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「社会の変化から”あした”につながるビジネスや暮らしのヒントを見つけるメディア」 富士通 柴崎辰彦さん

本記事は2015年に対談したものです。情報はその当時のものですので、ご了承ください。

●変化する富士通

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enmono 第105回マイクロものづくりストリーミング、本日も始まりました。本日はこちら、六本木「HAB-YU」という素晴らしいコ・ワーキングスペースで、富士通の柴崎さんをゲストにお迎えして色々とお話を伺っていきたいと思います。柴崎さんは富士通といういわゆる大企業にお勤めでいらっしゃいます。

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柴崎 簡単に自己紹介をすると富士通に入ったのは1987年、通信機器の事業部門・モノ作りをするところにおりましたが、そこから2000年にシステムエンジニアに移ってコンサルタントなどをしています。いろんなところを渡り歩いてきた関係で重宝がられて、今システムエンジニア3万人くらい会社におりますけども、そこの戦略企画のような仕事をしております。

enmono 3万人を取り仕切る軍師というか……。

柴崎 いやいやいや(笑)。そんな大したことはやってないんですけども。

enmono 僕も富士通出身なんですよね。まぁいたと言っても3年くらいしかおりませんでしたけども。僕がいた頃の富士通はハッカソンとかやる雰囲気じゃなかったのに、随分変わったよなという気がしています。富士通がハッカソンを始めたのは去年くらいからですか?

柴崎 社内では3~4年前くらいからやりはじめました。

enmono メディアに出始めたのが去年くらいからですか?

柴崎 そうですね、はい。

enmono ハッカソンとか会社自体をオープンにしていく仕組みとして『あしたのコミュニティーラボ』というのを富士通さんがやっておりますので、今日はそのお話をメインに伺っていきたいと思います。

柴崎 まず、私の今やっているハッカソンとか「あしたのコミュニティーラボ」に繋がるようなトレンドを少し。IT業界の観点から見たものを少しご紹介したいと思います。

柴崎 たとえば昨年のTEDxTokyoでありましたテーマ「結」(ゆい)。結びつけることをイメージしています。

柴崎 ちょうど1年前の「AERA」の記事では、「編む力がビジネスを強くする」と言っています。自分の糸に他人の糸を編みこむことで、より強い魅力のある布になる。大企業であれ、中小企業であれ、自社の得意技に他社の得意技を編みこむことで強くなれるんじゃないかと、そんな意味合いだと思います。

柴崎 それから我々の業界の雑誌になります「日経コンピュータ」さんの方で、先程もちょっとお話ありましたが「IoT(Internet of Things)が爆発する」と言われています。爆発というのは要するにビジネスチャンスが到来するということだと思うんですけど、ここでは「自前主義との決別」、つまり自分たちだけで考えていく時代は終わりだろうと警鐘を鳴らしていますね。

enmono そういうことを富士通さんからも言ってしまっているわけですか?

柴崎 我々だけではなく、いろんな他の企業さんもそういうことを言い始めています。それから日経BP社さんの電子・機械局の中でもリアル開発会議というメディアが起ちあがっています。「(自社に)ひきこもってなんかいられない」と、他社とコラボレーションしながらビジネスをやろうと仰っていますね。

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柴崎 これは先程出た日経コンピュータさんと同じですが、ビジネスを作るハッカソンということで、主に技術者が集まってというイメージがあったんですが、段々用途が広がってきています。

柴崎 そうした昨今の動きを踏まえて、我々の活動に話を移します。我々の問題意識、なぜ「あしたのコミュニティーラボ」やハッカソンをやっているか。それは最近出てきた『共創』という言葉と繋がってきます。

enmono 共に創る……。

柴崎 そうですね。とかく我々は情報システム部門の方々に対して受注型のサービスモデル――つまり「言われたものを、言われた通りに、言われた納期、言われたコストで作る」、こういうシステム開発をずっとやってきたんですが、これからは現場の事業部門の方々とか、あるいはその先にいらっしゃる生活者の方々に対して共創型のサービスモデルじゃないとやっていけないかもしれないという危機感を、ここ3年くらいずっと持ち続けています。

enmono それは外部環境がだいぶ変わっているというか、数字で表れているんですか?

柴崎 IT・ICT(Information and Communication Technology/情報通信技術)の世界の成長率はここ数年鈍化していて、新しい市場を求める意味で、現場の事業部門であったり、あるいは生活者に目を向ける必要があると感じています。

●オープン・サービス・イノベーション

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柴崎 ここでご紹介したい図があります。これはスタンフォードのある先生が分析をされていたんですけど、「時代が求めるイノベーション」と題して、横軸と縦軸で四象限に書かれています。横軸がマーケットリスクが低いか高いか、縦軸は実現・実行リスクが高いか低いかとなっていますが、我々のようなITベンダーあるいは日本の多くのモノづくりの企業というのは、もしかしたら左の下の象限に集積しているのかなぁと思います。

enmono リスクの低いところですね。

柴崎 そうですね。右下のところはAppleの製品が並んでおりますが、いわゆる枯れた技術の組み合わせで、新しい市場を切り拓いている。左上のところはジェット機の写真が出ていますが、HONDAさんが昨年ジェット機を飛ばしました。十年がかりで二輪・四輪を得意とするHONDAさんがジェット機を飛ばした。技術的にその企業にとってはチャレンジングなことを示しています。で、これからどういうところが重要になってくるかというと、この右上の象限なんですね。技術的にも新しいし、市場としてもまだ開拓されていないところです。ここに「Square」という商品が出ております。スマートフォンやタブレットにモジュラーを挿しこんでカードで決済をするようなサービスなんですが、このサービス、アメリカのテックショップというモノづくり工房から生まれたんですけど、実はガラス吹き職人とTwitterの創業者の方が二人で考えだしたそうなんです。

enmono すごいコラボ、すごい出会いですね。

柴崎 三木さんたちがやっていらっしゃるenmonoの活動は、まさにそういったモノづくりの方々と我々のようなIT・ICT業界の方々を結びつけて新しいことができるんじゃないかと密かに期待しております。

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柴崎 こういった領域のビジネスを新たにしていく中で、自前主義を通していても続かない。『共創』をして編む力でビジネスを強くする必要がある。自社だけでなく他社や個人に繋げる必要があると思っています。

柴崎 こういった考え方は、実はオープン・サービス・イノベーションと言うそうです。私は知らなかったんですけど、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校にヘンリー・チェスブロウという先生がいて、オープン・サービス・イノベーションについて本を出しています。それを読んで「ああ、自分たちがやっていることはこういうことなんだな」と感じました。それによれば四つのポイントがあります。

柴崎 一つめは「強いサービスの中には必ず素晴らしいモノがある」ということ。「モノからコトへ」という言い方があると思うんですが、注意しなければならないのは、「モノの時代はおしまいで、コトの時代つまりサービスの時代」というわけではない。サービスの中にモノづくりの技術が活きている必要があると思っています。

柴崎 二つめは「共創」です。英語では「Co-Creation」と言いますが、先程のAERAの言葉で置き換えれば「編む力」だと思います。

柴崎 三つめは「オープン・イノベーション」。ビジネス・エコシステムという書き方をしていますが、自社・他企業・個人が織りなす生態系が必要だろうという話です。

柴崎 最後に「ビジネスモデルの転換」です。モノを販売して得ていた対価=お金のやり取りがサービスを提供する(される)形に変わるかもしれませんし、いろんなビジネスモデルが描けるようになるんじゃないかなと思います。

●共創と七人の侍

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柴崎 「共創」について考える前に、グループとチームの違いについて少し。あるコンサルの方がこんなことを言っていました。グループとチーム、似たような関係だと思いますが、実は(画面の)左側にグループのイメージが書いてありますけど、同じような髪型で同じようなスーツを着てネクタイを締めて……ウチの会社なんかこういう感じですね。チームが右側にありますが、ネクタイの人もいれば、ベレー帽かぶったデザイナーの方もいれば、女性もいるし、メカニックのような方もいらっしゃる。あるプロジェクトを起こそうとした時にグループとチームどちらが強いかなというと、間違いなく右側のチームの方が統制をとるのは大変なんですけど、火事場の馬鹿力じゃないですけど可能性があるのは間違いなくチームの方だと思います。

柴崎 三木さんは黒澤明監督の『七人の侍』をご覧になったことはありますか?

enmono え~っと昔見た……記憶はあります。

柴崎 この七人の侍を「共創」を生みだすチームの例として見てみたいと思います。彼らは三つのグループから構成されています。まず一つめのグループがリーダーの勘兵衛、サブリーダーの五郎兵衛、イエスマンの七郎次。リーダー及びそれに従属する三名が一つめのグループですね。それから二つめが、混乱を引き起こすんですけど、才能のある二名ということで、これはトリックスターと書いてありますが一番大きく出ている菊千代、それから一番右端にいます斬りこみ隊長・久蔵。この二人はチームを掻き回すんですけど、非常に才能のある二人。それから三つめ、非力な者、組織の未来を繋ぐ二名、ムードメーカーであったり、あるいは元服前の若者でまだ丁髷になっていないですが、七人の侍の活躍を後世に伝える役。そんなような方々です。非常に多様な人物が集まったチームなんですが、こういうような単一のグループではなくて複合的なチームだとポテンシャルを発揮しやすいのだと思います。

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柴崎 協業と共創、これはウチの会社の中で結構議論しまして、「柴崎、おまえの言っている共創は昔から言っている協業となにが違うんだ」「アライアンスがあるだろう」とこう言われるわけですけども、実は協業というのは利益や売上を企業がシェアする、金の切れ目が縁の切れ目ということがありがちなんですけども、先程クラウドファンディングの皆さんが仲間を募っているのがありましたけど、共創というのはある目的に向かって「共通善」――世の中に対して善きことをしよう、ということですね。企業であったり個人であったり行政とか自治体の場合もあると思うんですけど、こういう方々が一致団結してやるのが共創の活動じゃないかという結論に我々は辿り着いています。

●イノベーションの形

柴崎 最近いろいろな観点でイノベーションというのが語られていると思うんですね。ビジネスのイノベーション、企業の中でのイノベーション、社会的課題の解決――ソーシャル・イノベーション、こういったことを考えると企業だけの論理ではなくて世の中の生活者だとか異なる立場にいる社会人の方々と物事を考えやすくなってきていると思います。大企業の中にいてもそういった観点で物事が考えられるようになってきているかなと思います。

enmono 社会環境が変わってきたということがあると思いますか?

柴崎 社会環境という意味では後ほどご紹介する「あしたのコミュニティーラボ」のイベントに参加する若者の考え方が「社会貢献したい」という方向へすごく変わってきていますね。今はここ六本木で収録をしていますけども、我々の頃はそれこそ六本木へ遊びに行くみたいなイメージがあったんですが、六本木のコ・ワーキングスペースで「社会課題をどう解決するか?」というワークショップに参加しようみたいに、かなり変わってきていると思います。

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柴崎 その例として「観光クラウド」を挙げます。これは青森県にいるコテコテの青森大好きのシステムエンジニアが始めた、「自分だけの旅づくりをしよう」「青森の埋もれた魅力を発見しよう」というサービスです。つまり青森県に旅してくるその他の地域の方々、日本だけではなく海外の方もいると思うんですが、そういった人がいわゆるツアー型の旅行ではなくて青森県の人しか知らないようなユニークな場所を回れるようにカスタマイズされた旅行を作るサービスなんですね。

enmono スマホで教えてくれるんですか?

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柴崎 ルートガイドという仕組みがあって、それを使って事前にルートを作成して、スマートホンやパソコン上で情報を得られるというものです。このサービスは富士通のシステムエンジニアだけではできなかったんですね。このスライドにちょっと書いてありますが、青森県の地域振興共通善。青森県のことを大好きな地元の様々な立場の方が集まってこのサービスが作られています。富士通のシステムエンジニアに加えて、レンタカー屋さん――トヨタレンタリースさんだったと思います。それから青森県の自治体の方々。レンタカーのステーションの情報であるとか、自治体からはオープンデータ。最近、地域創生等でもいろいろ言われているオープンデータを活用して、つなぎ合わせて、ルートガイドというサービスを提供しています。これらの活動をするために企業の名刺ですとか役所の名刺を持っていると動きづらいということがあって、彼らのすごいところはNPO法人を起ち上げてしまって、みんなで盛り上げながらこのサービスを提供しているという点にあると思います。

●あしたのコミュニティーラボ

enmono 前半は取り組みと事例をご紹介いただいたんですけども、後半はいよいよハッカソンについてお話を伺えればと思います。

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柴崎 はい。今ご紹介してきた共創の活動をしていく上で、「場」というのが重要になります。たとえば今日みたいに対話する場もあれば、体系立てる場もありますし、実践するような場もある。我々富士通の中には十数万人の社員がいるんですけど、社内で凝り固まって議論していても仕方ないので、もっと外に出て議論する必要があるかなということで、まず始めたメディアがあって、それが「あしたのコミュニティーラボ」というものです。

柴崎 運営会社が富士通ということは言っているんですが、コンセプト「人が中心」とか「共創(Co-creation)」「日本再発見」と言っていて、富士通の製品やサービスのことはここでは一切出てこない、宣伝していないんですね。

柴崎 我々も企業の中の一つですけども、企業と個人・公共を繋いでディスカッションするような場所、地創(地域創生)コミュニティーみたいな言い方で「あしたのコミュニティーラボ」を評価してくださる方もいらっしゃいます。テーマは「学び」とか「働き方」だとか「モノづくり」「街づくり」といった割と普遍的な社会課題に関することを議論しています。

柴崎 実はこの「あしたのコミュニティーラボ」というメディアなんですが、社外の方を社内にお呼びして議論をしたり、社内で議論しているテーマについて外に持っていって議論してみるとか、そういう形でグルグル回しているんですね。この仕組みが非常にユニークだと色々な方から言われています。

enmono 情報管理はどういう風にやられているんですか? たとえば社内の情報を外の人と話す時にどこまで出していいのか、とか。

柴崎 社内の情報をすべて外へ出しているわけではなくて、かなり議論を積んだ上で外の人とお話ししています。

enmono ここまでは出していいと決めて、それをテーブルに乗せる。

柴崎 そうです。こういう活動をwebメディアとかFacebookとかイベントを使ってやっている目的は、1万人くらい社員がいれば1人くらいはイノベーターがいらっしゃると思うんですけど、多くの従業員たちを実践リーダーやイノベーターに引きあげていく。

enmono どちらかというと私、ハグレ社員だったので……。

柴崎 「あしたのコミュニティーラボ」のファンになってくださる方は変わった方が多いんです。私のところはシステムエンジニアなんですけど、いろいろな部門から学びや遊びに来てくださっています。これは社内版の「あしたのコミュニティーラボ」で、先程ご覧いただいた社外版の「あしたのコミュニティーラボ」とほぼ同じような仕組みになっています。

柴崎 社外版と違うところは、この社内版の方にはコミュニティーが幾つか併設されてあって、たとえば全社の中で一番大きいコミュニティーは「ハッカソン・コミュニティー」になっています。

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enmono どういうコミュニティーなんですか?

柴崎 ハッカソン・コミュニティーは「新しいハッカソン、こういうハッカソンを他社でやっているからみんなでハッカソン荒らしに行くぞ」とか(笑)、あるいは自分たちで企画するハッカソンについて議論したり、システムエンジニアの人間もいれば、研究所の人間もいれば、デザインの方も参加されている、そういうコミュニティーです。

enmono 社員さんは参加自由なんですか?

柴崎 そうですね、はい。

enmono マネージャークラスとか役員クラスの方でも?

柴崎 役員の方が発言される場合もありますし、新入社員が発言する場合もありますし、新入社員と役員が議論するとか、そういう場も提供しているという感じですね。

enmono その場づくり、空気づくりというのはどうですか? そういうのが醸成されていても、発言しづらい場面もあると思いますが。

柴崎 共通のテーマ、ハッカソンであればハッカソンについて熱い想いを持って話すというそんなイメージがあるかと思います。

enmono 僕らも割とこういうのをやるんですけど、場を仕切る人――ファシリテーターが重要かなと思っているんですけど、そういうファシリテーション教育みたいなことはされているんですか?

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柴崎 特にはしていないんですが、やっぱりここに至るまで、いろいろな社内ソーシャルメディアの実験が行われてきました。そういったことを経て、社内ソーシャルメディア上でのエチケットといったものも社内の文化として醸成されてきたのではないかと思います。

柴崎 いろいろ情報発信をしているんですが、リアルな交流ということで「社内のイノベーターを増やせ」とハッカソンやアイデアソンを積極的に仕掛けています。

enmono 何回くらいやっているんですか?

柴崎 そうですね。三桁には行っていないと思いますが、何十回とやっています。やっぱり若者を中心にこういうのを企画させてるんですけど、音楽が好きなヤツとかいてですね、「FUJI ROCK」をもじって富士通のハッカソンを「FUJI HACK」にしちゃおうと商標を申請したり、外部の識者の方々を招いて、外ラボから内ラボに招いて議論する形で、ANAの方であるとか大田区モノづくりのマテリアルの細貝さんですね。下町ボブスレーの。同じ大田区の蒲田にある我々の事務所にお呼びしてディスカッションさせていただきました。

柴崎 で、この「ハッカソン」なんですが、「ハッキング」と「マラソン」を組み合わせた造語で、もともとはアメリカから始まった取り組みなんですけど、これは日本の企業でぜひもっと取り入れるべきだと思っています。

柴崎 我々が社外で初めてやったハッカソンはこの「さくらハッカソン」というものになるんですが、東北夢のさくら街道という団体がありまして、東北の桜の名木を回ることで東北復興を間接的に支援しようという取り組みです。その活動に共感して富士通も東北夢のさくら街道の活動に参加したんですね。富士通の社員が二十名くらいと、社外の方々、これはベンチャー企業の方もいれば大学生もいればクリエイターの方もいて、合計四十名ちょっとで。

enmono お題はどういう?

柴崎 東北の桜の名木を回る旅を支援するようなwebサービスです。優勝したチームは赤坂のデジタルエージェンシー、デジタル広告を企画するようなところのクリエイターの方々と、会津の大学生が実はリーダーだったんですけども。その四人組が優勝しました。東北の桜を自転車で旅をするという、非常にユニークなサービスを考えてくれました。

●学生さんとハッカソン

柴崎 立教大学の学生の皆さんと一緒に行ったアイデアソンがこちらで。1年間を通じてIoTあるいは学生の観点から見たサービスというのを一緒に考えようというものでした。

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enmono 1年間もやったんですか?

柴崎 はい。立教大学の経営学部の授業で、ゼミの活動を通してアイデアソンを行っております。

enmono 月イチくらいのペースですか?

柴崎 いや、毎週やっていました。通常はアイデアハッカソンというと週末の二日間・三日間と限定してずーっとやるんですが、これは90分の授業の中に収めるように区切って前期と後期に分けて1年間やりました。やり方を学ぶという意味でも非常に有意義な取り組みでした。後で紹介する「あしたラボUniversity」という活動に活きてくるものだと思います。

enmono きっかけはどういったものだったんですか?

柴崎 自分の出身がここの大学だったということもあるんですが、この経営学部の佐々木教授という方が非常にユニークな方で、なにかコラボしたいなと思っていた中でたまたま立教大学の中である授業をやらせていただく機会があって、知り合うことができました。「あしたのコミュニティーラボ」のことを話したら非常に興味を持たれて、一緒になにかやってみようとコラボレーションが実現しました。これも一つの共創だったかなと思います。

enmono 1年間はすごいですね。まさにマラソンという感じです。

●ハッカソンから生まれるビジネス

柴崎 このハッカソンなんですが、我々が企画しているだけではなくて、富士通の中のハッカソン選手を外に派兵しております。この「Green Hackathon」というのは北欧のある大学がきっかけで始まったハッカソン。環境問題に関するハッカソンですけど、ここに富士通の社員が何人か参加して、めでたく1位になったチームにも富士通のメンバーが入っていたと聞いております。

柴崎 このハッカソンというのが非常に楽しく賑やかにやるイベントということで、好きなことをやりたい人間が集まってやっているイベントじゃないかという見方もあるんですけど、そうではなくてビジネスの世界でもハッカソンを組み入れた商談が出てきています。

柴崎 いわゆるベンダーを選定する上で、ハッカソンを前提にしたようなものも出てきています。今画面に出ておりますのが、福島県の浪江町。震災の影響で町民の方々が被災・離散して暮らしています。こういった町民の方々の絆を再生するような仕組みをICTでできないかということで、役場の方とコード・フォー・ジャパンというITを使って地域の課題を解決するような団体があります。ここから分派されたコード・フォー・浪江という団体が企画をされて、タブレットでふるさとの絆を再生しようと。なんとですね、このアイデアソン・ハッカソンを十回もやっています。ここには町民の方、役場の方、それから富士通のようなベンダー、ベンダーも富士通以外に4~5社参加しています。全部で375名の方が参加して、アイデアが770件出てきました。そのアイデアは十回に及ぶハッカソンでできたものです。で、プロトタイプが14個くらい出てきて、これを元に各ベンダーがプレゼンテーションをして、その模様がYouTubeにあがっています。町民の方や役場の方が、どこのベンダーでこのサービスを開発したいかを選ぶという形です。運良く私ども富士通のチームがこの商談、アプリの開発ベンダーとして信任をいただきまして、実際にこのタブレットのサービスが提供開始されております。

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enmono 商談の中にハッカソンが組みこまれているんですね。

柴崎 そうなんですね。ICTのサービスを提供するだけではなくて、モノづくりだとかいろんなシチュエーションでこれからアイデアソンやハッカソンを条件にしてベンダーを決められるようなケースも出てくるかなと思います。

enmono 発注先がもうそういう風に変わってきているんですか?

柴崎 そうですね、やっぱり通常のサービスではない、どんなサービスを提供したらいいかわからない。先程の四象限の図の中では右上のサービスだと思います。IoTの世界だと思いますけど、これまで提供されたことがないようなサービスを提供するにはどんなことをやったらいいのか。サービスを利用する町民の方も「どんなサービスがいい」というのは口で表現できないんです。アイデアソンとかハッカソンの活動を通して、暗黙知となっているような必要とされるサービスを炙りだす、そういう活動です。

enmono その結果、こういったサービスの必要性というのが見えてきて、そこからビジネスが生まれて……。

柴崎 開発にあたってはウォーターフォール型の開発ではなくて、ITの世界でいうアジャイル開発によって繰り返し繰り返しプロトタイプを作って、町民のお爺ちゃんお婆ちゃんにも使っていただいて、今サービスが提供されています。

enmono 商品企画から関わっているんですね。

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柴崎 やっぱりたくさんの方々、多様な方々が参加しているんですけど、七人の侍のところでお話ししましたけど、町民の方々に本当に役に立つサービスはなんなんだろう、どういうサービスを提供したらみんなが喜んでくれるのか、そういう想いで役場の方、町民の方、我々ベンダー、他のベンダーの方も一致団結して実現したハッカソンだからこそ、こういうサービスができたのかなと思います。

●あしたラボUniversity

enmono ではいよいよ「あしたラボUniversity」の話題へ……。

柴崎 はい。立教大学での経験を元に、「あしたラボUniversity」という取り組みを行っておりまして、昨年11月くらいから「あしたラボ」のwebサイトにもこのコーナーを作っています。いわゆるデジタルネイティブ世代ですね。我々が大学の先生と議論している中で、「柴崎君この「あしたのコミュニティーラボ」非常にいい活動だけど若者を相手にしてるか?」という問いかけを受けたんですね。

柴崎 もちろん若い社員も参加するためにこの場を作っているんですよ、と胸を張っていったところ、「バカモノ」と叱られまして、若者っていうのは大学生以下の世代、彼らはデジタルネイティブ世代と言われているのを聞いたことがあると思います。私の息子も今大学二年生なんですが、生まれた時からインターネットがあり、パソコン、携帯電話もあった。そういう世代の人間が考えるサービス、そういったものを企業がどう取り入れることができるか。またそういった若者のアイデアを活かせる国かそうでない国かは国家の存亡に関わると、かなり大上段に大きい話をされまして「えぇ~!?」と思ったんですが、じゃあ試しにちょっとやってみようかということで、立教大学でいろいろ取り組みをしたのを元に「あしたラボUniversity」を始めています。

enmono それに呼んでいただいたんですね。

柴崎 はい。ちょうど「あしたラボUniversity」のアイデアソンを首都圏と関西地区で行いました。非常にたくさんの学生さんからご応募いただきました。それぞれ四十人ずつ募集したところ、なんと四百人の大学生の方がご応募いただいて、首都圏と関西でアイデアソンの地区大会を行って、そこから選ばれた3チームずつに参加いただいて、3月に決戦大会を行いました。ここでenmonoの三木さんにも審査員としてご参加いただきまして。

enmono ええ、僕でいいんですかという感じだったんですが。

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柴崎 ありがとうございました。非常に示唆に富んだコメントをいただいて感謝しております。逆に私から質問させていただきますけど、このサービスを幾つかご覧になったと思いますけど、学生のみんなの斬新なアイデアをお聞きになってどう思いました?

enmono 僕らも大学生くらいの人と話をする機会は割と多いんですけど、やっぱりここで感じたのは地元愛というか、そういうものがサービスを生みだす原動力になっているなと感じました。特に優秀だなと感じたものも、かなり地元に想いを馳せているものが多かったので、やっぱり単純にニーズがあるからということももちろん重要ではあると思うんですけど、やっぱり「愛」ですね。モノづくりには愛が必要だといのを再確認しました。

柴崎 そうですね。もともとはアイデアソンということで、モノづくりのところまでは行かないつもりだったんですが。

enmono あ、そうなんですか? かなりモノづくりにも……。

柴崎 そうなんです。実際にドローンを模した模型を作って寸劇をやってくれたチームや、webサービスを実際にスマホの画面を作ってくれたりとか、非常にユニークなチームがたくさんあって楽しかったです。

enmono 社員の方は一緒にやったんですか?

柴崎 そうですね。学生が四十人ずつ、首都圏と関西で参加するということで、そこで我々の社員ですね。SEもいればデザイナーもいればプログラマーもいたんですけど、その社員の声を聞くと、始めは大学生の相手をするということで、いろいろ社会人として教えてやろうかなというスタンスで臨んだ人間もいたかもしれないんですが、実はすごい優秀な学生さんたち、発想豊かな学生さんたちがたくさんいてですね、みんな若者のパワーに逆に圧倒されて、胡座をかいていてはいけない、もっとがんばらないといけないと。主催者側からすると、実はそれは「しめしめ」といったところで、社員の活性化に繋がったわけです。

enmono 日本全国から来ていましたね。

柴崎 北海道・東北・九州・関西地区もいろいろなところから。

enmono 優秀チームは富士通さんが旅費も出してあげたりとか。

柴崎 決戦大会にあたっては当然東京まで来ていただく学生さんにとっては交通費バカになりませんので。

enmono 社内に刺激を与えるということもあるし、富士通という会社の開かれたイメージを世の中にお伝えするということも。

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柴崎 ハッカソンは先程もお話ししましたがお祭りのように見られるということで、心ない大人からは「なにやってんだ!」というようなことを言われるケースもあるんですけど、実は多面的に効果があることもわかってきまして、その効果をうまく見せることで活動存続していけたらなと思っております。会社としての効果と、個人としての効果と書いてありますが、会社としてはビジネスチャンスに繋がる。ハッカソンで知り合ったベンチャー企業の方とコラボレーションして新しいサービスの開発に繋がるかもしれないし、先程の浪江町の商談は実はさくらハッカソンで知り合った富士通の人間とベンチャー企業が浪江町のハッカソンに参加してビジネスがスタートしたんです。それから富士通のような会社が持っている技術やサービスを活かすような新たな用途開発の途もありますし、それから人材育成ですね。社員が活性化する。教育の観点もありますし、モチベーション、従業員満足の観点もあります。

enmono リクルート的な意味もあるんでしょうか?

柴崎 鋭い! 鋭いところを衝いてきますね。これはまだお話ししていいのかわからないですけど、今年は富士通の就職ランキングが少しあがっているらしいんです。それはこの「あしたラボUniversity」や「ハッカソン」のせいじゃないかと分析してる方もいるようです。

●日本のモノづくりの未来

enmono そろそろお時間です。最後に日本のモノづくり、あるいはサービスづくりの未来がどういう風になっていったらいいのかについて、柴崎さんのお考えを伺いたいと思います。

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柴崎 やっぱり「モノづくりニッポン」というもの、これは誇りにしていくべきだと思います。新しいモノづくりというのは、モノづくりの部分にソフトウェアやクラウドのサービスを組み合わせた掛け算ですね。さらに、そこにアートの世界。デザイナーやクリエイターの知見を入れたようなものが、これからのモノづくりには必要になってくると思います。そういう新しいモノづくりができるようになれば、かつてモノづくりで世界を席巻した日本が再び輝く時代もそんなに遠くない。富士通自身は実際のモノづくりもやってきたメーカーでもありながら、ソフトウェアやクラウドのサービスも提供するITのベンダー、サービスの会社になっているんですけど、両方やっているということもありますので、ぜひ中堅中小企業の皆さん、ベンチャーの企業の方々と一緒にノウハウを高めあいながら世界に打って出ていきたいと思っております。

enmono ということで皆さん、中小企業の方々、ぜひ富士通さんと共に日本の新しいモノづくりを創っていきましょう。

柴崎 そういう町工場の皆さんも一緒に参加できるハッカソンができるといいですね。

enmono やりましょうよ。町工場×富士通みたいな。そういうハッカソンイベントを。

柴崎 ええ、そうですね。

enmono 僕らが町工場の方々をお連れしますから。

柴崎 はい。

enmono 若者の次はオヤジと……。

柴崎 ハッカソンというと「若者だけのイベントじゃないの?」と思ってお聞きになっている方もいらっしゃると思うんですが、さくらハッカソンに参加した五十何名のうちの結構年齢のいったシステムエンジニアには脳内革命が起こりました。「自分の脳みそがこんなに拡張されるとは思いませんでしたよ柴崎さん!」と――。

enmono 若返る感じですね。

柴崎 そうですね。そういう可能性を秘めたものだと思っています。東京にも幾つかモノづくりの拠点はありますし、新潟とか東大阪とかいろんなところがありますので、それら日本全国を繋ぐようなハッカソンをやりたいと思いますね。

enmono ぜひぜひ。では、今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

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▶対談動画

▶あしたのコミュニティーラボ

http://www.ashita-lab.jp/

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