羊香味坊

2017初秋:

「ひつじ食べにいきましょう。うまい店があります」
いつもの雑な誘いから皆が俊敏に集う。
「TVや雑誌によく登場するので、狙うなら混み合う前がいいです。幸いにも早いうちからやっています」という情報もあり、倶楽部会合好適店となった。

"先にやってます"
スマートフォンの画面に現れたメッセージを認め、駅から店へ急ぐ。夕方前の御徒町はまだ人の流れも穏やか。

先のメッセージを受信して程なく、店に到着。道路に面したところが全体的にガラス張で、中の様子がよくわかる。6割ほどの入り。
中央付近の入口を横に引き、店内へ。右手に円卓、左手に狭めのテーブル群。正面には幅の狭いカウンター。その奥が厨房。全体的に赤色を基調とした内装。

ラムの旨さというのは、牛や豚や鶏と異なり、どこにあるのだろうか。いや、そのようなことを考えること自体、野暮というものか。そんなことを考えながら円卓に着座。

「遅れてスイマセン。駅からうろうろしてしまい」「大丈夫ですよ。わたしも駅降りてから、土地が落ちてないか探しながらやってきました」などと挨拶もそこそこにメニューに目を移す。
卓上にはオーダー済の皿が並べられ、一部は完食された状態。皆のスピード感にこころが踊る。

白穂乃香から。オーソドックスなラム肉炒めとスペアリブ。ショルダー・ランプ・ネック等を次々とオーダー。ハイハイと応ずる店員の現地感もテンションを上げる。
やがて次々と皿が並ぶ。ほうこれがラム… えっこれがラム… などと驚き、喜びながら箸を進める。クミンをはじめとしたスパイスの香りが食欲をかきたてる。小籠包に餃子、冷菜で脇を固め、酒は黒ラベルにハイボールにレモンサワーに自然派ワイン。酔ってますますシャキッとする各位。

「あれどうなってるんスか」「まだイマイチやね」「反響弱すぎでしょ」「気合い入れなきゃね」という会話ののち、ひとりあたりのノルマ設定の上でオーダーされたそれは、ラム肉詰め青唐辛子の串。皆でヒーつらいーからいーと大騒ぎしながら食を進める。

やがて店の外が薄暗くなり、仕事帰りの客が入店し賑わい始める頃、「じゃあ家の用事があるから」「次の飲み会があるから」「現調にいくから」などと挨拶を交わし、ほどよく身体が温まった各人が、集合時と同様、雑な挨拶とともに店を後にするのであった。


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