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白昼夢

最近、小中学校の頃にとても仲の良かった友人と頻繁に連絡を取り合うようになった。

高校に入ってからも別にまったく連絡を取っていなかった訳ではないが、別々の環境にいたので、中学までのように会うことはほとんど無くなってしまった。

逆になぜ大学2年になった今、連絡を取り合うようになったのかと言われたら、お互い生きづらさを感じていたことがきっかけだった。




5月の半ば頃、人間関係で大きな悩みを抱え、酷い鬱に襲われていた私は、睡眠障害に苛まれた。

辛いことは早く寝て忘れようと思って22時に布団に入っても、3時まで一切寝れないこともよくあった。

もう寝れないと思ったときは車を走らせ、1人で大きな田んぼ道に行き、砂利道を寝そべって夜空を見上げたりもした。


ある時、友人も寝れない夜を過ごしていたのか、電話をかけてくれることがあった。

それから2人でドライブに行き、たわいもない話をして気を紛らわせあった。


「性格良くなりたい」


友人がそう呟く。

彼が何を想い、何を考えてその願いを放ったのか深くは分からないが、真っ直ぐを見つめるその目の奥には気持ちが良いほどの真剣さを感じた。


私にとって性格が良い人とは、なんでも寛容に受け入れられる広い心を持つ人のことだと、何となく思っている。

だが、どんなに意地の悪い犯罪者でも、好きな人のことだったら嫌なことでも受け入れられる。

どんなに温厚なカウンセラーでも、嫌いな人に対しては冷たくあしらうだろう。


また、その受け入れられる範囲は、自分のその時の状況によっても変わる。

とにかく暇で自由な時間があるときは基本的に楽しく毎日を送れるし、他の人のことも冷静に聞けるが、切羽詰まるような生活を送っているときは、ちょっとしたことでもイライラしてしまう。


やはり、性格の良さとは、偏には考えられるような問題ではないのだ。

ただ1つ言えることは、今この瞬間の2人には、他人に目を向けられるような心の余裕は無かったのだ。


「性格良いってなんなんだろうな」

結局、答えは出なかった。



昔から、集団が得意じゃなかった2人。

クラスも苦手で、学校を休んで一緒にゲームをしたり、遊びに行ったりもした。

1回だけ、早退してマックで集合しようと言った時があり、2人で保健室に言ったが、なぜか私だけが早退させられ、友人は次の授業からクラスに普通に戻らされていた時もあった。


多分2人とも、あの頃からそんなに変わっていないようだ。


そんな2人は、理想の性格の良い人になれるのだろうか。




5月の終わりの、ついこの間のこと。

学校帰り、どうしようもなく家に帰りたくなかった私は、夜遅くまで1人でファミレスに籠っていた。

店に入ったときは結構人もいて、それなりに賑やかな空間に、私はぽつんと静かに頬杖をつきながら黄昏ていた。

やがて時間は過ぎて人は減り、店が静かになり始めた頃、そこに車椅子の女性と、その恋人らしき男性がやってきて、私の隣の席に座った。

なにやら2人とも真剣な面持ちをしていたので、静かな空間がより一層静かになり、私の席にまで若干の緊張感が漂っていた。

その空気に息苦しさを少し感じながらも、好奇心が湧いてしまった私は、その2人の方へと耳を澄ませた。


「私と一緒にいたら大変でしょ、もういいよ」

女性が潤んだ声で跳ね除けるように言った。

確かに、私は脚には不自由が無いので、女性がどれだけ苦しい思いをしていて、どれだけの苦労を重ねてこの発言をしたのかは分からない。

ただその言葉は、相手のことを考えた優しさで溢れた台詞だったことは分かった。


それに対し、男性は、


「何か誤解させちゃってるかもしれないけど、別に俺は君が可哀想だから一緒にいるとかじゃなくて、ただ一緒にいたいだけの自分勝手なことだから、心配しないで」


そう淡々と言ってのけた。

多くを語らずとも、この男性は素晴らしい優しさを持っていた。

別に2人が普段どういう関係性なのかは知っているわけはない。

もしかしたら女性は浮気をしているかもしれないし、男性はただのヒモかもしれない。

ただ、どんな2人であろうと、今の会話の中には、たくさんの優しさが詰まっていたと、そう感じられた。



その後の会話はあえて聞かず、私は店を出て家路についた。

2人の恋はどんな結末を迎えたのだろう。

上手くいってたらいいな。



そんな2人みたいな、全てを受け止める寛大さが今の私には足りていないのは分かっている。

また、そんな理想を抱き、あたかも今の自分が、この人と同じような寛大な心を持つ人として、客観的に見られようとしていることも自覚している。

それでも、やがて余裕は無くなり、寛大な心を持つ人であることが無性に嫌になるときがある。


自分のことだけしか考えたくないときがある。


このやるせない気持ちが、誰かに届いてほしいときもある。





それでも私は、性格の良い人でありたい。

小さな器を抱え、大きな幻想を今日も描く。

あなたのサポートのおかげで人生頑張れますっ 宜しく頼んますっ