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ハレンチ漫画と手塚治虫

今回は「ハレンチ漫画と手塚治虫」というネタでお話したいと思います。

昭和40年代、悪書追放運動などを乗り越えて
ようやくマンガが市民権を得ようとしていた折
再びマンガが非難の的にされたのがこの「ハレンチ漫画」です。

またしてもその渦中に手塚先生が登場するのですが
今回はそんなハレンチ漫画批判の時代を振り返ってみます。

前回の悪書追放動画も併せてご覧になっていただければ
より時代背景がわかり面白く楽しめますので
ぜひご覧になってみてください。

今回の動画は
手塚治虫オフィシャルサイトを参考にしております。


それでは行ってみましょう。



まずはハレンチマンガの歴史を語る上で避けては通れない
「ハレンチ学園」について語っておかないといけませんので
まずはこちらからご紹介しておきますね。

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「悪書追放」運動の熱が徐々に冷めてきた昭和43年に
日本中を揺るがす大事件が起きます

そうです!あの伝説の漫画…
永井豪先生の「ハレンチ学園」がスタートするんです。
このハチャメチャでお下劣な学園コメディマンガ
少年たちの間で人気が一気に炸裂し一大ムーブメントを起こします。

パンチラシーンなどを盛り込んだ本作は
学校でスカートめくりが流行り
社会的に大問題になるほどの衝撃が日本中を駆け巡ります。



まさにディープインパクトですよ。


少年たちは目を輝かせてド頭をカチ割られるくらい興奮し
PTA、教育委員会は目を血走らせて騒ぎ立てるという現象が起きるんです。

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これによりマンガ界に再び悪書追放論争が勃発するのですが…
そもそも有害図書の指定基準は各地方自治体それぞれによって
その見解は千差万別。
つまりは
基準そのものが「あいまい」なんですね。

だからこうした取り締まりに対して、
アーティストやクリエイターたちは「教育者」「PTA」と常に戦い続けることになるんですが…
決めたところでその隙間を縫ってまた新しい表現方法が出てくるので
結局イタチごっこになるのは今もそう変わりませんね。


さて、この「ハレンチ学園」が流行る前のハレンチとはどのようなものだったのかハレンチの歴史を振り返ってみますと…

おそらく日本初のハレンチはこちらでしょう。
手塚先生のライオンブックスの「複眼魔人」
女性の足がなまめかしいというクレームがつき
「手塚のマンガはもう大変」「子供に見せなれない低俗なマンガ」
と言われ不買運動まで起こされたことがあります

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これがハレンチと呼ばれた時代ですから
時代の移り変わりとは恐ろしいものです。


その他にも手塚先生は
前回にもご紹介した「拳銃天使」で日本初のマンガキスシーンを描き
非国民扱いされ物議を醸し出しました。

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「罪と罰」というドストエフスキー原作のマンガでは
いわゆる売春婦を描きこれも大ヒンシュクでPTAからかなり非難を受けています。

だけどこれ売春婦のソーニャを描かないと話が進まないので
描かなきゃしょうがないわけですよ。
物語上しょうがない。


このようにハレンチ漫画の第一人者と言えば
実は手塚先生なんですけど
ハレンチ学園の人気が衰え知らずの状況を見て
「ボクも描けるよ」でおなじみの手塚治虫がハレンチ市場に乱入してきます(笑)。

手塚先生が時代の人気作家に嫉妬するのはもはやお約束…。
ハレンチの第一人者はオレだぞと言わんばかりに繰り出したマンガが
「やけっぱちのマリア」です

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このマンガは初めてキスシーンを描いた「拳銃天使」の時に
実は性教育マンガとして描いていたのですが
出版社で完全にボツになっていたものです。

男女関係を露骨に描いていたため当時はボツになるんですが
そこから約20年ほど経ってついに「やけっぱちのマリア」として陽の目を見ることになります。

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ストーリーを簡単に説明しておくと
主人公・焼野矢八(やけのやはち=通称・ヤケッパチ)の
体から生まれた霊体(エクトプラズム)で、
矢八の父親が作ったダッチワイフを仮の体として使っているという設定です

ダッチワイフって!
これ大人が子供に聞かれたらなんて答えるんですか(笑)

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案の定
掲載した「少年チャンピオン」を有害図書に指定し
不買運動が起き、新聞でも取り上げられ教育委員会から抗議文が殺到した曰くマンガになってしまいます。

これに対して手塚先生は
「やけっぱちのマリア」のあとがきでこう述べています

「ぼくたちが少年漫画のタブーとして、神経質に控えていた性描写が破られて、だれもかれも漫画にとりいれはじめたので、
こんなばかばかしい話はない、こっちはかけなくて控えていたのじゃない、
かきたくてもかけない苦労なんか、おまえたちにわかるものかといったやけくそな気分で、この駄作をかきました。だから、「やけっぱち」というのは、なにをかくそう、このぼくの心情なのです」

…と
つまりは非難の的にされ続けていた手塚先生ですが
実は誰よりも性のタブーについて考えておりそのギリギリをいつも攻めていた事が垣間見れます
それがある日突然、堰を切ったように
ハレンチなものが世に流れ出ることになり文字通り「やけくそ」になって
日本初の性教育マンガを出してきたというわけです。

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それまでずっと自分の中で守り続けていたマンガ表現のタブーラインを
あっさりと否定されてしまい、そんな憤りを「やけっぱちのマリア」に込めて描いたというわけですね

自身も医者という立場から
単なるエロい描写だけでなく生物学的に性描写を描いて
社会に一石を投じたのですが…

あえなく撃沈…


しかしこの「やけっぱちのマリア」連載開始のわずか3週間後
同じく性教育をテーマとした「アポロの歌」の連載を開始

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これはより青少年向けに書かれた性教育マンガでしたが…


やっぱり神奈川県で有害図書に指定されました(笑)


でもこの作品は
生命の神秘、愛や男女関係の本質に迫る「火の鳥」にも通ずる重厚なテーマになっており今読むと非常に優れた傑作です。
生と死、輪廻転生、とにかくすごい、面白い。

これはねまさに時代が早すぎましたね。
当時にしては過激すぎで意味不明ですもん。絶対。
これはある意味で今、この時代に読むべきマンガです。


この後、「アポロの歌」はすぐさまアニメ版として企画が進み
パイロットフィルムを製作しますが
アニメ化には至りませんでした。

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しかし設定を少し変え性教育アニメ「ふしぎなメルモ」として公開されることになります。

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これらを見るといかに手塚先生が性の描写、性教育にこだわりをもっていたのかが伺えるかと思います。
イタズラに性の問題を扱っていないことが分かりますね。


当時はハレンチ漫画だけでなく
劇画やスポ根マンガ、社会派マンガなど、
新しいジャンルのマンガが次々と登場して
凄まじい勢いでマンガ表現が多様化していきました。

その中にあって手塚先生も実に多様な作品に挑戦しています。


この頃には
手塚先生は大人マンガなるもの新ジャンルを描いていくんですが
この時の手塚治虫の性描写は圧巻です。

これまでの鬱憤をぶっ放すように
その変態的な男女関係描写を炸裂させたマンガも描いております。
ハレンチの域を超えた凄まじいものが見れると思いますのでぜひ(笑)


手塚先生はこうしたマンガ表現に対しこう語っておられます。

「マンガの目的は風刺、風刺というのは批判しなきゃいけない
批判して笑いとばすのが風刺
それは反逆精神ですよ、
だからマンガ家は常に憎まれっ子なんです。
そしてアウトサイダーなものはいつかインサイダーになる」

…と


アウトサイダーなものはいつかインサイダーになる
いいですね~。素晴らしい名言!


常に権力との戦いを風刺してきた手塚先生
ほんとその異常なまでの創作意欲は他の追随を許しません。
そしてその切り開いてきた先に今、ボクたちはいるわけであります。


最後に余談ですけど
赤塚不二夫先生の性教育本を紹介しておきましょう。
あのギャグの神様赤塚先生が性教育本を出していたのはご存じでしょうか?

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これはねもうぶっ飛んでますよ。
ボクが今まで見た中で一番ぶっ飛んでます。赤塚先生らしい(笑)

赤塚キャラ総出演で性教育を説明しているんですが
直球で面白い、ほんと直球

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でも赤塚先生は至ってマジメで
「性は面白い」と言ってます。
「漫画家のお前なんかにセックスに触れてほしくないと大人の抗議も聞こえるような気がしますがでも神聖だから面白い」と言っております。

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そしてまえがきの赤塚先生のマジメなコメントがいいんですよ。

「神聖だからこそ、隠しておく、そっとしておく、そういう態度にボクは反対です、男性と女性という二つの性があり混じりあうからこそ人生も楽しいし仕事にも勉強にも意欲が湧いてくるのです。
性のテーマは人間永遠のテーマといっていいほど奥深いものがあります。
その根源ともいえるセックスについて学ばないのは
人間の正しい態度ではありません。」
「ただのエロいものだけをむさぼり読むだけでは人間の精神は成長しません」

…とまぁ
省略してますが赤塚先生のマジメな語りがあるのですが
中身のマンガは赤塚節全開のお下劣ギャグ仕様になっているという
超絶な性教育マンガです。

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絶版なので入手困難なマンガですけど
これは機会があればぜひ読んで欲しいですね
(動画の最後の方でご覧になってみてください)


というわけで今回は「ハレンチ漫画」についてお話しました。
時代の流れを知ることで手塚作品をより深く
楽しめると思いますのでご自身でも調べてみてください。

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