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発見メモ:汚れつちまつたもの、それからアゲハ蝶の世界の話

先日個人的に「へぇ」と思った発見があったので、備忘録がてらにメモをしておく。


その1:『汚れつちまつた悲しみに……』の話

ご存じの方も多いだろう。中原中也の詩の中で、代表作的な扱いをされているのをよく見かける詩である。次点で見かけるのは恐らく『サーカス』辺りだろうか。ゆあーん、ゆよーん、のあれである。

個人的な好みを言えば、他の詩ももっと取り上げてくれても良いんだが……と思うし、最近見かける文豪ネタを軽く覗いた結果「他の詩も見たかったな……」となることも少々あるのだが、まぁそれは置いておくとしよう。というかこれ以上話すと長くなってメモどころではなくなる。

とにかく今回の話題はこの代表作的な扱いをよく受けている詩である。

先日某呟くタイプのSNSで、この詩を元にしたネタコメントを偶然見かけたのだが、汚れた服を前に「汚れつちまつた悲しみに」と呟くコメントを見て、なるほどと思った。

これまでずっと、この詩で「汚れつちまつた」のは「悲しみ」の方だとしか思っていなかったのだ。

何か大切にしてきた悲しい思い出が、時が経って風化したり、何か違う理由で崩れてしまったのだとばかり思いこんでいた。そしてその悲しみに更に雪が積もり、風は吹きすさび……という光景しか思い描いてこなかった。

なるほどそうか、何かが「汚れつちまつた」ことの悲しみという読み方もあるのか。

目から鱗とまではいかないが、たらこ程度は落ちた経験だった。


その2:『アゲハ蝶』の歌詞のすごさ

こちらは一気に時代が近づき、ポルノグラフィティの名曲『アゲハ蝶』の歌詞について。音楽についてそこまで詳しくはないが、まぁこの曲は素人の自分でも名曲と言って差し支えないのではないかと思う。

縁が無くて聞いたことが無いぜ、という方は興味あったら是非聴いてみてください。

この記事を書くにあたり久々に聴いたのだが、やはり格好いい曲である。

間奏の笛っぽい音がまた格好良い。以前たまたまライブ映像を見かけた時はバイオリンがあの音を出していた(恐らくエレキバイオリンだと思う)。『うたかた』の前奏の胡弓風のメロディもバイオリンだった。余談だがポルノグラフィティの歌はバイオリンで主旋律の音が取りやすい曲が多い気がする。


閑話休題。


さてその『アゲハ蝶』の歌詞の話である。先日掃除機をかけながら何となく脳内で口ずさんでいて、おやと思ったフレーズがあった。一番のサビの部分である。

  あなたに逢えた それだけでよかった 世界に光が満ちた

  夢で逢えるだけでよかったのに

  愛されたいと願ってしまった 世界が表情を変えた

  世の果てでは空と海が交じる


このサビの三行目、凄くないか?

この曲を知ったのは言葉にさほど興味を持っておらず、自由帳の見開きで「蛇のとぐろをどれだけ巻けるかな」とかそういったことを全力でやっていた頃だったと思う。そのため当時はただの洒落た曲と歌詞だとしか思っていなかったのだが……

改めて考えると、凄くないか?

何が凄いって、「世界が表情を変えた」という歌詞。

漢字とひらがなで合計九文字。めちゃくちゃシンプル。たったの半フレーズ。

なのに「愛されたいと願ってしまった」せいで、決定的にあらゆるものが変わってしまった感じが伝わる。

しかもその変わり方も、色々な想像が出来るのだ。

ただ単に心が苦しくて仕方ない、これまで「世界に光が満ち」ていたように見えた世界も途端に陰って見えるようになってしまった、といった感じで「自分の世界の見え方」が変わったようにも取れる。

そうではなく、分不相応な願いのせいで世界が自分にとって厳しいものになってしまった、世界に「は?」と真顔を向けられて心臓竦んだ(※比喩表現)、というように「世界そのものが自分に対して狂った」ような取り方もできる。

これはほんの数例に過ぎず。他にも色々な描写を思い浮かべることが出来ると思う。

それでいて、「変わった」ベクトルが絶対に語り手にとってハッピーな方向でないこと、恐らく苦境に陥ってしまったことだろうことは伝わるのだ。

これ、めちゃくちゃ凄い表現じゃないだろうか。

今こうして趣味で文章のようなものを書くようになってから改めて歌詞を見て、このシンプルさでこの描写ができることの凄さに震えてしまった。


メモはそれだけ。

ななようびありがとうさん。



<善吉/Baŋaditjan>


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