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異常性欲を描いた手塚治虫の問題作「ばるぼら」狂気とエロスな世界観に本能を揺さぶられる!

今回は黒手塚の傑作とも呼ばれる「ばるぼら」をご紹介いたします。
「ばるぼら」といえば手塚作品のなかでも屈指の異色作です


当時の色んなタブーにも挑戦していますし
芸術とエロスが融合した異常性欲者を描いた禁断の問題作であります。

それをなんと
2020年にご子息である手塚眞さんが監督となり
実写映画化されることになりました。

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これを機に原作を楽しんでいただくためと
映画の予習をしていただくために動画をご用意しました。
↓ 音声だけでも楽しめますのでどうぞ。


そして映画公開の予習として
映画の内容もプレミア試写会での反響をまとめてありますので
こちらもどうぞ ↓



今回お届けする内容は

●ばるぼらとはどんな作品なのか?
●ばるぼらの正体とは?
●手塚先生が描きたかったこととは?

を解説したあとに
映画「ばるぼら」はどのような作品になるのか?
こちらを考察していきますのでぜひ最後までお付き合いください。

それでは手塚治虫が描く狂気の世界へ
ではいってみましょう。


●ばるぼらとはどんな作品なのか?


一言で言うなら
「耽美的で退廃的」
手塚治虫の真骨頂である人間の本音や欲望を赤裸々に描いた
「狂気とエロスが共存」したマンガといえます。

あらすじは
耽美派の天才として名声を得ていた小説家・美倉洋介
その小説の著作は海外翻訳でもされ地位名声共に多くのファンを持つ売れっ子作家なのですが…
そんな彼には人知れず抱えている重大な悩みがありました。
それは…様々なものなどに対して性欲を抱いてしまう、
「異常性欲者」であるということ。

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そんなある日、
街の雑踏の中で拾った酔っ払いのアル中の女を自宅へと連れ込みます
酒に入り浸り女としての魅力的な部分など何もない女だけど
なぜか気になる得体の知れない少女…。

臭いし、汚いし、いわゆるロクなもんじゃない女なのに
ひょんな事から彼女は美倉の家に出入りするようなるんです

美倉の金を散財したり、平気で裸になったり、羞恥心に欠けたお転婆娘で
何ができるわけでもなくただ面倒なだけの女だけど
なぜか傍に置いてしまう不思議な魅力を兼ね備えた女

その少女の名前こそがこの物語のヒロイン「ばるぼら」というわけです。

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そしてばるぼらは彼女でもないただの居候なのに
美倉の異常性欲癖の妨害をするようになっていきます
美倉は自身の性癖の邪魔をされるようになり苛立ち
徐々にばるぼらの奇行に耐えられなくなり
いよいよ彼女を追いだしてしまいます。


すると不思議なことに
ばるぼらが居ないと作品が書けなくなっていくんです。
徐々に落ちぶれていき全く作品が書けなくなってしまうんですね。

確かにばるぼらが側にいるおかげで書いた小説は
あっという間にベストセラーになった…。

そんな疑問からぼるぼらの秘密を探ってみると
彼女の正体は、芸術家を成功へと導く女神(ミューズ)の末っ子であり、魔女であることが分かります。
彼女と出会った人は、
必ず成功を収めることになるという伝説の魔女だったんです。


正体を知られたぼるぼらはそこで初めて美倉の前で女を見せます。
仮面を脱いでついに美しい成熟した超絶美貌の女の正体を現すんですね。


やがて美倉はばるぼらの魅力を認識するようになり
ばるぼらとの結婚も決意します。

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しかしこの結婚式に邪魔が入り失敗に終わります。
この結婚の失敗を境にばるぼらは美倉の元を去り
2人の運命を分ける別れとなってしまうんです。

彼女に見捨てられた美倉はスランプに陥り地の底へと落ちていく。


あらすじはここまで…


この後
不思議で衝撃的なラストは、ぜひご自身の目でお確かめください。


ばるぼらはどこへ消えてしまったのか?
ばるぼら亡き後、美倉はどうなってしまうのか?

そして
狂気の中で美倉は小説を書きあげるのですがそこには衝撃のクライマックスが展開されます

というのがばるぼらの大まかなあらすじとなります。


●ばるぼらの正体とは?


さぁこの掴みどころのないばるぼらの正体なんですが
本編では魔女として描かれておりますが
これはミューズ(芸術の女神)
つまりここで表現されている欲求は「創造、インスピレーション」

作家、芸術家であれば一度は手に入れたいと望む「発想」のことを表していますね
アーティストはみんな「ばるぼら」を求めているんだという表現をマンガ化した作品ということです。

そしてここがポイントですが
ばるぼらの本質は常人には理解できない事ということでしょう。

本編のばるぼらの奇怪行動も常人には理解しがたく
これは常識人にとっては理解できない存在であるというメッセージだと思います。

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手塚先生の行動も当時の常識人にとってはとても理解しがたかったと言われています。

殺人的なスケジュールに今でいう超絶なブラック企業体質
そして当時コンビニもない時代に夜中にメロンが食べたいと駄々をこねたり
破天荒なエピソードが数多く残っています。

この常人では理解しがたいものが「ばるぼら」の本質なんじゃないでしょうか。
ちなみに美倉の異常性欲も世の中から理解を得ることは難しい特殊な設定として描かれていますね。

手に入れたいのに掴みどころのない存在
そしてそれは常人には理解しがたいもの
それこそが「オリジナリティ」であり「発想」「創造」の根源であるというメッセージでしょう。


ラストの、ばるぼらが去ってそれを追う美倉の設定なんかは
まさにアイデアがなくなった作家の苦悩する姿ですもんね。

まさに
「魔女に魂を売っても才能を手に入れたい」と望む作家の欲求を表していると言えます。

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手塚先生には「アイデアはバーゲンセールするほどある」という名言があるんですがその溢れ出るアイデアの才能に恵まれた源は
周囲から奇人変人と見られ続けた代償の才能なのかもしれませんね(笑)


●手塚先生が描きたかったこととは?


これは、ラストに絡んでくるんでちょっとネタバレしますが
ラストに潜む展開はある意味で「芸術とはなんだ?」を問いかけるメッセージが入っています。

芸術的な価値ってなに?
それは有名になること?
売れること?
評価されること?

はたしてどこに答えがあるんだろう?

という問いです。

作品全編において西洋哲学思想や退廃的な芸術論が盛り込まれており
現にぼるぼらは英語、フランス語でも出版され世界中にコアなファンを持つカルト的人気作です
そんな
手塚治虫の芸術観が散りばめられたメッセージを読み解いてみると面白いと思います。
跡にも触れますがこの映画の撮影監督は
作品の世界観を表現するためにあえて海外の映像監督を起用しているあたり
ご子息の眞さんもこの芸術的視点を大切にしているのだと思います。

そしてこの芸術論と併せて、やはり「ばるぼら」の存在がポイントですね。

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(原作を読んでいてもなかなか解釈の難しい存在なのですが)
作家からみたばるぼらの存在は「発想」「創造」の類でした。

では作家でもない我々素人の目線の場合「ばるぼら」というものをどう見るといいのか。
これは「ばるぼら」「欲求」というものに置き換えてみてみるとより分かりやすくなると思います。

ばるぼらを追い求める姿は「欲求」を求める姿に酷似しています
そうやってみてみると
人間の奥底にある欲求の渇望、人間の心の内面をゴリゴリにえぐられてくると思いますよ。

欲求への向き合い方が可視化されるんで
より身近に「ばるぼら」を感じられると思います

手塚先生の描きたかったものとはこの「欲求」への向き合い方、寄り添い方
そういったものがテーマになっている作品なんじゃないかなと思うわけであります。


しかしこの異常性欲、歪んだ性癖、エロティックサスペンス、芸術の葛藤など、そうした人間の心の内面を描かせると手塚先生は絶品ですね、
まさに唯一無二です。

耽美的で退廃的
猟奇的でエロティックな文学作品にも匹敵する手塚作品の傑作「ばるぼら」
ぜひ一読されてみてください


●そんな傑作を映画化したらどうなるのか


2020年に公開が予定されております。
実は2018年に撮影を終えており、2019年末に先行上映されておりまして
さぁ公開となった矢先のコロナ騒動があり公開が遅れております
おそらく2020年の秋ごろだろうと予測されておりますが実際はわかりません。

ですので今のうちに予習しておきましょう。

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主演は稲垣吾郎さんと、二階堂ふみさんが演じています。

禁断の愛とミステリー、芸術とエロス、スキャンダル、オカルティズムなど、様々なタブーに挑戦した問題作である本作のキャスティングは
過激な描写があるので色々な方に断られて難航したそうですが
お二人はすんなりOKしたそうです。


本作で多くの濡れ場に挑んだ2人のキャスティングについて手塚眞監督は
「日本の俳優の方々は、裸体を見せることに対してシャイな人が多いので、
脚本を読んだだけで『これはできません』と非常に多くの方に断られました。
稲垣さんと二階堂さんは、作品の持つ意味や、誰が作るかということを理解して引き受けてくれました」と話しています。


手塚眞監督も「非常にミステリアスでエロティック」「普通の映画より肉体のコンタクトが多い」
と語っているように手塚作品の真骨頂であるエロチシズムが
本作では損なわれないように製作されたようでファンとしても
原作がどこまで再現されているのか気になりますよね。

しかし手塚監督はこうも語っています

「『原作そのままである』ことが、必ずしも良い実写化だとは思いません。
漫画の名場面や核となる要素は残しつつも、監督の考えをしっかり反映させる必要があります。
しかし、まったく元の漫画と離れてしまっても原作ファンの方ががっかりしてしまうので、バランスが大切ですね」
と。

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そもそも手塚眞監督はインディーズ映画作品を得意としているだけに
原作の雰囲気を残しつつ
コマーシャル的な商業映画ではない
尖った世界観を見せてくれるのではないかと思います。

「エロティックはネガティブではない」とも仰っているように
エロチシズムこそ手塚作品の真骨頂だという遺伝子は必ず表現されていることでしょう。


これには撮影監督の抜擢にも表れています。
撮影監督にはその唯一無二の映像美で定評のあるクリストファー・ドイルを起用しています。

クリストファー・ドイルといえば女優を美しく撮ることに長けた
世界高水準のクオリティと非常にスタイリッシュなアート・シネマ
に定評のある撮影監督です


実際手塚監督は
本作についてエロス、オカルティズムが交錯する過激な作品でありヌードシーンも多いため
男女を美しく撮ってほしかったといった理由も挙げております
この経緯から見ても映像美においてかなり意識していることが伺えます。
美を最も価値のあるもの、
美的なものを追求する耽美的な作品であることへのこだわりを感じさせてくれますよね。


そして2人のコメントも紹介しておきましょう。

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稲垣さんは
「耽美的で退廃的で演じていた時は夢のようで、あれは本当に現実だったのか、と思うほどです。
壊れゆく時にしか出せない色気、尊さが出ているのではと思います」
とコメントしております。

う~ん。素晴らしい。壊れゆく色気って表現いいですね。実に詩人っぽい表現です。

続いて二階堂さんは
「稲垣さんには文学を感じる方というか、初めて難しい本を手に取った時のような感覚。」
稲垣さんの作家への役作りを絶賛しています。

とにかく先行で観られた方の感想の中でお二人の役に対してのこだわりがスゴイと絶賛の声が多数挙がっていました。

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美倉演じる稲垣さんの変態性
ばるぼら演じる二階堂さんの妖艶さ
これまで観たことがない衝撃の体当たりな演技に
二人ともセクシーで芸術的だったと高い評価を得ています。

これはめちゃくちゃ期待できますし公開が非常に楽しみですよね。

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原作の香りを残しつつ手塚治虫の血統を最も濃く受け継いだ眞監督が描く
現代版「ばるぼら」

芸術とは何か、創作とは何かというテーマに
エロスやオカルティズムが入り組んだ圧倒的世界観の本能を揺さぶられる問題作

期待せずにはいられないでしょう。


というわけで
公開前に原作の予習をしておきたい方は今ならコチラがおすすめ。

『ばるぼら オリジナル版』です。


『ばるぼら』を雑誌連載当時のまま復元した「オリジナル版」
過去の単行本に収録されなかったトビラや削除されたページなど全て連載時のまま復元。
単行本化の際に改変されたり削除されたセリフも全てオリジナルに戻している最高の復刻版です。

サイズはB5判なんでめっちゃデカイですよ。迫力が違います。

しかもこの復刻版のすごいところは
最新のデジタルスキャンで版を起こし、
最盛期の流麗な手塚タッチを雑誌掲載時をはるかに超えたクオリティで完全再現しておりなんと製版のための原本には手塚治虫の生原稿を使用するこだわり

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さらに手塚作品お得意の
単行本化の際に削除されたページも完全収録されております。
そして
変更されたセリフもオリジナルのままに完全再現

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手塚先生の意図した修正や時代背景によりカット、修正されたものを
この時代に復刻できるのはかなり貴重です。

当時の原稿と修正版の違いを見比べてみるのも
楽しみにのひとつですよね

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また巻末には手塚作品お得意の
全集未収録と単行本初収録の大人向けダークファンタジー短編を5編が収録されています。
こういうのズルいですよね
ファンなら欲しくなっちゃいます。

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そしてさらに
有識者による詳細な解説と分析コメントも掲載されているようです
こういう他者の手塚作品の読み解き方も
興味深いし面白いですよね。

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ばるぼら 1 Kindle版


原作だけ読めればいいという方はキンドルで無料公開されておりますので
ぜひチェックしてみてください。


というわけで今回は手塚治虫屈指の異色作「ばるぼら」のご紹介でした。


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