二十歳のころ 第五十八章

グレイハウンドのバスに乗ってコフスハーバーに到着する。コフスハーバーはビーチ沿いの町である。観光地でもなければ都市でもない。僕は床屋を見つけ髪を切った。そして散髪の後僕は海岸を歩いた。
コフスハーバーを後にし、サーファーズパラダイスに向かった。いつものように一人で僕はバスに乗っていた。すると隣の席に日本人の旅行者がいる。ヒッピー風の長髪の若い旅行者でお互いに何となく話を始めた。彼もワーホリであった。彼はシドニーから入り、コフスハーバーのバックパッカーズで手伝いをしながら旅を始めたという。
僕もワーホリだと告げ旅の経緯を話した。そして今は住むところと働ける場所を探していることを話した。彼は僕の話に感心した様子だ。彼は僕を兄貴分のように慕ってくる。決して悪い気分ではなかった。彼は提案してくる。
「もし構わなければ一緒に旅をしてもいいですか?俺、英語も話せないし、一緒に旅してくれると助かります。」
僕は旅に出てから基本的に一人で旅をしていた。旅先で友だちを作ったりしていたが原則的に一人旅であった。何人かのワーホリに誰かと一緒に旅をしないのかと尋ねられたこともあった。僕は別に一人旅にこだわっていなかったが自然と自由に動ける一人旅を選択していた。僕は海外に来てまで同じ日本人とつるんで旅をするのはどうかとも考えていた。だが僕は一緒に旅をしませんかと頼まれたら断る理由もなかった。
僕はいいよと答えた。
サーファーズパラダイスにバスは到着する。僕はいつものように宿を観察して、宿を決めようと思っていた。しかし彼は客引きの見せるチラシから一番安いバックパッカーズを選び、ここにしましょうと強引に決める。僕は仕方なく彼の後についていく。
案の定であった。バックパッカーズは不衛生である。日本人のサーファーとすれた感じの日本人の女性のワーホリ、不良オーストラリア人が長期滞在をしていた。彼らはマリファナの入手方法の話をした。日本人の女性のワーホリは交際しているオーストラリア人について話をした。生々しかった。僕には彼らが退廃しているように見えた。僕は輪に入らないように寝る時以外は席を外した。しかし連れの彼は大人しくしていたが彼らの輪に加わっていた。彼は僕とは違うのだと思った。
僕らはサーファーズパラダイスに一泊しただけでゴールドコーストに向かった。これは僕が強引に決めた。僕はバックパッカーズで出会ったサーファーの仲間には加わりたくなかった。それにはまず離れることだ。
連れの彼はどこへいくにも僕がいなくては駄目であった。僕は不自由さを感じた。昼間は別行動をして夜にバックパッカーズで落ち合おうよと僕は提案した。彼はその提案を断り、僕の後についてくる。それにもかかわらず飯や宿はここにしないかと意見を述べる。意見を述べるのは良い事だが彼の基準と僕の基準は違う。彼の基準はとにかく安ければいいという一点に絞られる。僕の場合は多少高くても快適さや美味しさを求める。僕はいらいらしてきた。
彼と話すたびに価値観が違うという事に気づかされた。僕は女を買わない。女を買った経験もない。オーストラリアでもその方針を守ろうと思っていた。彼はインドを旅した経験があって女の安さを強調した。そしてオーストラリアでも女を買おうと思っていると話をした。旅のスタイルが違うのだ。
僕はブリズベンに着いたら彼と別れてシドニーに戻ろうと考えた。
僕らはゴールドコーストで二泊した。連れの彼がいるので観光するしかなかった。僕は彼にブリズベンに着いたらシドニーに戻るという決心を打ち明けた。彼は何故と僕に尋ねた。彼にはシドニーに戻るという考えはなかったようだ。頼り気なさそうな顔つきだ。僕はこのまま一緒に旅を続けていては仕事もフラットも見つからないと説明した。彼は不安そうな顔を浮かべた。僕は君なら大丈夫だよと声をかけた。自分も最初は不安だったよと慰めにならない声をかけた。そして僕らはブリズベンで別れた。

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