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【ゴジラVSコング】バランスのいいケンカ描写に爽やかさを覚える

『ゴジラVSコング』、ようやく観てきました。
面白かった~。最初の感想はこれ。

三年のゴジラ先輩に挑む一年坊主コング。
もう完全にこれ。楽しい。

人間パートはビックリするくらいダメだと思うんだけど、怪獣バトルの迫力が半端なくて、映像面での楽しさも凄い。映画を観た、というよりもド迫力のアトラクションを体験しました、という感覚が近いような気もする。

ストーリー面はコングを主役として、話の中核にゴジラを配置する形でやっていたな、と思いますが、全編に渡ってコングやゴジラの描写バランスがめちゃくちゃ良いな、と思ったのでその辺を書いていく。

なのでネタバレしかない。


バランスのいい怪獣描写

改めて。
ゴジラVSコング、怪獣描写のバランスがめちゃくちゃ優れていると感じたんですよ。

まず冒頭のコングね。
髑髏島で穏やかな朝を過ごすコング。
朝日に目を細め、滝のシャワーを浴びてリフレッシュし、少女の掲げる自分の人形をじっと見つめるコング。

この時点で観客には、コングが穏やかで優しい怪獣なのだろうという印象が与えられるわけですよ。まぁ『髑髏島の巨神』を観てたらそもそも、って部分なんだけど、一つの映画としてこういう部分をキチンと描写していくのは大事。

からの、引き抜いた木を用いての投擲割れる空!
髑髏島はコング監視センターと化していた!

ここで「コングは武器を扱う事が出来る強力な怪獣」であることと、「人間の技術力がとんでもなく上がっている」ことと、「人間のやらかしによって怪獣は怒る」こと、この三つが一気に描写されてる。

コングが武器を扱えることは前作でも描写されているけど、ここで改めて復習してもらう事で、後の斧の登場を呑み込みやすくしている。
また技術力の描写は一瞬でこの作品のリアリティラインを理解させてくれるし、コングを怒らせる人間という構図は最後までこの作品の基礎となる重要な要素だ。

詰まるところ、あの一瞬の描写で「ゴジラVSコング」はその作品説明の大半を終えていることになる。あとはガンガン盛っていくだけ。素早い。

ゴジラによるAPEX社襲撃のシーンも、「人間のやらかしに怒る」コングの描写があるので「ゴジラもそうなのだろう」というのが感覚的に呑み込みやすくなっている。更に襲撃シーンではゴジラも熱線を吐きまくり、武器を扱うコングに対して「強力な熱線を武器とするゴジラ」という実力の描写も行えているわけだ。そしてもちろん、怪獣による市街地の破壊は楽しい。

そんな風に、二大怪獣の強さと怒りを描いた後に行われる第一回戦。
これが(人間の都合で)海上戦となるのも、また絶妙な采配だ。

何故か?
海での戦いは、ゴジラに圧倒的有利だからだ。

この時点で物語は対ゴジラに向けて動いている。
人間を襲った強力な敵、ゴジラ。そしてそのゴジラに狙われるコング。
ゴジラはこのシーン時点では倒すべき敵であり、高い壁でなければならない。なので、このシーンではゴジラが勝たないと後の話が盛り上がらない。

そんな中で、もし戦いが陸上で行われていたらどうだろう。
コングは十全に自身の力を活かし、結果負ける? そうなると、コングはゴジラより下だという事が明示されてしまう。海だとどうか? ゴジラが勝って当然なので、その負けは単純な実力差とはならない。

ゴジラを高い壁として描写しつつ、コングの格を落とさない。
そのためにも戦いは海で行われるべきだった、というわけだ。

では一回戦はコング負け確の塩試合かというと、そんなことは無い。
開戦直後の鎖解放までの流れや、解放後の軍艦八艘跳び。戦闘機ダイレクトシュート。コング側に「おお!」と思わせるような印象的なシーンが集中している。これらの描写によって、コングは負けた怪獣ではなく「不利な状況においても健闘した実力者」として映るようになるのだ。

……などとコングを持ち上げまくってはいるが、ゴジラ側も背びれによる軍艦の破壊や、海中からの熱線照射、水中での拘束と、己の特徴を存分に活かした戦いを披露しており、そもそも人間の横やりがなければコングをシメられていたという点で格の高さを見せつけている。有利な状況に胡坐をかいて雑な戦いをしていたわけでなく、しっかりと脅威を見せつける雰囲気だ。

それからコングは(引き続き人間の都合で)地底世界へと足を踏み入れる。
様々な怪獣が生息する地底世界で、コングは活き活きとその力を発揮し、一族の生まれ故郷へと帰還するわけだが……

一方で、地上ではAPEX社がゴジラを怒らせた本当の理由=メカゴジラを起動する。メカゴジラが一瞬で始末したのは、髑髏島で若きコングが苦労して倒したスカルクローラー。しかもエネルギーはまだ不十分だという。

このタイミングでメカゴジラを描写することで、真の敵を理解させると同時にゴジラ登場のキッカケも作る。しかもスカルクローラーを噛ませにすることで実力は折り紙付きだ(多分)。この描写によって、本来ならゴジラもコングも相争っている場合ではないのだ、と分かる。けれど二人の王は対峙せざるを得ない定めだ。さてどうなる、という所でコング。

家族がいるかもしれない故郷。
そう聞いてやってきたコングの叫びに、答えるものは誰もいない。
このシーンの切なさと、その後のブッ飛んだコング文明の描写の温度差が凄い。宿敵ゴジラの背びれを用いた斧と、背びれの特性を活かした地脈エネルギーチャージ機構? ……全盛期のコングってなにしてたの?

ともあれ、一度は負けたゴジラに対抗し得る武器を手に入れたコング。
ゴジラもそれを見逃しはせず、地上からの熱線でコングに宣戦布告し、地上と地下からメンチを切り合う。

そこからの二回戦が凄い。
ようやく陸上でのバトルが叶う事で、改めて両者の特長が遺憾なく発揮されるのだ。

中・遠距離であれば必殺の威力を持つ熱線で無敵を誇るゴジラ。
コングは持ち前の身軽さと、熱線に対抗しうる斧でゴジラに対抗していく。
近距離であればコング有利かと思いきや、フィジカルや尻尾の力でもゴジラは負けていない。

ネオン煌めく香港の街での戦いはこれまた見応え抜群で、熱線のエネルギーを吸収した斧によるカウンター、というのもまた画が決まっている。

斧の力を用いて、二回戦目はコングの勝利。
海の有利を活かしたゴジラに対し、ゴジラに有効な斧で勝利をもぎ取るコング。状況の差でイーブンに持ち込んだ事で、互いがほぼ互角であり、まだ勝負はついていないのだと思わせるのが上手い。そう、コングは勝ったが、それは半ば斧の力なのだ。もちろん、斧を扱えるのはコングの種族特徴であり、コング自身の強さなのだけど。

三回戦目では、その辺りの補正が切れる。
斧にチャージされたエネルギーが一旦無くなっていたし、互いの素の力が活かされるバトルだった。そしてその最終戦では、ゴジラが貫録の勝利を収めるのだ。

決着の場面がまた良くてね……
コングを踏みつけ「思い知ったか」と勝利宣言するゴジラに対し、「オレはまだ負けてねぇ!」と意地を張るコング。でもその時点でゴジラにはコングがもう限界だと見抜かれていたようで、それでも負けを認めないコングの根性にゴジラは一目置いたように見える。ゴジラが勝ちはしたものの、コングはゴジラに己の実力を認めさせることは出来たのだ。

この描写があるのと無いのとで、コングの見え方は大きく変わる。
戦いに負けはしたけど、コングの心は折れなかったのだ。実力の上で決着はつきつつも、折れなかったからコングの誇りは、輝きは失われない。
なんなら次に戦えばどちらが勝つかは分からないぞ、とまで思わせてくれる一瞬だったと思うし、根性の面では互角以上なのだと理解させられた。

ただ、負けは負けである。
このままだとやはり怪獣の王はゴジラ。
コングはゴジラ先輩が健在な限り番長の座には付けないのか……そう思わせてからの、メカゴジラ戦だ。

完全な力を得て起動したメカゴジラを前に、ゴジラ先輩は追い詰められてしまう。そこに復活したコングが参戦し、ゴジラ先輩を苦戦させたメカゴジラを圧倒していく。

そう。ゴジラ先輩に敗北した一年坊主コングが、ともすれば先輩より強いかもしれないメカゴジラと戦うのだ。

その戦いぶりに認識を改めたゴジラは、後輩を助ける為に斧に熱線エネルギーを送る。そして遂にコングはメカゴジラを打ち倒し、勝利の雄叫びを上げる。

最後には先輩の手助けもあったとはいえ、先輩を倒したメカゴジラをコングが倒した、という結果は変わらない。この勝利によって、コングはゴジラに敗北したものの、ゴジラに匹敵する力を持つのだと改めて描写するのだ。

この流れが良い。
ゴジラとコング、その両者が戦うとなれば、どちらかのファンは辛酸を舐めることになりかねない。ゴジラが勝つにしてもコングが勝つにしても、負けた方のファンからすれば辛い結果なのだ。

そうは言っても、途中で水入りとなって有耶無耶になるというのも考え物だ。ヒーロー同士の戦いならともかく、怪獣は怪獣なので、やはり徹底的に戦ってほしい。

そうした中で、ゴジラVSコングでは勝利の杯はゴジラに渡しつつ、良いところはコングに持っていかせる形で互いの強さをバランス良く描写した。

そして極めつけが、斧を下すコングの姿である。
互いを認め合い、敵でないのだと理解したコングが斧を下すことで、ゴジラもまた怒りを鎮める。優しさを持つコングと、誇りを抱くゴジラ。彼らの結末としてこれほど相応しいラストは無いだろう。

そして戦いの後には、地底世界でのびのびと生活するコングが描写される。
コングは地上の戦いにはもはや首を突っ込まないだろう。けれどそれはゴジラに敗北したからではなく、ゴジラと戦う必要は無いのだと理解しきったから。ゴジラにしても同じことで、自分を脅かす不遜な敵なら打ち倒すのみだが、その意思がないコングに対しては(たとえ自分を倒し得る実力者でも)手を出しはしない。

(人間はたくさん死んだが)ゴジラとコング、どちらかが犠牲になることなく終わったこの戦いは、観た後に強い爽快感を覚えさせるものだった。
殺し合いではなく、喧嘩。あるいは試合。何にしても戦って実力を認め合えば後はノーサイド。どちらに肩入れしてるファンでも納得できるような、とてもいいバランスの描写だったと私は思う。

いやほんと、良いケンカ見してもらいましたわ……


それにしても。
メカゴジラを暴走させた意志って、キングギドラのそれだよね。
一度完璧に敗北した癖に機械化して先輩に挑むとは、ギドラも執念深いなぁ。


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