)というテストで、正式にはObjective Structured Clinical Examination(客観的臨床能力試験)という。これは医療面接や身体診察などの基本的臨床能力を評価する実技試験で、臨床実習に参加するための仮免許試験として位置づけられている。

  実際に現場に足を踏み入れる前に「きちんとした言葉遣いや態度で問診ができるか」「基本的な診察・手技が身についているか」といった最低限のことを確認するための試験である。日本では2005年12月から正式に実施されるようになった。

試験の成果(?)で減少した横柄なドクター

 この試験が導入されたおかげで、昔のように「患者のくせに自分で診断するな。診断するなら医者はいらないだろ!」とか「患者は黙って医者が決める治療法に従っていればいい!」といった、横柄な態度をとる医者は天然記念物となった。

 そんな効果があるなんて、一体どんな教育をしているのだろうか?と思われるかもしれないが、教育を導入しただけで天然記念物級に横柄な人が減ったわけではない。社会全体の「高圧的な人はよくない」という空気感が強くなってきたからだと思う。

 にしても、コミュニケーション教育の効果はある一定存在する。
「どのように教えられるのか?」医療面接で指導されるポイントを少し紹介したい。

 1.挨拶
「○○さんどうぞ~ 今日診察させていただく○○です。よろしくお願いします」相手と同じ目線で挨拶をする。
 2.オープンクエスチョンをベースに問診を行う 
「今日はどうされましたか?」患者が自由に発言できるようにたずねる。 
「その痛みはいつ頃から起こって、どうなってきましたか?」と質問し、患者が話しはじめたら遮らないようにして傾聴する。
3.共感
「ああ、それは大変でしたね」とか「それは辛かったですね」と共感的態度を示し 「痛みについてもう少し、詳しく教えてもらえますか?」とさらに質問を続ける。
4.クローズドクエスチョン
 「痛みは休むと改善しますか?」
5.解釈モデルを聞く
「今日来られたのは何かきっかけがあったのですか?心配なことがあったのですか?」と訊ね、なにか話してもらえれば共感的な態度を示す。
 苦しい患者の立場になって理解しながら傾聴することで、良好な関係を築く努力をする。「つらそうですね」「あなたが大変だということは良くわかりますよ」「そんな状況で、よくがんばってらっしゃいますね」など、感情面への対応はきわめて重要である。
6.要約
最後に今まで話をした内容のまとめを端的に伝える。
7 .ドアノブクエスチョン
最後、部屋を出て行く前に「他に何か気になることはありませんか?」「何か言い残したことはありませんか?」と質問する。

 以上が医療面接について教えられる内容の一例であるが、ところどころに『傾聴』とか『共感』という言葉が出てくる。

「今日はどうされましたか?」の弊害

 こういった教育の影響もあって、最近の医学生は昔ほど口が悪く横柄な態度を取る人は減っている。
 一方、この教育の弊害で、何でもかんでも「今日はどうされましたか?」と訊ねる人がいる。病院を初めて受診すると問診票を書くので、『今日なにに困って受診したのか』を既に記載した上で診察を受ける。例えば、問診票の最初に『主訴:胸が苦しい』と記載があるにもかかわらず、通り一遍「今日はどうされましたか?」と聞いている人がいる。

 患者からしたら「長い時間かけて頑張って書いたのに、また同じこと聞くの!?」と思ってしまうだろう。
 問診票だけならまだいいが、看護師や事務職員によって診察の前に話を聞いている場合も同じように「今日はどうされましたか?」と聞いてしまうのだ。
「頑張って紙にも書いたし、看護師にも話したのに、もしかして伝わってないの!?」と立腹する人が出てくるのも仕方ない。

 このように『丁寧な言葉がけをしましょう』と教育を受ける上で「今日はどうされましたか?」という言葉が伝家の宝刀のように使いまわされている。

形ばかりの共感は逆効果

 同じように『共感的態度を示しましょう』と教えられるが、そのときの言葉がけの例として「それは辛かったですね」とか「大変でしたね」という言葉も頻用される。

 しかし、これらの共感の言葉は非常にリスクが高い。

 というのも、同じことを経験しても人によって感じ方は千差万別だからだ。

ちなみに以前違う例を示しながら音声ラジオもあげている。

 なんか最近ワキがチクチクと痛くなるときがあるけれど、大したことないので気にせず放っておいた。でも、家族が心配して病院に行くようにしつこく言うから仕方なく受診した。

 この状況で「最近胸が痛いんです」という訴えに対してすごく辛かっただろうと想像して「それは辛かったですね〜」と言われると、

『え?全然辛くなかったのに…もしかしてよっぽど悪い病気なの?』

 と不安が増長したり、もしくは自分の感情を勝手に決めつけられたと感じてしまうかもしれない。

 このように、共感言葉は相手の気持ちをドンピシャで言い当てないと、反対に不信感へ繋がってしまう可能性がある。

 だから、安易に相手の気持ちや感じ方を決めつけないようにしなければいけない。相手の感情を先に聞き出した上で、その感情にそった言葉をかけることが望ましい。

 もちろん、相手の感情が手に取るようにわかるときは共感の言葉をかけていいと思うが、そのとき相手がどう思っているかわからない場合は、安易に共感の言葉をかけない方がいい。事実だけを言ったり「自分が同じ立場なら〇〇のように思います」というように相手の気持ちを決めつけるのではなく、自分だったらこうという気持ちを伝えるのも手だ。

 これは、医療面接に限らず全ての会話に通じる。

 あまり知らない相手が「今日〇〇があったんです」と言った時に、安易に「それは最悪だね」とか「それは嬉しいね」と決めつけずに「どうしたのですか?」とか「そうなんですね。詳しく聞かせてください」などと言って、相手の気持ちがもっとわかるような情報を引き出すことが大事なのだ。

【まとめ】
・形ばかりの共感言葉は逆効果になる
・安易に相手の気持ちや感じ方を決めつけないようにする
・相手の感情を先に聞き出した上で、その気持ちに沿った言葉がけをする

ぴらい&ふーみん


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ぴらい&ふーみんの凸凹夫婦が、色んな人に出会い、話を聴き、それをもとに気づいたことを文章に綴っています。読んだ人が「もっと楽に」生きることができるようになりますように。そんなことを願って。

人生の中にも「選択肢はいっぱいあるよ」
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抽象化するぴらい(夫:産業医)と口の多動で喋り続けるふーみん(妻:ソーシャルワーカー)の凸凹夫婦が悩み相談を受けて考えたことを綴っています。"べき思考・役割思考で苦しむ人を減らしたい"が人生のテーマ。Twitter→https://twitter.com/mi_nusion
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