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第82回MMS(2014/6/18対談) 「創業は元禄年間。昔のままの手法で、 純国産の原料をもちい、日本の伝統を守る。」  三ツ星醤油醸造元 堀河屋野村 野村圭佑さん

本記事は2014年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

MMS本編

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enmono 本日は300年以上の歴史がある、三ツ星醤油醸造元にお邪魔しています。堀河屋野村の野村さんです。よろしくお願いします。

野村 堀河屋野村の野村と申します。堀河屋は創業時、ここ御坊の町で、紀州の回船問屋をやっていました。和歌山県は、醤油・味噌造りが江戸時代から盛んで。木材や野菜を江戸に運ぶ回船業の傍ら、江戸の方に醤油・味噌を食していただくために手前味噌でつくっていたのが、ルーツになっています。

enmono お父様の代で17代とのことですが、野村さんは18代目になるのですね。

野村 18代目予定、ですかね。私は今、野村圭佑という名前ですけれども、父が亡くなったらその名前を引継ぎ、野村太兵衛という名前になります。跡取りということで醤油・味噌製造をさせていただいていますが、東京の大学を卒業した後は商社に入って9年間、大豆関連のトレーディングビジネスをしていました。

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enmono ご自身で希望して、大豆関係のお仕事をされたのですか?

野村 いいえ。「好きなことをしろ」という親の教育方針のもと、家業の方はそっちのけでした。本当は、ワインとかを希望していたんです。でも、「華やかな国に行きたい」といったミーハーな思い叶わず、「飼料部第2課」に配属されました。鶏・豚・牛などが食べる餌の原料調達をする仕事で、お客様は餌会社さんです。

enmono たまたま、ですか!

野村 運命のいたずら、と言いますか(笑)。家業に興味なかったのが、仕事で日本と海外を行き来するなかで少しずつ、モノづくりの大事さを感じるようになりました。また、ご縁もありました。それで、「日本の食文化を伝えられる立場にあるのに、それを放棄してトレーディングをやらなければならないのか」とか、自問自答する時期がありまして。今、34歳ですけれども、30歳手前で父に「やりたい。やらせてほしい」と嘆願しました。

enmono お父様の反応は、どのような感じでしたか?

野村 父も母も、私が伝統産業に対してそこまで考えているのが以外だったようで、すごく嬉しそうでした。それ以上に、周りの関係者の方から「良かったね」と激励の言葉をいただくと、「醤油文化の一旦を担わせていただいている家系が続けていけることの意味に気づくのが、遅かったな」と感じました。食のお仲間とか関係者の方には、非常に良くしていただいています。

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enmono こちらに、主力商品である三ツ星醤油を持ってきていただいています。

野村 スタンダードな、濃い口醤油です。工業的な造りではなく、大豆の蒸し煮から小麦の焙煎、種麹、火入れまで、全て手作業でやっています。商品の一つひとつの個体のばらつきはあるんですけれども、味わいが深い醤油に仕上がっています。

enmono 普通のお醤油に比べて薄めの色だったので、「薄いのかな」と思いながらいただいたら、旨味が凝縮されていました。やっぱり、違いますね。徑山寺味噌の方は、野菜がごろごろ入っていて、パンにつけて食べても美味しかったです。

野村 4種類の夏野菜(瓜・茄子・紫蘇・生姜)を塩漬けして、味噌と混ぜ合わせて熟成させます。食べる味噌ですね。徑山寺味噌の徑山寺は、中国のお寺の名前です。ここから10分ほど行った由良町にある興国寺は、覚心というお坊さんが鎌倉時代の住職だったのですが、そのお坊さんは中国を転々とされ、禅の修行をされるんです。その時に行った徑山寺の門前で造られていた徑山寺味噌の製法を、日本の興国寺の門前に広めたことが、醤油のルーツと言われています。

enmono このお味噌から派生したのが、お醤油ということですか?

野村 はい。「お味噌を造る時に出る、上澄み液を舐めると美味しい」ということから、調味液に進化させていったのが醤油です。禅がなければ、こういったものも生まれなかったので、とても文化的です。覚心は他にも、尺八を禅の呼吸法として中国から持ってきたようです。

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enmono お醤油は、今の日本人に欠かせない調味料。お味噌がルーツだったとは、初めて知りました。伝統的な造り方をされているところを、少し見せていただきたいと思います。

野村 こちらは、味噌のベースとなる米を仕込んでいるところです。米を蒸して、麹をつけて、米麹を造っていきます。

enmono 釜の下にあるのは、薪ですか?

野村 そうです。仕入れも火入れも全て、ガスではなく薪を使います。大豆のふっくら感が違います。時間とお金と労力がかかる作業ですが、これがアイデンティティー。我々が木材を生業としていた回船問屋だったこともありますし、紀州は木材がすぐに手に入るところでもありますから、そういうことを大事にしています。

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enmono こちらは、お醤油の醸造をしているのでしょうか?

野村 仕込んだものと塩水を混ぜて、木桶の中で発酵させています。

enmono 作り手が少なくなっている木桶だそうですが、雰囲気がありますね。子どもの頃から、このような所で育ってこられたのですね。

野村 身近にありすぎて、一度離れたくなったのかも知れません。

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enmono お店の方も見せていただきます。こちらの陶器入りのお醤油、瓶に文字が書かれていますね。

野村 ポルトガル語で、「ZOYA(ゾヤ)」と書かれています。大豆のことをソイビーンと言いますが、ソイは、このZOYAが語源とも言われています。この瓶は、「コンプラ瓶」と呼ばれています。「ルイ14世がお醤油を食べていた」という文献が残っていまして、その時、日本は出島の時代なんです。出島の近くでワインを輸入していて、その瓶にお醤油やお酒を入れたりして輸出していたんですけれども、輸入より輸出の量の方が多くなってしまった。それで、出島で売り買いしていたポルトガル人(コンプラドール)が周辺の焼物屋に頼んだのが、コンプラ瓶です。お酒の場合、「ZKKY(サキ)」と書かれています。

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enmono なるほど。

野村 商品は、醤油・味噌以外の調味料、日本酒なども扱っています。和歌山の御坊という小さな田舎にありながら良い食材が揃う、セレクトショップ的な感じを意識しています。我々のような生産者は、どうしても繋がっていくもので、「何か良い調味料、食材はない?」と聞かれれば、「これがいいです」とご紹介できる。草の根的に広がっていけば、日本の食文化は細くなったり太くなったりしながらも、続いていくと思うのです。まさに、「和食」ということですよね。「和」ということです。みんなで集まって、それをつくりだすという価値観。日本人は、アートな才能を持っているはずです。けれども、大量消費、大量物流、画一的な味で過ごすようになってしまった。僕が東京で「物足りないな」と感じたところかも知れません。

enmono 日本酒やお豆腐など、さまざまなネットワークをお持ちですね。みなさん、共通の価値観があるのでしょうか。

野村 私の生き方に似ている人であればあるほど、価値観は同じです。飲みの席でも、「生産物はそれぞれ違うけれども、それがクロスした時のパワーは、すさまじいものがあるよね」という話をします。

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enmono こちらで使われているのは国産の大豆のみ、ということですが、国産という点も大切にされていることでしょうか?

野村 日本人は豆腐・味噌・納豆・醤油という、4つの大豆を原料とした食べ物を食しています。以前は100パーセントだった大豆の国内自給率は、今、17パーセントになってきています。気骨を持った農家さんは多々いらっしゃいますので、そういったところとコミュニケーションしながら、私どもの商品をもとに日本の農業についても伝えられたらいいなと考えています。それと、発酵食品は製麹(せいいく)という作業があり、機械製麹が主流になってきていますが、ありがたいこと私の家業に脈々と製法が伝わっていますので、自分達の手で麹を造っています。文化の継承という意味でも、クラフトマンシップを大事にしたいというのがあります。

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enmono 野村さんがやられていることは、失われた価値を取り戻そうとするマイクロモノづくりの原形のようで、魅力的に感じます。野村さんが考える、日本の食の未来を教えてください。

野村 今、経済性や忙しさで、いつでも簡易的に食べられるものが反乱しています。日本人らしさ、例えば長寿や健康、美を支える発酵食品や、四季のものを食べる生活が失われつつあると感じています。ですから、日本の食のかたちを戻すその一助に、この醤油や味噌がなればと思っています。醤油は、あくまでも単品素材です。先ほどもお話しました、和で日本食を伝える「和食」で、「こういう使い方がありますよ」とか「こういう役割がありますよ」と主張していけたら。そのような場があれば、海外でも国内でも、興味がなかった若い人達にも、より知ってもらえると思うのです。マックばっかり食べているような若者が和食に目覚めるきっかけをつくることができたら、嬉しいですね。

enmono それほどのインパクトが、このお醤油をいただいた時にありました。「今まで食べていたお醤油は、何だったんだろう」と。本物に触れることで、目覚めてくるのでしょう。若い人達にも、ぜひ、試していただきたいです。ありがとうございました。

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