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卵好き

卵好き

1
卵が好きすぎる。鶏卵。卵料理と聞いただけで心が躍る。卵料理は何でも、オムレツ、目玉焼き、卵焼き、スクランブルエッグ、ポーチドエッグ、玉子サンド、玉子かけご飯、温泉玉子、玉子がメイン。スコッチエッグ、目玉焼きハンバーグ、つくね卵黄添え、メインの肉との相性もぴったり、大好きだ。魚とのマッチングば魚が嫌いなので分からない。海鮮丼の上に卵黄が一つのっていたりするが、どのような位置づけになるのだろう。玉子の黄身は火を通すことによりとろみを増す。その絡み具合と濃厚さがいい。しかし、近頃の温泉玉子は少し黄身が堅すぎる気がする。ならば自分で作ればいいのだが、温泉玉子を作れる道具をどこかにやってしまった。今書いていてそんな道具を持っていたことを思い出した。母の実家で、玉子かけをやったのだが、醤油が、独特の風味を持っていておいしかった。何か、味が丸く、鼻にすこし空豆のような風味が抜けるような。ただ単に、長くおいて味が変わっていたのかもしれないが、ひそかに「田舎しょうゆ」と名付けていた。ヒゲタ醤油のロゴの醤油差しに入っていたのだが、中身がそうなのか分からない。少なくとも今のヒゲタとは違う味だった。ご飯は炊きたてで、玉子は器に割る。そして、醤油をかけてかき回す。混ぜ加減で味が決まる。完全に混ぜ合わさない方が私は好きだ。それをご飯の上に回しかける。少し熱で卵が固まるところが嬉しい。それをかっ込む。箸で口腔に押し込むように。噛むのも半ばに飲み込みながら、卵の滋味を口内からのどにいっぱいに満たす。それを塩気の強いわかめの上に生のさらした長ネギなどを散らした熱い味噌汁で口の中を模様替えして、また、かっ込む。すぐに茶碗は卵と醤油でつやつやした飴色に空になる。それを食べ放題させる店が千葉県成田の先の方にあって、たまに、それを楽しんだ。とくにおいしい卵というわけでも米というわけでもなかったが、どんぶりにふつうに盛られた白米を二回はやってしまう。あっさりはしているが、腹持ちは凄い。ずっと減らない。こんなことをしていい年回りではないのに、と思う。

2
後はなんといっても焼き卵の数々、卵焼きだったり、オムレツだったり、目玉焼きだったり、手軽なのに深い卵の世界。ホテルの朝、料理人がひとつひとつ焼いてくれるオムレツのなんと贅沢でふくよかなことか。なにかいれますか、と聞かれてまずはプレーンでいく。自分で作ると、必要以上に生で、フォークを入れると生の液が皿に薄く黄色にあふれてしまう。ホテルのはそんなことはない。とろっとしているが、液体っぽくなく、きちんとフォークの上に震えながら載る。それを口に入れたときのふわりと甘美な舌触り。そう何度も経験してはいないが、それだけに焦がれる。おかずではなく単体として味わいたい。次に焼いてもらうときは具を入れてもらう。ベーコンやチーズやマッシュルームなど。具を入れたオムレツの焼き難しさはよく知っている。それを難なくひしゃげたラグビーボールの形に仕上げてしまうのだから、とてつもない。そのテクニックを学ぶために、修行したいとすら、ちらりと思う。卵とチーズはなんと相性がいいことだろうか。とけて卵と一帯になり、コクを相乗する。パンではなくやはり白いご飯が合う。塩気は塩で補う。黄色を損なわないように。そのほかに、スクランブルや、和風の厚焼きまで四角く大きな銀製のパレットに控えている。温泉は小鉢にひとつずつ、たれと小口切りの青ネギにいろどられ黄身を薄いピンクに透けさせている。たっぷり盛ったスクランブルに温かいハムとベーコンを二三枚ずつ、それにくるんで口にほおばる。そこにクロワッサンを時間差で追い込む。塩気ととろみとバターの口内交流。そんな朝食を味わいたいと、仕事を辞めたら月に一度ぐらい、ホテルで朝の食事をしたいと考えていた。わざわざ朝飯を少なくない金額を使い、電動自転車か何かで食べにいく。何か滑稽で貧しい感じがする(相場で損してその夢は潰えた)。仕事で何日か群馬に行ったとき、朝食のバイキング会場にに毎朝、身なりのいい痩せた老人が必ず居て、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。結構な年輩にお見受けしたが、どのような人だったのだろう。なにかいわくがありそうだがわからない。いまも通りから見えるガラスに面した席に毎朝居るのだろうか。

3
単身赴任していたとき、○○食堂というチェーン店の定食屋にしばらく通った。○○にはたとえば金町とか緑町とかその土地の地名がはいる。そこはおかずを自分でとるスタイルの店で油断して取りすぎるとすぐに1000円ぐらいになってしまうという、油断ならない大衆定食屋なのだが、そこの、その場でおばさんが焼いてくれる玉子焼きが異様においしい。焼きたてというのもあるだろうし、優しそうな、いかにもおふくろ、と言った感じの少し丸みを帯びたご婦人が焼くことで視覚的にも味覚が増幅されるのではないだろうか。それをメインにし、コロッケ、味噌汁、ご飯で600円ほど。ここに足すメニューは安くてもだいだい100円、と言うわけですぐに1000円ぐらいになるため、ほとんど前述の組み合わせとなる。ここは、白米もおいしい。布団型に焼きあがってしわしわに、湯気をたてた玉子焼きの表面に、どばっと醤油をかけ(お里が知れよう)箸で裂きちぎるとトロリとした層と完全に焼けたそうと、その間に入った空気が醤油を吸い込み、ふわりと、格別のおかずになる。そこはしばらく通って、店のひととも会話を交わすようになったが、行かなくなってしまった。顔見知りになってしまうと、とたんに面倒になる。いつもの悪い癖だ。少し遠くもあった。チェーン店なので行こうと思えば街道沿いなどによくある。鶴太郎の書くような字と食材の絵の看板の店だが、近所には見あたらない。
生きていく上で、これからも、卵には不自由したくない。今のところそれはそれほど贅沢な願いでもないのでありがたく思っている。


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そろそろネタが尽きてきました

毎日更新はいろいろな意味できついですね

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